二話動き出した不吉な影
【兄ぃ康太です。例の六人見つけましたよ。ただ、そいつ等の行った先が問題なんですよね。奴等そこにいらっしゃる風祭の二代目の傘下組織安西組の別邸に入って行ったんですあそこは確か先代安西組組長安西礼二さんが引退後の終の住処にするために建てたとか…とりあえず状況はかなりやばい方へ向いてる気がするんで全員俺達の店に集合してくれませんか?】
緊迫した感のある康太の声が弘二の携帯に返ってくるのだった。
「しかし、妙な話しじゃねぇあそこは確か安西の叔父後が終の住処にぃゆぅて建てたもんじゃけど…叔父後おらんようになってからは誰もつこぉとらんはずなんよね。あの別邸は…」
彼女風祭洋子がそういったのは何はともあれ、康太の指示に従おうということで栄二の運転する弘二の車で里緒と康太の店へと向かっている車中だった。
「いや、確か、安西さんはごく最近まで存命であそこに住んでおられたはずです。それにあそこは國龍会先代会長が先代風祭一家総長つまりは二代目の親父さんに無償で譲り渡した土地だときいています。まだまだ新参者の自分にはそれいじょうの事はわかりかねるっすけど」
彼、平木栄二がそういったのはちょうど彼の運転する車が康太と里緒の店前へと着いたときだった。彼は周囲の状況に目配せして弘二達を店内へと誘導すると自分はすぐに店の入るビル裏へと車を移動させるのだった。
「これでやっと状況がわかったわぁ…けどぉ無事やったんじゃね…安西の叔父後ぉ。お父ちゃんぶち心配しよったんよ自分は昔の古傷と持病の肝硬変がわるぅなって動きとぉても動けんけぇ娘のウチを二代目にしてその襲名披露の名目でこんなぁの様子見てこいちゆうことやったんじゃ……」
彼女風祭洋子は一瞬だけ彼、安西礼二の生存に違和感を示したが、すぐに何事なかった様相でいった。
「洋子…嘘はよしなよ。あんた、何か安西さんに生きてられるとまずい事でもあんの?」
一瞬でも表情を曇らせた彼女に確信を突く疑問を投げかけたのは彼女の昔を知る旧友
瀬戸内真理子だった。
「なんならぁ、こんなぁウチを疑っとるんか?」
確信を突かれ若干動揺しながらも彼女はそう反論した。が、すぐに肩をすくめてため息交じりに吐露するように言葉をかぶせた。
「ふふふ…やっぱ親友で旧友のこんなぁにはこれ以上隠し事はでけんゆうことじゃね…こいは内輪の恥曝すようなもんじゃけぇ黙っとこおもたんじゃがぜぇえんぶ話さんといけんみたいじゃねぇ」
彼女はため息交じりに言うとまた一つ大きく息を吐いた。
「ちょっと待ちなよ…内輪の恥ってどういう意味だえ?いったい風祭一家の内輪で何があったんだえ?」
真理子はそういうと項垂れる親友でもあり旧友の風祭洋子に先ほどとは逆に優しく問いかけた。
「実はの…ウチが東京出てきたんはな叔父後の事がかなり大きく関わっとんのんよぅ。あんクソ親父詰まらん小芝居かましおってからにおたくさんとこの七年前の内部抗争に便乗して東京進出ねろうとったんじゃ……大恩あるはずのウチのお父ちゃん亡き者にしてでも今の計画推し進めよぉしとるんじゃ。それにあっこは元々はおたくさんとこの先代会長さんの私有地であり所有物やった訳やから、それをお返しせなあかんゆうて身動きとれんようになったお父ちゃんの代わりにウチが来たゆうわけなんじゃ…あぁ、でもなんじゃろ全て話してなんやすっきりしたわぁ。ありがとううな真理子…」
すっきりしたと言いながらどこかまだもの憂げな面持ちで洋子がいった。
「なるほどね……そういう事情だったんだ……」
事情だったり状況だったりは理解できたもののこれといった打開策が見つからずそのまま黙り込んだ。
「姐さんがたの会話にカタギになったばかりの俺が口はさむのはスジ違いかもしれませんがあえて言わしてもらいます。その件安西さん自身も被害者かと…数日前、うちの店で安西さんらしきご老人と成りは普通のビジネスマン風だがありゃどう見ても玄人だろうふうていの青年が話してたのを俺も
里緒も見てます」
そういったのは康太で彼が言うにはそれだと別邸へ逃げた六人の行動もうなずけると言うことだった。
「さすがは俺が兄弟と認めた男だな。逆にいえば別邸へ逃げた事がこちらにしてみりゃ好都合って訳だ。あそこなら俺等の誰もが近づけるからな、けど、リスクもある面の割れてる俺や栄二。それに二代目は特にな……」
妙案だとしながらもそこへの人選に弘二は言葉をうしなった。
「なるほどね…だったらあたしが行くしかないねぇ…これはあたしら極道の問題だカタギになった里緒や康太を巻き込む訳いかないからね」
考えあぐねても答えが出ないことに焦れたように真理子が決断するようにいった。
「ちょっと待ってくださいや姐さん。逸る姐さんの気持ちもわかりますが如何せん相手が悪すぎます。奴等が話しの解る連中なら何の問題もないっすよ。けど、俺にはそうは思えないんすよ。返り討ちにあってくたばった俺や栄二の昔仲間だった
大輔達の殺され方を見ても解るように奴等は人を殺すのに何の躊躇も無い無慈悲無情の狂った連中です。姐さんに万が一の事があってからじゃそれこそ取り返しの着かねぇ事んなっちまう。奴等んことはこの裏街を根城にてっぺんまで上り詰めた元愚連隊上がりの俺と里緒に任せてもらえませんか?」
自分が別邸へ出向くしかないと豪語する真理子を康太が説き伏せるようにいった。
「スジは通さない…当然だけど話もわからない…どうしようもないクズでゲスな連中だってのはあたしも解ってる。あたしはただ…こちらの世界を引退してやっとカタギの人並みの生活手に入れたあんた達をまたこっちの世界にひきずりこんじまうってのがどうしてもやるせないだぁね…」
彼女は虚空を見上げて寂しそう笑った。
「ちょっと待ちゃ。真理子ぉこんなぁが行くゆうんはウチも反対じゃ行くんじゃったらウチが出向くんがスジっちゅーもんじゃろ」
そういっていて、康太と真理子の会話に割って入った洋子だったが互いに譲らずの二人の気迫に圧され黙り込むしかなかった。
「二人ともいい加減にして!誰が行く行かないなんてそんな事でいい争ってる場合じゃないでしょ!」
そういって大声を上げたのはしばらく三人のいい争いに静観をきめていた里緒だった。
「いい、康太。今回の件の裏で暗躍してるのは最低最悪のクズ人間なのよ。それにあいつは今めちゃくちゃ焦ってるはず……もう時期娑婆に戻ってくる会長の露木さんが復帰する前に國龍会そのものを自身がトップに着くために最悪のシナリオを考えてたはず。だから今は誰がなんて迷ってる時じゃないよ。それぞれに行動に出ないと母体の國龍会自体存続が危ぶまれます」
彼女自身も自分の感情が抑えきれなかったのだろう。一気にそうまくしたてた彼女は顔を赤らめて黙りこむのだった。
「確かに、里緒のいうとうりだな。とりあえず真理子と二代目は俺と一緒に本部に来てくれ。それから、康太、里緒。おまえ達の出来る範囲でいい今回の件の情報収集を頼む。くれぐれも無茶だけはするなよ…それと…迷惑かけてすまん」
彼、里中弘二はそれぞれの行動を指示し終えたとき、里緒と康太の二人に深々と頭を下げ栄二と二人店を出て行くのだった。
しかし、彼等が行動を起こす以前に事の元凶でもある栗浜悠介に金で買収された警視庁捜査四課の捜査員達が至るところから彼等を監視するかのように静かに動き始めていたのだった。