第12話 気付いたかも
「行ってきます!」
そう言って私は家を飛び出し、食パンをかじる。
違うとは分かっていながら、私は自分の原点と思しきことをやってみることにした。
少なくとも、この登校をしていた時期は、私はアイディアに詰まらなかった。
それが、ここ数日間のなんやかんやで、ついついさぼってしまっていた。
いや、食パンをかじりながら登校はしていたけれど、少女漫画の主人公がそうするような元気溌剌さやスピード感は不足していたと思う。
だから、今日はあえて、いつもよりも2分遅く家を出た。
これを繰り返せば、きっと私の調子は戻ってくるだろう。
「なんとかなる!!」
誰にともなく、私は大声を出す。
いつもの曲がり角に差し掛かって、私は向こう側に人の気配を感じて、反射的にスピードを落としてしまった。
しまった、と思ったが、あらためて走り出すわけにもいかず、ちょっと立ち止まる。
「やあ」
角にいたのは、南さんだった。
「おはようございます」
挨拶をしてみたものの、何故ここにいるのかという疑問が湧いてくる。
「また、迷ったんですか?」
「いやいや、それはさすがにないよ。
学校だとはばかれることを、東さんに聞いておきたくて待っていたんだ」
何もこんな曲がり角で待たなくても、と言うと、南さんは笑った。
「僕は正確に君の家を知らないし、ここで待っていたら確実かと思ったからね」
ふうん、とだけ応える。
いつもよりも遅めに家を出ているから、時間にそれほど余裕はない。
この登校をして遅刻をしたら、それこそ笑い物だ。いや、もう十分、笑いのネタになっているという自覚はあるけれども。
「聞きたいことって、なんですか」
私がじっと見据えて聞く。
南さんは、あ~、と言い淀みながら、私の目を見る。
「遅刻、しちゃうんですけど……」
「ああ、そうだね。それじゃ、単刀直入に聞くけれど。
西くんって、彼女はいるのかな?」
唐突だな、と思った。
でも、時間もないし……
「いない、と思いますけど」
なんでそんなこと聞くんですかという疑問が頭をもたげるが、それを言うよりも早く南さんが笑って言葉を次ぐ。
「そうかそうか、分かった。
いやなに、ちょっと知り合いに確かめて欲しいと聞かれてね」
ありがとうと言って、南さんは小走りに駅の方に向かって行った。
穂積に直接聞けばいいのに。
そう思いながら腕時計に視線を落とすと、どうやらまずいことになっているのが分かった。
私が教室に入ったのはチャイムが鳴る直前で、危うくみのりにからかわれる話題を提供するところだった。
ところが、みのりが話題を見つけるのは、私の行いとは無関係のところでも可能らしい。
「小麦」
日中の移動教室の途中で、みのりが私を手招きする。
指の先には、教室の隅に立つ穂積とモデルがいた。
仲良くお話をしている、という雰囲気ではない。
「真剣な顔して、なに話してるんだろ」
みのりが言う。
断片的に聞こえる言葉は、どれもカタカナだ。
スクリーン、マッチアップ、アンダー、ファイトオーバー、ピック……
そのいくつかに聞き覚えがあった。
「バスケの話っぽいね」
「よく分かるね」
「意味は分からないけど、何個か、言葉だけ聞いたことあるから」
まだ小学生の頃だったか、穂積がバスケについて色々と話してきたことがあった。
正直、聞いてもちんぷんかんぷんで、こんなに熱く語るなんてよっぽど好きなんだな~、とか、こいつがこんなにしゃべるなんて珍しいな~、とか、どうでもいいことばかり考えていた記憶がある。
そういえば、私も同じように特殊メイクの話やプロップ(小道具)の話を語ったことがあっただろうけれど、あれは穂積にとっては面倒くさかっただろうな。
「そっか……」
「どした?」
私の呟きに、みのりが笑顔で応える。
「私、気付いたかも」
「何に?」
みのりの口角が上がっている。
「スランプを脱出するには、語り合う仲間が必要ってことだよ。
なんならライバル的な存在がいれば、私のアート魂が燃え上がるんじゃないかな」
「あ、うん……そうかもね」
みのりが期待してた展開が、分かってないわけじゃない。
私、実は穂積のことが好き、と私が口にして、ふたりで盛り上がる場面は、私にも想像は出来る。
この親友は、以前から、わりと真剣に、私と穂積がそういう関係になったらいいと考えてくれているし、背中を押そうとしてくれている。
でも、私は、私と穂積がそういう風になるっていうことが、うまく想像できないのだ。
まして、誰もが認める、釣り合ったお相手が登場した今となっては、なおさらだ。
「さ、音楽室行こ」
私はみのりに声をかけて、授業に向かった。
作者の成井です。
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では、また。




