七話侠客達の終焉
七話目の投稿です。
「里緒さんは康太さんを追って國龍会本部に行ってください。警視庁にはあたしが出向きます二人で行動を起こすにはリスクが
高すぎます。それから、これはあたしの浅香瑞樹個人の言い分なのですがお二人には本懐を成し遂げていただきたい……。」
彼女はそういうと今までどおりの出で立ちに戻り店を出て行くのだった。
「わかったわ!そうさせてもらう。悲運が重ならなければきっといい二代目総長になれたでしょうね」
彼女にそう応える里緒もまた、愚連隊時代の黒一色のパンツスーツに着替えて互いにそれぞれの目的に動きだすのだった。
一方その頃彼女達より先に全ての敵となった弘二達が集う新宿國龍会本部事務所前に着いた康太は問答無用に三発の銃弾を本部事務所内に発砲するのだった。その銃声に事務所内からは幾人かの組員達が応戦用の武器を手に姿を現すと口々に何かを叫びながら康太に襲いかかってきた。
「何の因果もねぇあんた等を殺すには忍びねぇが……後々尾ひれが付くのも面倒だからよ……わりぃが、全員獲らせてもらうぜ!」
彼はそういうと拳銃を自分の懐に戻し持参した白鞘を抜き放つと出てきた組員達の渦中へと斬り込んでいった。ものの数分で飛び出してきた組員達を白刃の餌食にした彼は難無く本部事務所内へと進入するのだった。
そして、本部事務所最上階に位置する会長室のドアを蹴破り中に入った彼が見たものは、かつて彼が兄ぃ、オヤジと慕った会長平岩康介と若頭里中弘二の二人が血溜まりにその身を横たえるのみで怨敵栗浜悠介の姿なかった。
「何なんだよ……これって……結局この二人も奴に利用されただけって事かよ……」
里中弘二と平岩康介の遺体を前にやっと絞り出すように彼が呟いたときだった。不意に彼の携帯端末がショートメッセージを受信していた。それは何と今自分の眼前で遺体となっているはずの里中弘二からだった。そして更にそのメッセージの文面が彼、皆上康太の怒りを更に駆り立てるのだった。
「ったくよぉ!何やってくれてんだよぉこの腐れ外道がぁあ!!」
彼はそう叫ぶと納刀した白鞘を握りしめ本部事務所の階段を一気に階下へと駆け降りるのだった。
その先に待つ四課と二課の連合捜査網に気づく由もなく怒りの感情に任せてその先へ飛び出そうとする彼を駆けつけた里緒が間一髪抱きすくめまた、建物の中へと引き戻した。
「里緒、どうしてここに?しかもこのままだとおめぇも同罪にされちまうぞ」
間一髪のところを助けてくた里緒に礼を言うより先に彼女の身を案じて言った。
「相変わらず優しいんだねあんたは……あんたと同罪ってんならあたしも同罪だろ当然。あたしだってもう人一人殺してんだからね……けど……あたし等二人パクるだけにしちゃあお巡りの数多過ぎない?」
彼女がそう言ったのは自分達の身を潜める階下の踊り場からの脱出経路を模索しているときだった。しかし次の瞬間二人は拡声器から聞こえる女性の声に驚きを隠せずにいた。それは何と今の今まで一緒にいた浅香瑞樹の声だったからである。
驚きのあまり思わず警察の包囲網内に姿を現す二人、無情にも瑞樹の一斉射撃の号令一下無情にも二人に銃弾の雨が降り注ごうとした時だった。二つの影が里緒と康太を抱きすくめ再び建物の中へと引き戻すのだった。
「間に合ってよかったよ、間一髪。あの子達にしてやられたのはあたし等も同じだよ。たまたま彼女と同じ場所に監禁されて
てね。」
そう言って笑ったのは、康太を助けた真理子で里緒の方は笑顔でブイサインをする信楽深雪に助けられていたのだった。
「けど、俺達がここにいるってよくわかりましたね姐さん。」
つかの間の会話で康太が言った。
「あぁあ……そういうのってさほら……蛇の道は蛇っていうじない?それにね彼女はあたしの元先輩刑事なんだ。初代四課の夜叉姫かな。もう一つは恵梨香、美奈子そして瑞樹この三人が実は二課のエスであたし等四課の捜査情報をハッキングしてるんじゃないかって噂もあってその事も含めて元四課の初代夜叉姫に相談した結果あんた達が危ないって話しになってここに至るって感じかな。あ、念のために言っとくけどあたしももう、現役の刑事じゃなくって元刑事かな。」
康太の質問にあっさりとそう応えたのはつい先日かもしくはつい今しがたまでバリバリ四課のエースだった信楽深雪だった。
「ちょっと待った……その話しは全員無事にここを脱出してからにしない?」
深雪の発言の後、何かを聞きたがる素振りを見せる里緒と康太を真理子が制するのだった。
「そうね、今はそれが先決ね。康太このビルの裏口は使える?それから真理子先輩にはこの二人の保護者って事であたしが二人を連れて先に外へ出ますから後でご登場願います。」
彼女信楽深雪が瞬時に全員の行動を指示するのだった。
『あービル内部の四人に告ぐあなた達は完全に包囲されている。無駄な抵抗はやめて素直に投降なさい!もし従わない場合は容赦なく射殺します!』
一向にビルから姿を見せない四人に対し彼女浅香瑞樹はしびれを切らせたように拡声器で叫ぶのだった。
「……上等じゃねぇかこのクズ女がぁ!」
彼女の挑発行為ともとれる発言に怒り頂点になり絞りだすようなうなり声ともとれる声を発し今、まさに外でこのビルを包囲する警官達の渦に飛び込まんとする勢いの彼を里緒が軽く宥めるのだった。
「バカ!相手の挑発にのってどうすんのさ?あんた一人斬り込んでったってあの警官の数だ集中砲火浴びてくたばるのが落ちだよ。あんたがどうしもってならあたしも一緒だよ……一人よか二人の方がごちゃごちゃいやがるお巡り一人でも多く数減らしできんだろ。」
彼女一ノ瀬里緒はそう言うと自分も上着の下に巻いたナイフサックに納めたスローイングナイフの柄に手を添えるのだった。
そして外側を完全包囲した瑞樹の無情なカウントダウンが始まった。
「……ったく二人ともバカはよしなさい。とはいえ強行突破しか手は無いみたいね。二手に別れて一気に駆け抜ける……お互い生きてたらまたあなた達の店で会いましょ」
彼女信楽深雪のその言葉が合図だった。
武器を持たない深雪に里緒、さらに武器を持たない真理子に康太の布陣で四人は一気に國龍会本部事務所ビルを外へと飛び出していくのだった。
そして、次の瞬間時間切れと言わんばかりに警官達と狙撃部隊の一斉射撃が始まったのだが新宿一帯の地の利を知る康太と里緒の敵でわなく包囲網も一斉射撃も何の意味もなさず四人は意図も簡単に迷路のような新宿の路地裏へとその姿をくらましたのだった。
「けどよ、何であの三人が二課のスパイなんて噂が流れたんだ?恵梨香と美奈子はともかく瑞樹さんに関しては正直未だ信じられねぇよ。昨晩の彼女の涙に嘘は感じられなかったし何よりだ俺と里緒には彼女に命まで狙われるような事は何一思いあたらねぇよ……」
かなり激情家な部分はあるにしろ慈悲深く情に脆い根っからの優しい性分なのだろう。今、現実に自分達を殺す気で襲っきた浅香瑞樹の心情を推しはかり、彼女が自分達の敵になった事を未だ信じていないようだった。
「康太ぁ、あんたって本当に優しい子なんだねぇ……こんないい男に見初められたあんたが羨ましいよ里緒ぉ。あの子が昨日あんたに話した事は……半分は真実後の半分は彼女の無念だったのかもね……」
あの殺伐とした場所から四人全員無事に康太と里緒の店に着いた時、彼女信楽深雪は昔の記憶を手繰るようにそういうと細身のガスライターでタバコに火をつけるとため息のように紫煙を吐き出すとさらに言葉を続けた。
「あの子の一家は、あたしが四課に配属される前からもう……再起不能状態にまで衰退してたのけど、彼女は再起を諦めきれなかったのねあの子は藁にも縋る思いで自分の父親が全盛時代から懇意にしていた当日四課の課長だった現在の警視総監葛城隆三氏にこれからの事を相談したのよけど既にもうその時に彼は恵梨香と美奈子の毒牙にかかっていて彼自身も二人からの脱却を模索してたみたいなの。で、結果的には浅香一家は解体解散。けどあの子には、捜査二課の刑事という道が約束されていたはずだった。けど、その望みはあの二人によって見事に打ち砕かれてしまったのよ。当然だけど当日の彼女に今のような野心なんてものは全くの皆無……あたしの三三年と少しの警察官人生いろんな人間を見てきたけど、他人の野心を糧に己の野心を増幅させた人間ほど厄介な人間はいないわ。何故なら彼女にはもう糧にする野心家が生存しないからよ。彼女のこれからの行動注意しておいた方がいいわ。また、どんな形であたし達の命を狙ってくるかわからないからね。」
彼女信楽深雪はそういうと何杯目かのバーボンを飲み二本目かもしくは三本目のショートピースにガスライターで火をつけて紫煙をため息のように吐き出した。
「……」
深雪の話しを聞くにつれ様々な感情が交錯したのだろう。黙り込む彼はロックグラスのバーボンを一気に胃の中へと流し込み頭髪を掻きむしる仕草の後何本目かのハイライトにオイルライターで火をつけ燻らせていた。
「ちっと康太ぁ!あんた頭から煙出てるよ!あんたは、そのまんまでいいんだよ。おバカな頭フル回転させたって煙しか出てこないのあたしが一番わかってるから。それにさ、考え混むなんて似合わないぞ」
彼女一ノ瀬里緒は戯けてそういうとカウンターテーブルにふさぎ込む彼の肩を後ろから優しくそっと包み込むように抱きすくめるのだった。
「あーぁもう見てらんないわあたし、本当……仲良しなんだね。あんたと康太は……ほら、深雪…あたし等二人居たらお邪魔みたいだしさっさと帰るよ」
むくれたふりをしつつ里緒と康太に向ける真理子の視線は優しくそういうと二人の仲の良さに感動して涙ぐむ深雪の手を引き店を出て行こうとした時だった。
「ちっと待ってくれよ姐さん方……今は動く時じゃねぇかもしれねぇ。うまく説明できねぇから何とも言いにくいんだけど、とにかく今、二人がここを出て行ったとしても俺には嫌な予感しかしねぇんすよ」
そう言って店を出て行こうとする真理子と深雪の足を止めさせたのは先ほどまでテーブルにふさぎ込んでいた康太だった
「……康太あんたの言いたい事ぁあよぉくわかるよ。けどね、あたしももう一度だけあいつを信じてやろうって思うんだ。だからしいていうなら彼女を面倒見てあげてくれない?彼女がくれぐれも無茶な事しないようにね。」
真理子が寂しくにこやかに笑みを残し二人の店を出ようとした時だった。
店周りを取り囲む突き刺さるような視線と殺気に里緒に目配せして真理子と深雪を店内奥へと誘導させるのだった。
そして、わらわらと店に踏みいる一団に凍てつくような殺気を浮かべた視線をおくるとざわめく一団に一括するのだった。
「ウチは外道モンのご来店はおことわりしてんだ……てめぇらのバックにいるパールホワイトのフルスモベンツにご乗車の外道の親玉ぁあ!聞こえてるよなぁ。腐れ外道の里中弘二さんよぉぉ!」
彼はそうわめくようにいうと白鞘を抜刀してざわめく一団には
目もくれず店を取り囲む車の列の中間あたりに停まる一台のパールホワイトフルスモ-クのベンツに修羅の形相で近寄るのだった。
真っ黒なフィルムの貼られたリアウインドウが半分ほど下げられた車窓から出るサイレンサーを装着した拳銃が無情にも康太に向けて発砲された刹那だった。彼の後方から彼の体を避けるように飛んできた一本のスローイングナイフによって弾道をそらされさらにそのナイフはまるで操り人形のように今度は軌道を弾の発射元へと飛んでおり彼の前には血の滲む右手を押さえ憤怒の形相で彼を睨む外道に堕ちた里中弘二の姿があった。
「兄ぃ……いや、新宿國龍会若頭元龍神会初代会長里中弘二。なんでだ……なんで俺や英二達だけじゃなくオヤジまで利用したぁあ?!あんた何時からそんな臆病者になっちまったんだよぉ」
彼、皆上康太は発する言動そのままにかつて自分が兄ぃと慕った里中弘二をこれでもかと言わんばかりに殴りつけるのだった。しかし、体格差彼と肩二つ分くらい低くく体重もかなりの差がある弘二にはさして何のダメージも与えられず次の瞬間彼の猛攻撃を受けようかという刹那だった。三人の女性がその修羅場に参入してきたのだった。そのうちの大柄な女性二人が一緒にいるやや小柄な女性に康太の救助を指示して二人の女性は里中弘二と対峙していた。
「そこまでよ、元警視庁西新宿署捜査二課主任兼潜入捜査官の里中弘二巡査長この数ヶ月間身分を偽りあなたの女としてあなたを観察させてもらったわ…あなたって最低の男ね……この手で手錠をかけて尚かつ殺してやりたいくらいだけど残念ながらあたし等潜入捜査官には逮捕権わないの。後はよろしくね。警視庁組織犯罪対策課捜査四課課長信楽深雪警視」
驚く一同の前、彼女警視庁主席監察官兼現警視総監葛城隆三直下の潜入捜査官でもある瀬戸内真理子が里緒と康太の店前に集まった集団に宣言するのだった。
「……ま……マジかよ。けど、これでやっと全ての意図が繋がったぜ。結局なんのかんの言ったってよ俺も、里緒もあんた等の手のひらの上でうまくころがされてたって訳だ……」
今の今までどれだけ考えてももつれるばかりで一向に解けなかった意図がやっと解けた瞬間彼は観念とも落胆ともとれる言葉を発すると里緒と二人深雪の前に両の手を差し出すのだった。
「一つ言わせてもらうなら……それは誤解よ。あなた達二人の協力がなかったら今回の事件はまた、闇に葬られるとこだった。それに命を救われた人間にワッパかけるなんて野暮な事出来ないしね」
彼女、信楽深雪はそう言うとニッコリ笑って二人の出した手をそっと差し戻すのだった。
「なぁ、里緒ぉこの展開何か妙だと思わねぇか?話しができすぎてんだよ。それにだ今回明確に俺等二人の命狙ってきたのは松宮恵梨香と矢吹美奈子の二人だけだ…後の三人つまり英二だったり瑞樹だったりさっきの里中弘二にしたって明確な殺意は感じられなかったし何より妙なのぁ会長の死に方だ。あっけなさすぎる。先代時代には人斬り國龍斎何て通り名まであった人だぜ。そんな人があんなにもあっさりと殺されちまうなんて先ずどう考えてもありえねぇ話しだ……この違和感にはおそらく彼女も気づいてるはずだ。俺等完全に姐さんだと思ってたあの女に踊らされてたんだ。更にその
バックであの男が意図引いてるとなりゃあ話しのつじつまも合う。」
彼、皆上康太がそう口火を切ったのは先ほどの騒動から一時間ほど過ぎた頃だった。
「悩むの苦手で悩む姿すら似合わないあんたにしちゃあめちゃくちゃ冴えてんじゃん。だとしたら次にあの二人にとって娑婆に戻ってもらったら困る人間つまり……次のあの二人のターゲットはおそらく未だ収監中の露木さんを狙うはず。けどそれを阻止するにはまだ地固めが出来てないわ。あたしは何とかしてあの女の素性調べてみるわ
。あんたは明日それとなく露木さんの面会に行ってそれとくれぐれも今回の意図相手に悟られないようにね……これは刑務官に悟られても駄目だからね」
彼女、一ノ瀬里緒は康太の顔を正面から見据えて諭すようにいうと彼の肩を軽くポンと叩いてニッコリ笑うと細身のメンソールのタバコに火をつけて燻らせていた。
「おぅ、頑張ってみるよ……」
そう元気よく応えながらもどこかまだ、納得しきれていない様子の彼に里緒自身も自身の詰めのあまさに焦りと落胆の色を隠せずに絞り出すような低い声音で続けた。
「やばいよ……あたし完全にあの男の手口だったり根回しの早さ勘違いしてたよ。次に奴が狙うのは露木さんじゃない。次に狙われるのは全ての意図に勘づいた……康太!急ぐよ!深雪さんが危ない!」
「里緒!ちっと落ち着けって……こんなこともあろうかと思ってよさっき一課に移動したおめぇの兄さんにメッセージ送っといたからよ、あの人のこたぁ心配ねぇよ……ただ……俺が気になってのは今現時点の店の周囲の様子だ。至る所にあの女の意気がかかったあいつ直下の捜査官達がうろうろしてやがる。の今動くなぁあいつ等の思うツボだ……こいつは長期戦になりそうだからよただ、今は我慢の時だぜ」
彼はそう言うと外の様子をうかがっていた店の小窓を閉め今にも泣き出しそうな様相の里緒の細身の肩を優しくそっと抱きしめるのだった。