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第15話 聞き捨てならないな

 私達に声をかけてきたのは、強くパーマのかかったロングヘアの女子生徒だった。


 名札を見ると、筒巻 杏奈と書いてある。学年は、2年生らしかった。


「えと……たしか……つつまき あんなさん」


 みのりが名札を見たことに気付いた彼女は、顔をしかめた。


「ええ、そう。筒巻杏奈です。昨年度、水彩画コンクールで優秀賞を頂き、貴女の後塵を拝した筒巻と申します、最優秀賞の白神さん」


 なるほど、と私は頬を掻いた。


 中学3年と高校1年の二年連続で、みのりは最高評価を獲得していたのだから、関係者には名前も顔も知られているだろうし、目の上のこぶに感じる人もいるのだろう。


「ああ、そうだ。去年、猫を出品してた人だよね、たしか。デューラーみたいなタッチだったから、すごく印象的だった」


 みのりが言うと、パーマ女子の口元が明らかに緩んだ。


「その通り、あれは彼の作品の兎のタッチの片鱗でも再現できないかと時間をかけた作品で……」


 声のトーンが一段高くなったように聞こえる。


「他には誰の作品が好きなの? カンディンスキーなんかは?」


「面白いし素敵だとは思いますけど、私の好みではないですね」


 みのりの美術知識に負けず、彼女もあれやこれ、それやどれと話に花が咲いていく。


 正直、私に分かる名前はほとんどない。


 困ってなんとなく乃愛の方を見ると、乃愛も苦笑いして首を横に振った。どうやら、同じ気持ちらしい。


「……はっ、違います、こんなことを話しにきたのではありません。まんまと白神さんの口車に乗せられてしまったようですね」


 手の甲で額を拭ってパーマ女子が言う。


「人聞き悪いわね、どちらかというと、そっちのほうが乗り気に語ってたじゃない」


「それはともかく」


 彼女はそう言うと、すっと乃愛の後ろに立って、その両肩に手を置いた。


「この萬屋さんは、私達ルカデン美術部の期待のホープですの。これほどまでに才能あふれるアーティストは、そちらの部内にはいらっしゃらないんじゃないかしら」


 それを聞いて、私の感情がざらついた。


「聞き捨てならないな。乃愛の才能は認めるけど、みのりには実績があるし、うちの春展でもプロからメッセージをもらうくらいだったよ」


 パーマ女子の方を向いて、失礼かと思いながら指をさしてやった。


「あなたは、どなたなの」


「グドコー2年、美術部、東 小麦。みのりの親友……かな」


 言いながら自信がなくなって、みのりの方を見る。彼女は親指を立てて笑って見せた。


「ふうん……小麦さん、ね」


 そう言うと、パーマ女子は細い顎に指を当てて何か考えるようなそぶりを見せた。


「もしかしてあなた、この間の春展で、最終日に面白い発想をしたっていう人じゃないかしら」


 えっ、と声が漏れる。


「私、近郊の美術展絡みの話には耳ざといんです。グドコーの春展で問題が発生したけれど、起死回生のアイディアを出した方の名前が、確かコムギという名前だったような」


 否定することも出来ず、私は、それはたぶん自分だと思うと言葉を紡ぐ。


「なるほど。それなら、こうしませんか。

 次の夏の展覧会を合同で開催しましょう。

 それを一般の方による投票箱をつくり、どちらの作品が上か、決めようじゃありませんか」


「認めよう!!」


 私達の周りに居た観衆の中から、聞き慣れない男声が響いた。


 歩み出たのは、やはり見覚えのない初老の男性だった。


 冷房が効いているとは言え、外は初夏の陽気なのに、男性は黒いロングコートを着ていた。


「校長先生」


 乃愛が呟く。


「いかにも、この聖路加伝高校の長、竹浦だ。

 面白い話が出てきたものだから、ついしゃしゃり出てしまったよ」


 ロングコートをなびかせて、彼は向かい合う私達の間に立った。


「求道学園の発足園長とは旧知の仲でね。あらゆる競技で交流をもとうとしてはいたのだが、文化部のつながりは未だに無いままだった。これはなんとも、渡りに舟じゃないか」


 歌うように語る闖入者に、私もみのりも、パーマも乃愛も呆気にとられている。


「期日、内容、場所などは、追って各部に通達することとしよう。それでは、夏の合同展、楽しみにしているよ」


 紳士は去り際にパーマ女子と乃愛に何事か囁いて、その場を去った。


 ふたりが感謝の言葉を口にしたところをみると、きっとそれぞれの作品への評価か何かだったのだろう。


「風雲急を告げる、といったところでしょうか。これで後に引けなくなりましたね、白神さん、そして東さん」


 私とみのりは顔を見合わせ、苦笑いを見せ合った。


 そして、私が口を開く。


「お互いに、いい作品つくろうね」


 私は乃愛に、みのりはパーマ女子に手を差し出して握手を求めた。


「よろしくお願いします」


 乃愛はそう言いながら、両手で私の右手を包んだ。


「あ、ご丁寧に、どうも」


 パーマ女子は、そんな言葉を紡ぎながらみのりと握手をかわす。


 いちいち演技がかった言葉を選んでいるけれど、どうも悪い人間ではなさそうだな、と私は笑ってしまった。


 周りにいた結構な数に人たちから、はじめはまばらに、だんだんと大きく拍手が送られた。


 なんだか、変なことになっちゃったな。


 視線に困ってきょろきょろ周りを伺うと、人壁の向こうで、私達に忘れ去られていた南さんが困り顔で立っていた。


作者の成井です。


前回の投稿後、本作初評価を頂きました。大変ありがとうございました、執筆エネルギーが大きく回復しました。


あらためて……

今回のエピソードをお読み頂き、ありがとうございました。

「面白い話だった」「続きも読んでみよう」と思って頂けたなら、

下の☆☆☆☆☆欄で評価していただけると幸いです。


では、また。

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