第13話 ルカデン
「ライバルを求めるあなたに朗報でーす」
遅れて部活に来たみのりが、隣に座りながら言葉を紡いだ。
みのりの手から私に、一枚の紙が手渡される。
「ルカデン・スプリング・アートフェス?」
紙は縮小されたポスターで、そこには聖路加伝高校の名前と展覧会の開催についての詳細が書かれている。
「今週末からの展覧会だって。
ルカデンと言えば、グドコーと張り合って設立されたって噂じゃん。
いい刺激になるかもよ」
私はあらためてポスターを見る。
どうやら入場は無料で、期間は一週間、学校外の人間でも自由に観覧できるらしい。
グドコーで開催している四季の展覧会と酷似しているところをみると、確かに張り合っているように見えてくる。
「よく見つけてきたね、こんなの」
「だって、生徒会のお手伝いっていうのが、それのポスター貼りだったんだもん」
積極的に生徒会や行事に参加するみのりは、こんな風にいろいろな話を私に教えてくれる。
黙っていればおとなしそうな雰囲気なのに、中身はアクティブだよなぁと笑ってしまう。
「土日どっちかで、行ってみようかな」
ぽつりと呟くと、みのりはどっちも空いてるよと教えてくれた。
残念ながらと言うべきか、予想通りと言うべきか、その日も私はアイディアとも言えない様々なものを描いては消し、消しては描き、部活の時間を終えてしまった。
玄関に向かう途中で、廊下の壁に貼られたポスターに気付いた。
それは、さっきみのりにもらったポスターの拡大されたものだった。
立ち止まって、あらためて見る。
同じく下校の流れに乗っていた美術部員たちも、口々に「行ってみようか」「日曜にする」などと、歩きながら、あるいはポスターの前に立ち止まって話していた。
「東さん達も、行く予定なのかい」
不意に声をかけられて振り向くと、そこにいたのは南さんだった。
「も、ってことは、誰か知り合いの方も行くんですか」
言われて、彼は頷いた。
「僕だよ。この間の君たちの春展から、ちょっと興味が沸いたんだ。
もしよければ、一緒に行ってもらえないかな。
アートに関わっている人に解説してもらえたら助かるし」
私はみのりを見る。
みのりは、んー、と口を閉じたまま声を出す。
「ま、断る理由もないし、私はいいと思うけど」
断る理由がない、と言われてしまうと、それは私にもない気がする。
いつか言われた色目を使っているという誹謗も、今回の流れなら該当しないだろうし。
「それじゃ、土曜の10時、現地集合で」
その場にいた三人で了承を確認して、私達は玄関に向かった。
それから土曜までは、あっという間だった。
朝、私は制服ではなく、スキニージーンズにオーバーサイズのトップスというカジュアルな服を選んだ。
「グドコーの制服なんて着て行ったら、宣戦布告だと思われる」
どこまで冗談なのか分からないが、みのりが生徒会の手伝いとしているときにそんな話を聞いたという。
まあ、一応先生方の話でも、制服のままあちこち出歩くのは推奨しないということなので、私服の方がいいのは間違いないだろう。
自転車で行こうかとも思ったが、天気予報で夏の陽気がどうこう言っていたので、バスを使って行くことにした。
最寄りのバス停に着くと、みのりがいた。
袖にボリュームのあるシャツに、タイトめなスカートがよく似合っていた。
いつもの制服姿に見慣れているせいで、新鮮な感じだ。
お互いにお互いの服装を褒め合う。
半分は社交辞令で、半分は本音だ。
バスが珍しく時間通りに現れてくれたおかげで、私達の額の汗は流れてくるまでにはならなかった。
扉が開くとクーラーの冷えた風が流れてきて、中にはほとんど人が乗っていなかった。
「やあ、ふたりとも」
後ろの座席で南さんが手を振る。春らしい薄手のジャケットが、筋肉質な体によく似合っていた。
私とみのりはその側に腰を下ろした。
「そういえば、南さんって、お家はどこなんですか」
「二駅向こうのアパートに、一人暮らしだよ」
みのりの言葉に南さんが答える。
「一人暮らしかぁ、憧れるね」
「みのりは下宿だもんね」
私はそう言いながら、私は下宿暮らしにも憧れがあるけれど、と思う。
実家を出て生活をする、ということ自体が、自分にとっては未知の世界だ。
「小麦みたいに、たまたまグドコーが近かったなんて奇跡だからね。
私の家族も東家の隣に引っ越してくれればいいのに」
みのりが口を尖らせて言う。
「でも、既に片側が埋まってるからなぁ」
次いで出てきた言葉に、南さんが口を挟む。
「西くんとは幼馴染みって話だけど、何歳くらいから?」
そこから私達は、お互いの家族や小さい頃の話なんかをして時間を潰した。
バスはほどなく目的について、私達は聖路加伝高校の校門をくぐった。
校門には原色が目を引く立看板が設置されている。
「グドコーの展覧会よりも、ちょっとカジュアルな感じかな」
南さんが口を開く。
看板は、色使い以外にも、どこかポップアートのような雰囲気だ。
「結構、ほんとに刺激になるかもね」
みのりの言葉に、私は頷いて応えた。
作者の成井です。
今回のエピソードをお読み頂き、ありがとうございました。
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では、また。




