第14話 目を奪われた
展覧会は、催し物のために建てられたというドーム状の建物で開かれていた。
ドームはレンガの装いで、遠目には大きなピザ窯のような感じだった。
入ると冷房が効いていて、結構な人数が入っているのに暑苦しさが無い。
「一階は立体物、二階は絵画系って感じかな」
ざっと見渡して、南さんが言う。
「みのりは、二階から?」
私が言うと、みのりは頷いて笑い、言葉を次ぐ。
「南さんは、どうします?」
「僕は……そうだな、東さんにくっついていくよ」
物理的な意味じゃなくてね、と言って南さんが笑う。
「いいですけど、解説とか期待しないで下さいね」
むしろ、芸術に対して造詣が深いのはみのりの方なんだけどな、と思いながらも、別にもめることでもないのでよしとした。
私は入口近くの作品から順に見て回る。
時間をかけて創られたであろうそれらは、私達の展覧会と同じようにバラエティ豊かだった。
紙を使った作品は、うちの部内にはほとんどないな。
金属を加工して槍の穂をつくるなんて、高校生に出来るんだ。
正多面体を組み合わせるなんて、数学が好きな人なのかな。
そんな風に黙々と見て回る内に、私はひとつの作品の前に強くそそられた。
それはジオラマだった。
60センチ四方ほどのスペースに、ファンタジー作品に出てきそうな、現実で言えば地中海沿岸にありそうな神殿が建っている。
精巧さ以上に目を奪われたのは、その「古さ」だった。
柱や屋根のあちこちが欠けていて、黒ずんでいる。
神殿の土台の石は、深い緑や黒いもやもやが微細にくっついていて、苔むしているように見える。
まじまじと見ている内に、南さんがいなくなっていた。
気付かない内に結構な時間が経ってしまったのだろうか。
それでも私は、あらゆる角度から小人か妖精がひょこっと顔を出しそうな神殿を見つめる。
「あの……」
唐突な声にハッとして見ると、そこには女の子がいた。
見慣れない制服、と思ったが、それがここ聖路加伝高校の制服だとすぐに気が付いた。
「は、はい」
思わず返事をして、女の子を見る。
一年生だろう、あどけないというか、子どもっぽい雰囲気がある。
自分がそれほど大人びているとは思わないけれど、なんとなくそんな感じがした。
縁の丸い大きなめがねに、くせっ毛とロングヘアの組み合わせは、その体の小ささや、か弱さも手伝って、アニメや漫画に出てくる妖精や魔法を使う少女のようだった。
「あの、あの……」
高い小さな声を出しながら、口がパクパク動く。
私は何をどう話していいやら分からず、とりあえず待つ。
名札を見ると、1A 萬屋 乃愛と書いてある。よろずや のあ という読み方で合っているだろうか。
「……あの、何か気にいらないところが、ありましたか?」
予想もしていなかった質問に、私は驚いた。
「そんな、全然、むしろすごすぎて目を奪われたっていうか」
手を振り首を振り、私は慌てて言葉を紡ぐ。
「造形も素晴らしいけど、ウェザリング? エイジングだっけ? 時間の経過がすごくナチュラルで、どうやったんだろうって興味があって……」
しどろもどろになっている気がして、なんだか恥ずかしくなってきた。
女の子は、口が半開きになったまま私の言葉を聞いている。
「校門の看板の雰囲気がすごくポップな感じだったから、特に目が引かれたのかも知れないけど、私はすごく好きな作品で、いや、まだ他の作品を見せてもらってないけど刺激を受けたというか、あの、伝わってます?」
私が言葉を止めると、女の子はハッとなって慌てて口を開く。
「あの、はい、伝わりました。あの、ありがとうございます、部外の人からそんな風に言って頂いたの、初めてで……」
女の子の言葉に、私は、だいぶ驚いた表情をしたと思う。
「ということは、これをつくったのって……」
「はい、わ、私です」
すごい、と思った。
中標津先生が「年齢と能力は必ずしも比例しない」とよく言っているけれど、この人はまさにそうだ。
1年生の作品だなんて、少なくとも私は思わなかった。
「萬屋さんって、小さい頃からこういうのをつくってたの?」
彼女は首を横に振った。
「去年、受験勉強の息抜きに、父のつくりかけをもらってお城を造ったんです。それが楽しくて、すっかり。今は、もっといろいろな方の作品を見て、勉強したいと思っているんです」
そう言って、彼女は屈託の無い笑顔を見せた。
「あれ、でも、どうして名前……」
またハッとして、名札に手を当てる。
「あ、あの、萬屋 乃愛と言います」
「うん、先に見ちゃった。東 小麦って言います。私も、高校で美術部なんです」
乃愛って呼んで下さい、と彼女は言った。
自分の名前がすごく好きで、それで呼んでもらえると嬉しいのだという。
それじゃ私のことも小麦でいいよと言うと、乃愛は「分かりました、小麦さん」と笑顔で答えた。
乃愛はその後、私にジオラマづくりで気をつけた部分をたくさん解説してくれた。
「芸術は模倣に始まり、創造に終わるっていうのが、最近ちょっと分かってきた気がするんです」
照れながらそう言う乃愛が、輝いて見えた。
彼女の説明はだんだん熱を帯びてきて、声もどんどん大きくなり、気が付けば周りにその解説を求めて人が集まってきたくらいだった。
「小麦ーっ」
みのりの声がして、私は振り返る。
人山の向こうで、みのりが顔をのぞかせる。
乃愛に、ごめんねのジェスチャーをして、私は後ろに下がった。
「全然見ないと思ったら、何してんの?」
「いや、それが素晴らしい才能と作品に出会っちゃって……」
私がそれを言い終えるよりも先に、私達に向けてらしい声が飛び込んできた。
「貴方以上かもしれませんよ、求道高校の白神みのりさん」
作者の成井です。
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