五話 続警察の仮面
第五話目の投稿でぇす。
「葛城美奈子課長もとい元浅香一家女若頭はぐれ天女の美奈コト矢吹美奈子。一ノ瀬里緒および皆上康太への殺人未遂容疑と職権乱用ともうかがえる大型拳銃の不法所持の罪により階級ならびに職務剥奪午前八時ジャスト。葛城恵梨香警視副総監の計らいから極秘確保とさせていただきます」
二人の店から外に叩き出され虚ろに空を見上げる彼女に、そう前置きした後逮捕状を提示したのは他ならぬ渦中の人であるはずの信楽深雪警部補であった。
「ちょっと待ちなさいよ。姉の計らいって……じゃああなたは最初からそのつもりであたしに対してあからさまに癒着関係を公表したのも、あのときと同じあたしを陥れるための策略だった訳ね。わかったわ……」
彼女は観念の様相を呈してはいたがそれが偽りの様相だと彼女信楽深雪には長年付き合って尚も培ってきた罪人の自らが犯した罪を逃れるために見せる偽りの表情を見逃すはずがなかったのであるが故に自分の眼前で虚位の様相から拳銃自決に逃避しよう彼女が許せなかったのだろう。これまでも、これから彼女が在官しつづける彼女自身の人生の中でもきっと最初で最後の行為発言であろう。
彼女葛城美奈子改め矢吹美奈子の頬を彼女信楽深雪の平手打ちが小気味の良い音を響かせていた。
「あまったれるんじゃないわよ!自身の不手際で自身が一番守らきゃいけない立場にありながらあなたは浅香一家の壊滅を葛城親子に添加しそれを更に逆恨みするなんて厚かましいにも程があるわ!人としての恥を知りなさい」
今ままでも、そしてこれからも彼女が被疑者確保の現場で感情をあらわにすることはないだろう程にその時の彼女は自身の経験と彼女の本音がでたのだろう。美奈子の頬を打ち更に説き伏せる彼女の目には何時しか遠い昔に二度と流すまいと心に誓ったはずの涙が流れ落ちていたのだった。
「何よ?まさか、情けの涙って訳ぇ!ふざけんじゃないよ!」
自分を説き伏せ涙まで見せた四課の夜叉姫とまで言われた信楽深雪その彼女の涙と説き伏せをいまだ穿った目でしか見れない美奈子は再度深雪にかみついた。
その時だった。深雪のそばで二人のやりとりを静観していた元浅香一家二代目総長だった浅香瑞樹が静かに口を開くのだった。
「おぅ!美奈子よぉ!これ以上の恥の上塗りはよさねぇかい!正直あたしゃガッカリだよ。一家を解散してそれを逆に取締る立場にでもなりゃあちっとは真面な人間になってくれる。あたしゃそう信じてたんだけどねぇ……もう……これで終わりだよ!今後一切浅香一家の名は出さないと誓って大人しく罰を受け入れな!もし、それすら出来ないっていうんなら……あたしが今ここで引導渡してやるよ!」
彼女はそういうと護身用に携帯許可を受けているスタンガン機能の備わった特殊警棒の電圧レベルを人の致死量まで引き上げそれを座り込む美奈子の頭上へと振り下ろそうとした刹那だった。高圧電流の流れる警棒の先はそばにいる深雪の手によって遮られていた。
「…深雪さん…どうして…」
彼女はそういうと急遽電流を切り、感電のショックからその場に膝から崩れる深雪のそばにかけよった。
「バカはよしなさい……」
彼女はそういうと一時的に意識失った。
「あんた達はいっつもそうだ。正道ばかり進んでも何れ時の流れにのみ込まれちまって…そういう時代遅れの組に未来なんてありゃあしないんだ!そんなつぶれちまった組の看板後生大事にしてるような奴にこの命くれてやる気にはなれないんでねぇ…二代目いいや浅香瑞樹さんあんたがこれで終わりだっていうんならあんた殺して全て終わりにしますわぁ!!」
一時的に意識を失った深雪を看るため自分に背を向ける瑞樹に座り込んでいたはずの美奈子はそういって瑞樹の背後から突きつけた拳銃の引き金を弾こうとした刹那彼女はまたもや後方から飛んできた一本のスローイングナイフに拳銃を弾き飛ばされるのだった。
血のにじむ手を押さえ恨めしげに後方を睨む彼女の視線の先には二本目のナイフを構える里緒と白鞘の日本刀を携えた康太が
立っていた。
「あんた……見下げた女だなぁ!さっきからみてりゃよずいぶんと好き勝手いってんなあんた。そんな奴に元二代目だったりそこで意識失ってる女刑事……死なせる訳行かねぇなぁ……里緒、深雪と二代目店ん中連れってとけやぁ」
彼はそういって拳銃を発砲しながらも彼の気迫に圧され後退しはじめた彼女、矢吹美奈子に正面から斬りかかると彼女の両腕の肘から下を一刀両断に斬り落とすのだった。止まらぬ出血と両腕をはしる激痛にのたうちまわる彼女に彼はとどめとも言える一言をかけた。
「あんたの外道人生の終焉だ。後はよろしく頼むぜ四課の刑事さん方よぉ」
彼はそういってそばにいる刑事達に刃を収めた白鞘を渡して自分の店へと踵を返えすのだった。
「里緒、わりぃなちっとの間ぁ留守にすんぞ。」
自分達の店に戻り深雪と瑞樹の二人を看る里緒に康太はそういって身なりを整えると再び店を出て行こうとしたときだった。
「待ちなさい、今回の件は不問にするわ……四課の夜叉姫なんて踊らされてたあたしが恥ずかしい限りだわ。あんた達に助けられるなんてね……けど変わらないね康太、里緒。下手したら自分達が逮捕されかねない状況なのにそれすらかえりみないで飛び出して来ちゃうあたり、うちの刑事達に見習わせたいくらいよ。あんた達や弘二達の探ってる情報活動彼女に手伝わせるわ。それとあたしも刑事クビになったらここで働かせてもらおっかな……なんてね今回は素直にお礼をいうわ助けてくれてありがとう」
一時的ショック状態から意識を回復した信楽深雪はそういって瑞樹を残し店を一旦外に出ると外に待機していた捜査員から先ほど康太が渡した白鞘の日本刀を受け取るとまた店に戻りこういった。
「忘れ物よ」
彼女は店の出入口に置かれた傘立てにまるで本当の忘れ物でも届けるかのように先ほど康太の持ち出した白鞘を立てかけると軽く手を振り再び店を出ようとした時だった。店の出入口の外から飛んでくる凍てつくような殺気に店内にいる四人がそれぞれに所持する武器に手をかけ身構えた。が、しかしそれは一瞬で消えてなくなり、店内に入って来たのが副総監の葛城恵梨香だとわかった瞬間一瞬武装を解除しかけた四人だったが、里緒と康太だけは何時もの彼女とは違う違和感からか更に警戒心を強めていた。
「お疲れさま。信楽深雪警部補……」
彼女はにこやかにしかし冷徹な影のある笑みを讃えたまま直立不動に敬礼する深雪の横通り過ぎた刹那消音器を装着した拳銃の発砲音とともに彼女信楽深雪は吐血して絶命していた。
「どういうつもりなの?あたしと康太を始末しに来たんじゃないの?あの、最低のクズ男の命令でね。あたし気づいちゃったんだよね…過去を振り返る事で…要領がよくって金に汚くおまけに強欲だったのが誰だったかってことをね!」
彼女一ノ瀬里緒はそこで一旦言葉を切ると次弾を発砲しようとした恵梨香の拳銃をナイフで弾き飛ばすのだった。
「全く、あんたって頭にくるほどの智略家ね……そうよ、最初の計画ではね。けど、あのバカ女の暴走で全てが狂ったのよあたしがせっかく仕留めた獲物だったのにあのバカ女までハイエナみたいによってきてあたしの過去何処で調べたのかそこにいるバカ女二号と一緒になってあたし強請ってくるんだからまいっちゃったわよ……けど、これで全て終わりよ。あんた達が全員ここで死ねば後は全てあの人の天下よあんた達が必死に行方追ってる栗浜悠介のね」
彼女はそういって深雪先ほど傘立てに立てかけていった康太の日本刀に手をかけようとした時だった。
「葛城恵梨香副総監…いいえ松宮恵梨香あんたの悪行の数々しっかりと聞かせてもらったわ。それに人を仕留めるんならまずは相手の装備を見るのねあたし等四課の刑事は特殊部隊と同じレベルの武装が許されてるし防弾ベストだって他部署の刑事達が着てるやつの倍の防弾力よ……四五口径以上じゃないとこのベストは貫通しないわ」
そういって恵梨香の後方で立ち上がったのは先ほど恵梨香に撃たれたはずの信楽深雪だった。
「ったく……なんだよそれ、一番真面じゃねぇとやばい人間が、一番最悪な事してちゃあよぉ俺等一般庶民は一体何を信じりゃいいんだ?あんた、警察官失格だなぁ!今しがた俺が両腕斬り落とした矢吹美奈子ってのもまぁまぁ見下げた女だったけどよ……あんたそれ以上に最低最悪だぜ。あんたそうやって昔から今日本日この時まで俺と里緒の信頼踏みにじってくれてたんだよな……こいつなんかよぉ今の今まであんたを親友として疑わなかったんたんだよぉ!」
昨日自身の心を掻きむしらんばかりに悩ませて涙まで流した彼女一ノ瀬里緒の姿が脳裏を過ったとき彼皆上康太は恵梨香の暴言暴挙に黙っていられず思いのたけが心の雄叫びとなり彼の口から飛び出していたのだった。
「……里緒……あんた本当にバッカじゃないの?あたしが真剣にあんたなんかと向き合う訳ないじゃん。正直あたしはあんたの存在自体煩わしくってたまんなかったわよ」
彼女松宮恵梨香は尚も暴言を吐き更には先ほど里緒に弾き飛ばされた拳銃をまた拾い直しており更にはその銃口を里緒に向けるのだった。その勝負は一瞬の内に勝敗を決した。里緒と恵梨香、ナイフを投げるのと、引き金を弾くのとほぼ同じに思われたが、を経験の差が勝敗を分けたのだった。里緒や康太のように人を殺めなければ生きていけないまるでドブネズミのようにしか生きられなかった二人とわ対照的に要領良く何不自由無く物見遊山的感覚で愚連隊に加わっていた恵梨香とでは、明らかに人体の急所を見抜く力が歴然としていたのである。従って、恵梨香の放った銃弾は里緒の身体を掠めもせず店の柱にめり込み里緒の投げたナイフは狙い違わず彼女松宮恵梨香の眉間に突き刺さりその場所からは鮮血が放射状に噴き出していた。その対面では里緒が涙を吹きこぼして立っていた。
「里緒…見事よ…」
彼女信楽深雪はそういって自分の前両手を差し出す里緒の手を退かせるのだった。
「深雪さん…?」
差し出した両手を引っ込められて彼女は呆然と深雪を見ていった。
「今回の一連の事案は一切不問にするって言ったはずよ……」
おそらく三三年の生涯の中で彼女は笑顔を見せた事が皆無なのだろう。少し堅い笑顔ではあったが、この時の里緒と康太には生涯忘れることの無い素敵な笑顔に見えるのだった。
「……な……何?やぁだぁ、二人してそんな見つめないでよぉ。あたしこういうの慣れてないからさ…照れるじゃんよぅ」
今まで凛とした年上女性を演じていた彼女が急に腰をくねくねさせて照れる姿は何とも二人の目には可愛いらしく映るのであった。