第33話 338
合同夏展の期間が半分を過ぎて、投票数の中間発表がなされた。
とはいっても、全体の中でどれが一番になっているか、ということを教えてもらえるわけではなく、自分の作品に対してどれくらいの票が投じられているか、という報せだった。
私のスマホに届いた数字は「338」だったが、これが多いのか少ないのか、判断できない。
近くに誰かがいれば、勢いで「どうだった?」と聞けそうなものだが、今日は自分が会場にいる時間の担当がなく、家の居間には妹の日和すらいない。
私はスマホを操作して、みのりのページを開く。
テストの点数だったら、返却されてすぐに二人で見せ合ったり、指で数字をつくって静かに教え合ったりしているが、これは聞いてもいいものなんだろうか。
悩んでいると、メッセージがポップアップした。
乃愛からだった。
「どうでした?」
目をキラキラさせた乃愛の顔が浮かんで、笑ってしまう。
遠慮がないのは、図々しいからというよりは、彼女の純粋さのせいだろうという気がした。
「乃愛が教えてくれたら教えてあげる」
こう打ちこんで、すぐに消して、書き直した。
「338だって」
もしかしたら、乃愛の数字が圧倒的に多くて、完敗しているかも知れない。
でも、それを隠したところで私の数字は増えないし、うらやんだところで乃愛の数字が減るわけでもない。
「私は403でした」
おっ、と声が出た。
接戦、と言っていい気がした。
「このままじゃ、乃愛に負けちゃうな~」
私がメッセージを送ると、乃愛からすぐに返信が来る。
「ルカデン生がたくさん行っているから、っていうだけかもしれません」
文のすぐ下に、うなだれた熊の画像が表示される。
「グドコー生もたくさん見たし、それはお互い様だね」
言葉を紡ぎながら、頭にはみのりの書いた飛び立つ梟の絵が浮かんでいた。
プロにも認められるくらいの技術だ。
どれくらいの票を獲得しているんだろうか。
私は思いきって、みのりに直接聞くことにした。
「338でした」
送信すると、みのりよりも先に乃愛の返信が届く。
「でも、ルカデンの中にはもっと票を獲得している人がいるらしいです」
「どうして分かるの?」
私がすぐさま返信を打つと、乃愛の反応も早い。
「部長が、何人かに聞いてまわっているみたいで。
一番多い人は、1000を越えているとか」
1000。
私の3倍くらいか。
これは、私の最多得票は、なさそうだな。
「979でーす」
画面に、みのりのメッセージが表示された。
ということは、現状ではみのりも1位ではなく、仮にみのりがグドコーの1位だとすると、学校対決としてはルカデンが勝っている、ということになるんだろうか。
別に学校対抗という枠組みに興味はなかったはずだったが、こうなってくると、不思議と対抗心が目覚め始める。
「コメント見た?」
みのりのメッセージを見て、私は意味が分からず、それを問う。
「何それ?」
「画面を下にスライドしていったら、コメント欄があったでしょ」
何度か画面をタップして、数字が表示された画面に戻る。
そこから下にスクロールしていくと、なるほど、いろいろな人の感想が表示されていた。
「走っている感じがして、いいと思いました」
「かわいかった」
「スカートの中まで造形されていなくて残念」
「ショートヘアではなく、ロングヘアの方が躍動感を出せたのではと思う」
「不思議な質感だったので、一票入れました」
胸にぐさりと刺さる辛辣なものもあるにはあるが、それでも票を入れた上でコメントを書いてくれていると思うと、文句は言えない。
「見たよ-。おもしろいね」
私がメッセージをつくっている内に、今度は乃愛から文が届く。
「そういえば、コメント欄、見ましたか?」
もういっそのこと、この3人で落ち合った方が早いんじゃないかという気がしてくるが、とりあえず今は頑張って文をつくるしかない。
「見たよ、おもしろいね」
あっちこっちと話して、しかも終わりが見えないので、こういう画面越しのやりとりはそこまで好きになれないのが正直なところだ。
私はそこからも、みのりと乃愛のふたりを相手に、画面を変え替え、複雑なコミュニケーションの網をくぐったり引き寄せたりした。
「長々と失礼しました、ではまた明日」
乃愛のメッセージが表示され、手を振る熊の画像がすぐ下に表われた。
私も愛用の「バイバイ」の画像を送って返した。
「そういえば、今日、穂積くん来てたよ」
不意に表示されたみのりの言葉に、私はつい身を乗り出してしまった。
どうして私が当番じゃない日に限って行ってるんだ、あいつは。
「とある立体物を熱心にご覧になってございました」
みのりのメッセージの下に、ニヤニヤ笑う猫の画像が飛び出す。
「お客様、どなたの作品か心当たりがございますか、って声かけたら」
その文の下に、また同じ猫が顔を出す。
私は次の文を待って、つい、両手でスマホを持ってしまう。
「たぶん、とおっしゃっていました」
ふーっ、となんだかよくわからないため息が出た。
「どうせなら、私がいるときにすればよかったのに」
私が打ち込むと、みのりの返信は早かった。
「小麦がいたら、作品に集中できなくなるからでしょ。
小麦に夢中になっちゃうから」
今度は、瞬間的に息が止まる。
「はいはい、そうかもね」
私はそれだけ打ち込み、リビングのテーブルにスマホを置いた。
なんにせよ、あと少しで終わるんだ。
夏展も、私と穂積の、今の距離も。
優勝した勢いでストレートに告白出来れば、と甘い夢を見ていた部分もあったが、どうやらそれは難しそうだ。
どうやって、穂積に想いを伝えたらいいだろう。
残り三日で、その答えを出さなくっちゃ。
作者の成井です。
40話まで行く予定でしたが、もう少し早く完結する運びとなりました。
ここまで読んでくださった方、あと少しお付き合いください。
今回のエピソードをお読み頂き、ありがとうございました。
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では、また。




