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第35話 わ

 中標津先生の声と同時に画面が切り替わった。


 表示された作品は、砂埃を巻き上げる一台の車だった。


「聖路加伝高校1年 萬屋乃愛さんの作品です」


 会場に拍手が響く。


 そういえば乃愛はどこだろうと思い、大勢の体が向いている方に視線を移す。


 拍手の渦の中心にいた小さな美術家は、両手で顔を覆っている。


 きっと、泣いちゃってるな、あれは。


 よかったね、乃愛。


 ハンカチ貸してあげたいけど、ここからじゃ、ちょっと無理だ。


 私も目の奥が熱くなってきてしまい、ぐっとこらえた。


「次に第2位です」


 先生の声で、会場が瞬時に静まり返る。


 講義室が凪ぐ。


 パッ、と画面が切り替わる。


 画面は、真っ白だ。


「第2位は、該当なしです」


 私の頭も、真っ白だ。


 どういうこと?


「奇跡のような偶然が起きました。投票数が同数のため、1位が2名、ダブル優勝です」


 会場がざわつき、それは次第に大きくなっていく。


 いいようのない期待感と緊張感が、段々の座席に座る全員を包み込んでいた。


「それでは、栄えある優勝作品を、ご覧いただきます」


 心なしか、中標津先生の声も、いつもよりも熱が入っている気がした。


 先生は、結果を知っているんだろうか、知らないんだろうか。


 また、間があいた。


 パッ、と表示された作品は、馬だった。


 思わず「あっ」と声が出る。


 あれは、みのりの絵の隣に展示されていた絵だ。


 次いで悲鳴のような声が響いた。


 声の主は、と目を向けると、みのりにライバル宣言をしていた、あの筒巻杏奈だった。


 あの人が……


 と、いうことは……


「そして、もうひとつは」


 パッ、と画面が切り替わり、そこに現れたのは、やっぱり、あの梟だった。


 私は反射的にみのりを見る。


 親友は鼻と口を手で覆って、目元をぎゅっと抑えていた。


 そして、指のダムはあっけなく決壊してしまって、大粒の涙がぽろぽろ流れた。


 会場中から、ふたりの画家に拍手が贈られた。


「それでは、ここからは、選出したご本人からの発表になります」


 中標津先生はそう言って、ゲスト席を手で示した。


 さっき竹浦校長が使ったマイクが、画家の地井氏に渡される。


 受け取った地井氏は、何事かを学長と校長に呟いた。


 二人はごにょごにょ相談し、地井氏に頷いて返した。


「それでは、僭越ながら、私からも特別賞を贈らせていただきます。

 ただ、先に申し上げておきますと、今の発表とは関わりなく選んでしまいましたので、そこはみなさんにご了承していただきたい」


 地井氏が、どうぞと言うと、画面が切り替わった。


 切り替わったが、そこに表示されたのは、また、梟だった。


「これは……」


 中標津先生が疑問を呈する。


「申し訳ない。優勝作品を、あらためて私も選んでしまいました。

 優勝および特別賞ということで、お願いしたい」


 地井氏の言葉は、みのりの涙腺を直接揺さぶってしまったみたいだ。


 グドコーの美術部員から、本当に講義室の窓ガラスが割れるんじゃないかという勢い拍手が贈られる。


「あ~、一言口を挟むと……」


 発足学長がマイクを握っていた。


「特別賞は、今朝の時点でゲストのお三方にお願いしました。

 優勝作品とは別の作品を、とも思ったのですが、芸術の世界は、真に人の心を揺さぶるものが上澄みのように人の目に触れ続けます。

 そこには、忖度や教育的配慮が入る余地はない。

 私もあとふたつの特別賞の行方は聞いていませんが、もしかしたら、白神みのりさんの作品が特別賞を3つとも総なめしてしまうかもしれません。」


 学長が話すうちに、会場が静まっていった。


「それでは、次にリー氏にお願いします」


 マイクを渡されたリー氏は、立ち上がってお辞儀をした。


「どの作品も非常にレベルが高く、日本の高校生には驚かされました。

 そして先に申し上げますが、私が選んだ作品は、まだ登場していないものです」


 その一言で、会場の緊張の質が変わったのが分かった。


 もしかしたら自分かも、という緊張だ。


 恥ずかしながら、私も、もしかしたら、と思ってしまう。


 思わず、机の下で指を組んでしまう。


「こちらの作品を選ばせていただきました」


 画面が切り替わる。


 表示された作品は、いわゆる抽象画だった。


 見覚えがある。


 告げられた名前は、グドコーの副部長の名前だった。


 隣り合って座っていた部長と抱き合っている。


 そのまま見ていいものやら、私は迷ってしまって、とりあえず見ないような見るような、視線をごまかしながら拍手を送った。


「それでは、最後は私から」


 そう言って、青いスーツの缶野氏が立ち上がった。


「たいへん面白い作品でした。

 作品から、そのままストーリーが見えるように感じられた。」


 缶野氏は、そう言ってから、パチンと指を鳴らした。


 本当にアレやる人いるんだ、と驚いたが、その驚きはすぐに上書きされた。


「わ……」


 わ た し の だ。


 隣のみのりに抱きつかれた。


 あとのことは、なんだかよく分からなかった。


「それでは、受賞者の皆さんは、その場に起立して下さい。」


 それからのことは、私の脳がうまく処理しきれなかった。


 とりあえず立って、会場に拍手が響いた。


 私も含めて、受賞者が前に出させられて、一段高い壇に乗った。


 一言求められて、乃愛が、杏奈が、みのりが、副部長が何か言って、私もたぶん、何か言った。


 ふわふわした感じがずっと続いて、中標津先生がエンディングの終わりを告げてからも、私はすぐに立ち上がれないでいた。

作者の成井です。


今回のエピソードをお読み頂き、ありがとうございました。

「面白い話だった」「続きも読んでみよう」と思って頂けたなら、

下の☆☆☆☆☆欄で評価していただけると幸いです。


では、また。

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