第34話 ついさっき
17時になった。
「ほんとだ」
「アクセスできなくなった」
あちこちでそんな声が聞こえてくる。
最終日の17時が投票締め切りということは聞いていたので、なるほど、と私は思った。
私も含めて、グドコーの美術部員全員と、ルカデンの美術部のおそらく全員が、会場に集合していた。
「作品の撤去は、明日の昼からになります」
中標津先生が口を開いた。
「今、最終集計作業に入っているとのことなので、30分後くらいに結果が分かるでしょう」
集まって円陣を組んでいる美術部員が、口々にざわつき始める。
中には、にやにや笑みを浮かべる人もいれば、涙を目にためている人もいる。
その円陣の外から、部員ではない誰かが走り寄ってきて、中標津先生に何事か耳打ちをした。
先生は頷き、咳ばらいを一つして、全員の方に向き直った。
「結果発表は、隣の建物の大講義室で行うそうです。
学長を始め、外部の方もいらっしゃっているとのことなので、そのつもりで」
私は口を閉じたままみのりを見た。
みのりは小さく頷いた。
移動の号令がかかってから、私とみのりはスッと近づき、一緒に歩き始めた。
「どう思う?」
みのりが言う。
「みのりの優勝だと思うよ。あらためて全部の作品をゆっくり見たけど、やっぱりレベルが違うと思う。その、仲間内のひいき目抜きにして」
私が本音を言うと、みのりは微笑んだ。
「そうだといいな、と思うけどね」
含みのある言い方だな、と思ったが、私は後は何も言わなかった。
見慣れない校舎の見慣れない廊下を通って、私達は大講義室に到着した。
段々になったたくさんの座席が広がり、正面には上下を入れ替えられる大きな黒板が3セットもあった。
黒板の前には、これもまた大きなスクリーンが設置されていて、「合同展覧会結果発表」という字が表示されている。
視線を横に移すと、グドコーの学長、ルカデンの校長、和装のおじいさん、白いスーツの女性、青いスーツの男性が、いかにも偉そうな雰囲気で座っていた。
会場に到着した面々が、思い思いに着席していく。
普段の学校生活とはまるで違う雰囲気に、私は緊張した。
きっと、他の人も同様なのだろう、誰も口を開かない。
静寂が会場に満ちる。
前の方にいた中標津先生が、またさっきの人の耳打ちを受けて、頷いて、立ち上がった。
そして演台まで歩き、マイクに触れて、音が入ることを確認した。
「あ、あー……それでは、これから、求道高校と路加伝高校の合同美術展のエンディングセレモニーを始めます」
前の座席のお歴々が拍手を打ち鳴らし、慌てて会場中の全員が喝采に参加した。
「先立ちまして、求道学園の学長よりお話を賜ります」
先生の言葉を受けて、学長がゆったりと立ち上がり、正面中央に立った。
「各校美術部のみなさん、大変ご苦労様でした。
君達の作品のレベルの高さが、両校初めての合同展覧会にふさわしいばかりでなく、予期せぬゲストをお招きすることにも繋がりました」
学長は、そう言って視線を移した。
「皆さんもよくご存じの、路加伝高校の校長、竹浦については、説明の必要もないでしょう。なぜ、美術センス皆無の奴がここに座っているのか、はたはたミステリーではありますが……」
学長がそう言うと、竹浦校長はどこからともなくワイヤレスマイクを取り出した。
「ひっこめ発足~。帰れ発足~。脳みそ筋肉~」
これに学長が言葉を返し、それにまた竹浦校長が言葉を返す。
その様子は、まるで子供同士の口喧嘩だ。
普通に考えれば、それぞれの学校の長がこんなやりとりをすれば、笑っていられないのかもしれない
でも、なんだか、仲の良さがそのまま形になったようなじゃれあいに、私はつい笑ってしまった。
隣のみのりも、前の席の子も、やがて会場中全体が笑いに包まれた。
さっきまでの言いようのない緊張感は、笑い声に押されて退室してしまったようだ。
「んん……」
ん、に濁点が付いた咳ばらいをしたのは、中標津先生だった。
「これは失礼。気を取り直して、ゲストの紹介をしましょう」
そう言うと、学長はマイクを外して持ち、和装の老人に歩み寄った。
「この方については、ご存じの生徒もいるのではないかな。
グドコーの卒業生であり、現在はプロの画家として活躍しておられる地井氏です」
紹介され、地井氏は立ち上がり、ゆっくりと礼をした。
確か、春展でみのりの絵を評価してくれた人だ。
そう思って横目でみのりを見ると、同じく横目のみのりが小さく頷いた。
「次は、リー=チー氏です。台湾出身のアーティストで、世界中で個展を開いています。今回、来日中に偶然展覧会の話を聞き、足を運んでくださいました」
白いスーツのアーティストは、先の二人と同じように立ち上がり、礼をした。
「最後は、缶野氏です。彼は美術制作会社の代表を務めており、若きアーティストの発掘に精を出しております。テレビドラマや映画、舞台など、多方面で活躍しているので、君達が見たことのある作品のスタッフロールに、実は何度も登場しているはずです」
青いスーツの缶野氏は照れたような表情を浮かべて立ち上がり、軽く礼をした。
「豪華なゲストをお招きして、このようにエンディングを迎えられたことは素晴らしいことだ。
さて、そんな話をしている内に、集計の確認が終わり、発表の準備も整ったことでしょう」
学長がそう言うと、スクリーンに表示された画面が切り替わった。
クラシック調の曲が流れ、次々と画像が切り替わっていく。
作品を撮影したものと、展覧会中の様子の写真とが次々と表示されていく。
それどころか、どうやらそれぞれの学校での制作中の様子の写真もあるらしかった。
写された本人なのか、友達なのか、笑い声があちこちで花開く。
画像の中には、乃愛のものもあった。
話しているときには見せなかった真剣な表情がそこにある。
乃愛の作品が映写されると、心なしか、会場にどよめきが広がったような気がした。
それでも画像はどんどん変わっていき、みのりの作品や、私の作品も無事に映し出された。
そして、どれくらいの時間が経ったのか、最後に画面は「投票結果」という文字を表示した。
「それでは、いよいよ結果発表です」
いつの間にかマイクを持ち直していた中標津先生の声が響いた。
「発表は、第3位、第2位、第1位、そして特別賞の順です」
特別賞? と思い、思わず首を傾げる。
「発足学長からご紹介があったように、今回の展覧会では3人の著名なアーティストにお越しいただきました。そこで、急遽、お三方の評価が高かったものに、それぞれ審査員特別賞を設ける運びとなりました」
中標津先生が、そう言いながらゲスト席を見る。
発足学長と竹浦校長が笑いながら頷いている。
「たぶん、ついさっき決めたんだろうね」
私がみのりにささやくと、みのりはクスッと笑って「そうだね」と言った。
「それでは、第3位です」
作者の成井です。
今回のエピソードをお読み頂き、ありがとうございました。
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では、また。




