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鮮血の女神

作者: ありま氷炎
掲載日:2020/05/15


 体の数カ所から血を流し、黒髪の女が横たわっている。その傍では、男が気色悪い笑みを浮かべてた。手にはナイフ、その先端から血が滴り降りている。

 最後の力なのか、弱々しく女が男の足を掴んだ。

 振り払おうとした瞬間、男が急に苦しみ出した。

 信じられないとばかり、男は女を見る。

 体中の切り傷は、すべて男がつけたものだ。

 激痛で、まさに死の淵であるはずなのに、女は笑っていた。


 男は地面の上でのた打ち回り、最後は動かなくなった。

 激痛に苦しみ、その口、股間、肛門から汚らしい汚物が出ている。


「お前はまったく……」

「仕方ないでしょう。私は弱いのだから」


 影から細身の男が現れ、女はそれに答えて立ち上がる。傷が凄まじい速度で回復していき、身に着けていた服は散々なことになっているが、その肌は何もなかったように綺麗なものだ。


 女の名はほう

 その特殊能力を使うとき、全身が血だらけになることから、鮮血の芳とも呼ばれている。


 芳は小さいときから傷の治りが異様に早かった。それを気味悪がって、父親は常習的に暴力を振るう。

 傷は治っても痛みを感じるのは変わらない。

 だから彼女は何度もお腹を蹴られた時、思った。


(この痛みが伝わればいいのに。そしたらどんなに私が痛い思いをしているのかわかるのに)


 すると、父親は急にお腹を押さえ、苦しみだした。


「お、お前が……」


 父親は目を剥いて、そのまま泡を吹いて気を失った。

 翌日、芳は児童福祉施設に引き取られて、父親から離された。ほっとしたのも束の間、施設では職員による暴行が日常茶飯事になっていた。

 暴力を受けながら、彼女は父親が突然苦しみだしたことを思い出し、また願った。

 すると、どうだろう。

 職員は急に全身を痙攣されて、動かなくなった。


 --自分の痛みを伝えることができる。

 

 傷の治りの早さと同時にその能力に気が付いたのは、その時だった。


 職員が倒れてから警察が介入して、彼女はある組織に収容された。それは特殊能力を持った子供を集め、教育する場所で、子どもたちは戦士となるべく日々訓練を受ける事になった。

 彼女の能力は自己治癒力と自らが負った痛みを相手に共感させるもので、己を傷つけさせて相手を殺す。あまり効率的ではない能力であったため、捨て駒として使われる事が多かった。

 そんな中、彼女はある男を会った。

 彼は彼女の標的であった者。

 そして彼女を救った者だった。



「芳。無茶をするなって何度も言っているだろう」

「大丈夫よ。あれくらいの傷ならすぐ治るから」

「あれくらいって、浅い傷でも何か所も切られれば命に係わるんだぞ」

「わかってるわ。次から気をつける」

「いつもそればっかり」


 男――エイは溜息をつき、芳の頭を撫でる。

 彼から暖かな感情が伝わってきて、顔が緩みそうになったのをどうにか引き締めた。


 エイは自分の感情を相手に伝えることができる。芳はいまだに「痛み」しか相手に伝えることができないが、英は自身が感じている感情なら意図的にどんなものでも伝えることができる。

 あの時、殺そうとしたのに、彼はまったく攻撃をしてこず、彼女は自身を傷つけた後、彼に触れた。

 いつもなら驚愕、そして恨みを込めた目で見られるはずなのに、えいは異なった。激しい痛みが伝わってるはずなのに、彼は優しく微笑み彼女を抱きしめた。


「馬鹿だな。こんな使い方するなんて」


 彼に触れた場所から、優しい気持ちが伝わってきて、いつの間にか傷も治っていた。回復は自身の能力によるものだが、その優しさに触れ早まったのは否めなあった。


「暗殺失敗だろ。そうなると、お前が今度暗殺対象だ。俺と逃げようぜ」


 英はそう言い、芳はただ頷いた。

 それから二人は組織の追撃をかわしながら、逃げ続けた。



 ――組織から身を守ってくれる国がある。


 二人はそれを信じて、その国を目指した。


「あの島がそうだ。あそこに辿り着けばもう追っ手は来れない」


 英が指さした方向に、ぼんやりと緑色の何かが見えた。

 陽国と呼ばれる国に手配された船に乗り、二人は楽園へ向かう。

 船が陸を離れてしばらくした時、芳は銃を構えた男を英の背後に捉える。


「英!」


 咄嗟に彼を庇い、銃撃をその体を受ける。


「芳!」


 英は彼女を抱きしめ、その名を呼んだ。

 温かい感情が芳に伝わってくる。

 芳は不死身ではない。自己治癒力が人より異常に高いだけだ。なので急所に当たれば死ぬ。


(痛みでなく、私の気持ちが彼に伝わるように)


 気が遠くなっていく中、彼女はそれを願った。



 目を覚ますとそこには英がいた。


「芳。よかった!」


 英は目覚めた芳を容赦なく抱きしめる。


「私は……」

「特殊能力持つものが他にもいて、助けてもらったんだ。本当によかった」


 傷は完全に治っているようなのだが、彼が強く彼女を抱きしめるため、体が悲鳴を上げている。


「英、痛いからちょっと」

「いやだ。これくらいの痛みは堪えろ」


 陽国へ逃げてくる特殊能力者は多く、次第に組織化していく。

 そうしていつしか解放軍を名乗り、暗殺組織を化した特殊能力者の組織を潰すことになった。

 解放軍のトップには、いつも血に塗れた黒髪の女性が寄り添っていて、鮮血の女神と呼ばれていた。




読了ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今回はメリハリが感じられ、良くまとまっている感じがありました。
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