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第18話 決めた

「ブレイクッ!!」


 自陣の深いところで相手チームのパスを奪って、灯里が叫んだ。


 それと同時にコートのラインぎりぎりに短いパスが通り、そこに斜めに走って来た選手が中継し、さらに前を走る選手にパスをし、あっさりと点数が加わった。


 お~、と思っていると、相手チームもパスを鋭く繰り返して、すぐにゴールに近づいていく。


 あっという間の展開で、しかもそれが攻防めまぐるしく入れ替わり、さらにずっと連続してボールが行きかう。


 途中途中で鳴る笛の意味はよく分からなかったが、接戦ながらグドコーがリードしていることと、チーム内で指示を出して雰囲気をつくっているのが灯里だということは、素人の私にも分かった。


 私は灯里に誘われるままに、土曜日、グドコーの体育館の隅にいる。


 美術部が無いのに、休日学校に来ることなんて、補習や模試の時くらいで、なんだか不思議な感じがした。


 それでも一応制服で、と思って来たものの、当然のようにバスケのウェアやジャージ姿の人ばかりで、なんとなく肩身が狭かった。


「とりあえず4ピリオド通してやるはずだから、それだけでも最後まで見てくれたらちょっと嬉しいな」


 金曜の放課後、照れながら言っていた灯里を思い出す。


 その、最後の10分間も、もうすぐ終わりそうだ。


 タイマーの表示は20秒。


 でも、笛が鳴る度にタイマーが止まるから、1分を切ってから5分は経っているこの20秒も、2分くらいにはなってしまうかもしれない。


 点差は1点差で、灯里達がリードだ。


 グドコーのスローインで、試合が再開した。


 でも、これをとられて入れられちゃったら、逆転されるんだよな。


 あと一回、点数が入ったら、安心出来るな。


 パスが回る。


 残り10,9,8……


 グドコーの選手がドリブルを一度ついて、抉るようにゴールに向かう、跳ぶ、撃つ……


 入れっ……


 外れた。


 外れたボールを、とったのは、灯里だ。


 灯里はそのまま着地し、もう一度高く跳び上がって、体を捻りながらシュートを放った。


 ブザーが鳴り、点差が3に広がって、試合が終わった。


 会場に拍手が響き、私もあわててそれに参加した。


 バスケの試合は、確か、中学校に入るよりも前に、親に連れられて穂積の応援に行ったことがあった。


 でも、そのときは、なんだったか他のことが気になっていて、まるで集中していなかった記憶がある。穂積のチームは勝っていた気がするけれど、何の大会だったのか、そもそも大会だったのかすら、記憶が曖昧だ。


 今日の試合は、あのときとは全然違った。


 胸がどきどきいっている。


 心から湧き上がってくるものがある。


 最後の整列と挨拶が終わり、灯里を見ていたら、目が合った。


 灯里は汗だくの顔に笑顔を浮かべて、私に向かってピースした。


 私は小刻みに拍手をして、彼女の健闘をたたえた。


 練習試合はその後も、ピリオドで言うと6つ続けられ、結局私は最後まで見続けた。


「この後、時間ある?」


 終わってすぐに、灯里が声をかけてきた。


 私が特に予定がないことを伝えると、彼女は私に待っていてくれるように言った。


 それから各チームへの挨拶、それぞれのチームの反省会のような何かが終わって、汗の始末をして着替えた灯里が私のところに来た。


「午後から男子の試合だから、片付けしなくて済んでラッキーだったよ」


 そう言ってはにかむ姿は、さっきまで鬼気迫る表情でコートを走り回っていた人とは別人だ。


「最初の試合、勝てて良かったね」


 私が言うと、灯里はふふん、と鼻に指を当てた。


「去年、公式戦で負けた相手だって聞いてたから、気合入っちゃったよ」


 そういって、灯里は腕を曲げて力こぶのポーズをとる。


「バスケのことはあまり分からないけど、灯里がすごいってことはよく分かった。さすが、全国大会経験者、って感じ」


 笑う私に、灯里も笑って応える。


「それで、どうだった?」


「うん、すごく刺激された。

 灯里がすごく速く走っているのを見て、おおげさかもしれないけど、私、感動した。

 躍動感っていうか、ああ、これ、テーマそのものだって思った」


 しゃべっている内に、声に熱がこもってきているのが分かる。


 灯里は並んで歩きながら、黙って聞いてくれている。


「決めた。私、疾走する女の子、つくってみようかな」


 灯里が、お~、と言って軽く拍手をする。


「何かの足しになればと思って、勢いで誘っちゃったけど、言ってみるもんだね」


 これで、ポスターのお礼は出来たかな、と笑う灯里に、私は言葉を紡ぐ。


「それ以上だよ。なんていうか、貸した以上に借りが出来たっていうか」


「友達だから、貸し借りっていうのは違うでしょ。あれ、私達って、もう友達だよね?」


 急に不安そうな表情をつくる灯里に、私はまた笑った。


「私は、そうだといいな、って思ってる」


 私の言葉に、灯里は同意してくれた。そして、さらに言葉を次いだ。


「また勢いで誘っちゃうけど、ちょっと、うちに寄っていかない?」


作者の成井です。


今回のエピソードをお読み頂き、ありがとうございました。

「面白い話だった」「続きも読んでみよう」と思って頂けたなら、

下の☆☆☆☆☆欄で評価していただけると幸いです。


では、また。

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