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第31話 お互い、頑張ろうね

「それではみなさん、良い夏休みを」


 担任が言い終わるや否や、教室に歓声が沸いた。


 同じような声が、すぐに隣のクラスからも聞こえてくる。


「小麦、頑張ってね」


「夏展、見に行くから」


「俺等も行くからな」


 教室を出る際に、たくさんのクラスメイト達が声をかけてくれた。


 学期末のホームルームで配付されたプリント達の中に、グドコー・ルカデンの合同美術展覧会のチラシが含まれていたためだろう。


 私達のクラスでは、お調子者の男子が担任を焚きつけて足を運ぶことを約束させたことも、大いに影響したのだと思った。


「気合が入っちゃうね」


 私の言葉に、みのりは大きく頷いた。


 廊下に出ると、私達を待っていた様子の灯里と目が合った。


「いよいよ、明日からだね。これから展示に行くの?」


 私は頷いて応えてから、言葉を次ぐ。


「大きな作品もあるから、みんなでバス移動だよ」


 灯里はそれを聞くと、スマホを取り出して何やら操作をし、私達に画面を向けて見せた。


 そこには「合同展覧会投票ページ」と表示されている。


「さっきもらったプリントのQR、もうやってみちゃった」


 灯里が笑いながら言う。


「ここからさらに作品のQR読んだら、投票出来るんでしょ。面白いよね」


 私もみのりも頷いて笑った。


 詳しい仕組みは分からないが、個人が同一作品に何度も投票出来ないようになっているのだという話は聞いていた。


「でも、ふたりの作品に投票するかどうかは、見てから決めるからね」


 私とみのりはお互いの顔を見合わせてから、あらためて灯里を見て口を開く。


「もちろん。完成した作品がすべてだもん」


「私達以外の作品だって、いいのはたくさんあるからね」


 灯里は了承し、颯爽と体育館に向かって歩いて行った。


 話をしている内に穂積が来ないかな、と期待していたが、どうやらクラスの中で談笑しているらしく、声は聞こえても姿は見えなかった。


「行こっか」


 みのりの言葉にせっつかれて、私は美術室に足を向けた。


 私もみのりも、作品の梱包は昨日の終了時点で済ませてあったので、あとは運び出すだけだ。


 ただ、部員の中には現地での組み立てが必要な人や、まだ梱包が終わっていない人たちの手伝いは必要だ。


 私達は中標津先生から梱包材を分けてもらい、手が足りないところに加勢した。


 そうして美術部全員が作品を抱えて、あるいは積み込んでバスに乗り込んだのは、放課後になってからゆうに一時間は経過した頃だった。


 バスに乗り込むときに、体育館から音が聞こえた。


 シューズが鳴らす音、ボールが響かせる音、威勢の良いたくさんの声、そしてその中ではっきり聞き分けられるひとりの声。


 私はその声に勝手に勇気をもらって、遠ざかる学校から視線を外した。


「会場の求道大学って、行ったことある?」


 後ろの座席に座った部員に声を掛けられ、私は、ううんと答えた。


 隣に座ったみのりを見ると、こちらも首を横に振った。


「どこにあるかも、実はよくわかってない」


 親友の言葉に、私も同意して笑った。


 会場に着くまでは30分くらいで、車内のエアコンは私達が準備でかいた汗をすっかり乾かしてくれて、活力を取り戻させてくれた。


 大学に着くと、中標津先生の指示が飛ぶ。


 作品を搬入した先は、大学構内の建物のひとつで、入口には「記念会館」と書かれていた。


 けっこうな大きさで、入口のフロアマップは三階分もあった。


「ここは、求道大学の中でいろいろなイベントに使われている建物です。特に芸術関係で利用されることが多いので、外部の美術展もよく開催されていますよ」


 何度も来たことがあるらしい先生は、部員にあれこれ指示を出して展示の準備を指揮する。


 そうは言っても、様々な種類のテーブルや棚は常備されているようで、私達は決められたスペースに自分の作品を置いて、ディスプレイの仕方を確認するくらいだ。


 私は立体物展示スペースが設けられた三階に行き、見通しの良いフロアの一角に少女像を置いた。


 グドコーとルカデンの作品を交互に並べるという話だったから、この両隣には、ルカデンの誰かの作品が置かれることになる。


 置く場所については完全にランダムに割り振られているそうだから、もしかしたら、乃愛の作品と隣り合うかもしれないな、と思った。


 それはそれで縁だという気もするけれど、彼女の作品の横となると、見比べられてほとんど票を獲得出来ないかも知れない。


 まぁ、なんとかなるか。


 私は気を取り直して、正面から見たときにもっとも良く見える角度を調整するために、持参してきたいくつかの小道具を並べてみる。


 ひとつは、壁だ。


 穂積の一言にインスピレーションをもらって、ほぼ完成していた少女の顔に食パンを噛ませた。


 となれば、出会いを予感させる曲がり角も欲しくなるというものだ。


 私は残っていたインダストリアルクレイを使って、石壁に見えるオブジェクトを造り、展示するときに組み立てられるようにいくつかのパーツに分けてきていた。


 少女の疾走感、出会いの予感が見てくれた人に伝わるように、微調整を繰り返す。


 館内にはクーラーが効いているはずなのに、額に汗が滲んだ。


 どうにか納得のいく展示にたどり着いて、私は仕上げにラミネートされたプレートを置いた。


 そこには「食パンかじって登校」というタイトルと、投票用のQRコードが印刷されている。


 公平を期すために、作者である私の名前はない。


 あくまでも作品で勝負だ。


「小麦」


 声に振り向くと、みのりが立っていた。


「そろそろ時間だって」


 うん、と頷き、私はあらためて少女像を見る。


「出来た?」


 問われて、私はまた、うんとだけ答えた。


「小麦だね」


 みのりが膝を折り、目の高さを少女像に合わせてから、言葉を紡ぐ。


「曲がり角の向こうには、誰かがいるのかな?」


 作品をまじまじと見ながら言うみのりに、私は口を開く。


「いるよ。運命の相手が」


 振り返るみのりに、私は笑顔で応える。


 合同夏展は、明日から一週間。


 グドコーから最多得票者が出れば、その人はアメリカへの視察旅行に行ける。


 でも、私の勝負はそこじゃないかな。


 これが終わったら、穂積に言うんだ。


 お互い、頑張ろうね。


 私は心の中で、疾走する少女にエールを贈った。

作者の成井です。


今回のエピソードをお読み頂き、ありがとうございました。

「面白い話だった」「続きも読んでみよう」と思って頂けたなら、

下の☆☆☆☆☆欄で評価していただけると幸いです。


では、また。

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