表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/15

十二話警察庁の堕天使其の弐

今しばらくお付き合いください。

「母さん!親父の住居のシェルターだ。瀬戸内主席監察官がいるのは、それと、参事官は親父が飛び込んだ時にはもう死んでたらしい。」



 父、皆上龍二を駆けつけた救護班に託して康太は現場検証を続ける母、皆上深雪の側に駆けつけた。


「まずいわ、非常にまずい事態よ。瀬戸内主席監察官の心の奥底に潜む処刑代行人としての堕天使ルシファーの心が暴走し始めてる…早くあの人を止めないと、東京都内の悪人と判断された人間は全て殺される事になるわ……もし、そうなれば都内は罪人の死体の山になってしまう……」


 駆けつけた康太から、事の真実を聞いた彼の母親皆上深雪が初めて凍りついたような様相をみせるのだった。


「マジかよ、親父の言ってた事噂なんかじゃなかったって事かよ……」


 事の真実を告げた康太もまた、凍りついたような様相になっていたのである。


「……瀬戸内主席監察官は、ある男の復讐を考えているのよ。その男の無念を晴らすために。」


 彼女、皆上里緖がそう言ったのはこれから以降の三人の身の振り方を考えるべく、現場を離れ警視庁近くの深雪のマンションに向かう車中だった。


「それってまさか和哉くんのこと?」


 これまでの事、そしてこれからの事車の後部座席でタバコを燻らせ思案していた二人の母親、皆上深雪が口を開いた。


「ええ、そうよ、母さん。信楽和哉……でも彼だけだったかもね。あたし達裏街の住人を気にかけてくれてたのは……あたし達三人が本当の親子でこうして巡り会えたのだって、あたしは彼のおかげだと思ってる……それと、参事官の首の傷なんだけどね。おそらく瀬戸内主席監察官が、あのシェルターを抜け出して、彼の首を後ろから刺したのは間違い無いと思う。けど、彼に致命傷を負わせるには至らなかった。彼の直接の死因は、失血死。それもほとんど血液を飛び散らせる事無く、一撃で、確実に人を殺せる人間。西園寺優弥……あたしや康太、それに母さん。この三人に、殺人技術の全てを教えてくれた彼なら、造作もないはずよ。彼もまた、和哉さんの理解者だった。けど、その和哉さんが、実の父親に殺されたも同じな死に方をして……彼自身も信楽参事官の横暴には、我慢の限界を感じていたのかも……あと一つは、これ以上、もう彼女に、殺しをさせないために。彼は、参事官の息子になりすまして様子をうかがってた。そう考えればおのずとこの一連の騒動、全ての意図がつながるはずよ……」


 里緖がそう言いてタバコを燻らせた。


「母さん、こう言う時の姉さんの感外れた事がねぇんだよ。警察病院に向かうぜ」


「そうね。けど、この街中に溢れてる捜査員達をやりすごしましょ。行動に出るのはそれからよ」


 いったんは、警察病院、深雪のマンションへとこれからの行動パターンを考えていたのだが、街中に溢れた警官達によって三人はとりあえず身を隠し捜査員達をやりすごす他なかったのである。


「やっぱりあんただったんだな。あの時、俺が助けた女刑事と、俺の嫁や子供たちに生きるためとはいえ、この法治国家の日本じゃ御法度の殺人技術を仕込んだのはよぉ……元警視庁組織犯罪対策部捜査三課麻薬取締部課長西園寺優弥さんだろ?」


 彼、皆上龍二がそう言ったのは肩口の傷の手当てを受け自分の住み家に帰る途中の警察病院の玄関付近ですれ違った火傷を負った一人の若い刑事だった。


「あなたには、叶わないな。皆上先輩……いつから、俺が信楽和哉じゃなく西園寺優弥だと?」


 若い方の刑事が院内に身体を向けたまま龍二に聞いた。


「そうさな……あんたが、俺のとこへ来た時から……かな。俺の相棒だった、信楽和哉は、父親の裏切りにあって、俺が、現役時代にくたばってたからな……嫁や子供達の事、よろしく頼む。西園寺優弥警視監。」


 彼はそう言って、その若い刑事に深く頭を下げるのだった。


「わかってますよ。皆上先輩……事が落ち着いたらまた、酒でも飲みましょうよ……」


 彼はそう言うと彼に向かって敬礼した後院内へと入っていくのだった。


 そして、警察病院を後にした龍二は、携帯端末をズボンのポケットから取り出して、行き場を無くしているであろう妻と、二人の子供たちに、自分の住み家に戻るようにメッセージを送るのだった。


「あ、龍二さんからメッセージだわ。」


 行き場を無くして、ビルの影だったり、細い路地だったりと、街中にあふれかえる警察関係者の目を欺き、居場所を転々と変えていた三人だったが、父、皆上龍二からのメッセージを母、深雪が受信した事で活路を見いだすのだった。


「まさか、こんな形でおまえ達の父親だと名乗る日がくるたぁな。夢にも思ってなかったよ……やっぱり、あいつが引き合わせてくれてたんだな。信楽和哉がよぉ……本当にすまなかったな。散々な遠廻りさしちまってよぉ……」


 彼、皆上龍二が涙ながらにそう言ったのは深雪達三人が無事に自分の住み家にたどり着いた時だった。


「……名乗り出んのが、遅ぇよ親父ぃ。けどよ、ずっと俺達姉弟の事見守ってくれてたんだな……裏街の闇医者兼顔約としてよぉ。」


 康太が涙を隠すようにぶっきらぼうに言った。


「まあな……里緖はともかく、やっぱおめぇはあぶなっかしくて仕方ねぇからな。俺に似てよぉ……」


 父、龍二はそう言って、息子である康太に、バーボンを注いだマグカップを渡すのだった。


「でもやっぱりこれって奇跡だよ。この裏街と表の街。それぞれ全く違う道を生きてたあたし達が、形はどうあれ、こうして家族として巡り会えたんだもん……父親だと名乗りで出てくれて、ありがとう。父さん。母さん。」


 彼女もまた、何十年ぶりかの家族の団欒をかみしめるようにマグカップのバーボンを飲むのだった。


「そうかもね。あんた……これからまた、よろしくね」


 深雪がそう言ったところで四人の手にしたマグカップがカランと乾いた音を立てるのだった。


 明けて翌日早朝、一人の女性刑事が皆上家に訪れていた。


「瀬戸内主席監察官……お怪我の方はもう大丈夫なんですか?」


 早朝、しかも突然の彼女の来訪に皆上深雪は少し警戒気味に応対するのだった。


「そんなに警戒しないで深雪。あなた達を逮捕しに来た訳じゃないわ。事後報告も兼ねて、あたしの上官で後輩の西園寺優弥警視監が極秘に会いたがってるの。今回の件でお世話になったお礼に、食事にでも誘ったらどうかって、あの後優弥君に大目玉くらっちゃったわよ……今夜、西新宿のレストランバー、ラビリンス。で待ってるわ」


 彼女は、そう小声で言うと、寝ているであろう康太達三人を起こさぬように帰っていった。

「さすがに対応がはえぇな、俺の元上官はよ……」



 最初の深雪の第一声がかなり大きかったようで、眠たげに目をこすりながら彼女の内縁の夫皆上龍二が起きてくるのだった。



「ごめんなさい。起こしちゃったわね」


 彼女は、そう夫に謝ると、朝食の準備を始めるのだった。

 そしてその日の夜。時刻は二十時ジャスト。西新宿のレストランバー、ラビリンス。ここは昔から、マトリの警察関係者だったり、深雪の所属していた捜査四課の関係者が、エスと呼ばれる彼等子飼いの情報屋とが、情報交換だったり、情報収集によく訪れる。いい感じの、混みぐあいの、老夫婦が、二人で営む店だった。


「まず、事後報告からいいますと。例の警視総監殺しで自首逮捕となった、栗浜悠介なんですが、参事官の死後、急に協力的になり、次々と供述をし始めたんです……けど、迂闊でした。我々が、参事官の件で奮闘中に、参事官の息のかかった者に今朝方、拘置所内にて殺害されていたいたみたいです。」


 レストランバー、ラビリンス。最初にそう口を開いたのは西園寺優弥警視監だった。


「あのクソじじい、どいだけ卑劣なんだよ。まあ、あの栗浜も信用するには闇の深すぎる男だったが、曲がりなりにもマトリの元警官だった奴だ……」


 優弥から語られた事後報告を黙って聴いていた皆上龍二はポツリと無軌道にそれでいて、自分の警官時代の仲間の死が二人の警察官僚によって仕組まれた事だと知ると複雑な様相でそう呟き彼等二人の鎮魂にもにた感情のまま、グラスのバーボンを煽り飲むのだった。


「なあ、親父ぃ、警視庁だったり、警察庁だったりがよ。そんな、クズの集まりになってんならよぉ……全て、全部、一度、ぶち壊しちまおうや!真理子さん、優弥さん、単刀直入に言わしてもらうけどよ。最後は、堕天使からの逆依頼って事だよなぁ……引き受けた!親父は別にして、俺や里緖や母さんは、あんたにつくり出された。最終兵器みたいなもんだからよ……親父ぃ優弥さんと二人で、警視庁と警察庁。再構築頼んだぜ!」


「ばぁか!だからおめぇは単細胞だってんだよ。俺達が今、直面してる問題はなぁ。そんな単純明快な物じゃねぇんだよ……」


 息子である皆上康太の見事な決意表明に感服しながらも、父親らしい事何一つしてやれなかった反動からか龍二は切々と康太を説き伏せるのだった。


「ハイ、ハイ。二人とも、熱くなんないの。真理子先輩……優弥警視監。この件、あたし達四人で考えさせていただいてもかまいませんか?」


 酒が入り熱く語り始め自分達の状況変に気づかずさらに熱く語り始めた夫と息子の会話に母、深雪が割って入りさらに自分達の現状を把握するかのごとく親子の会話を無感情を装いながらも時折冷淡な笑みを浮かべながら見ていた真理子と優弥に彼女が核心を突いた一言をかけるのだった。


「え…ええ別にそれでもかまわないわ…」


 彼女に核心を突かれ真理子が明らかに動揺のイロを浮かべたのを深雪は見逃さなかったのだった。


「やはり、皆上さん達には申し訳ないが、消えてもらうしかないようですね……それから、あなたも……これでお役御免です……瀬戸内先輩。」


 彼、西園寺優弥は無感情にそう言うと隣に同席していた瀬戸内真理子をサイレンサーを付けた拳銃で自殺を偽装するのだった。

 この、ラビリンスで起きた事件は店の名のとおりにラビリンス。迷宮入りするはずだった。


 しかし、二人が深雪達四人を先に帰らせた事で事件は表面化するのだった。


「これで、全ての意図がつながったわね。あなた!康太!里緖!敵は警察庁にありよ!」


 あの後、ラビリンスを出た後。優弥の放った刺客を蹴散らして龍二の住み家に戻った四人。龍二の内妻皆上深雪が、反逆の狼煙を上げるのだった。

 そして、来たる日の戦いに備え、準備に余念のない、四人の元へ、一人の瀕死の重傷を負った女性が、倒れ込んでくるのだった。


「……か……彼を……た……助けて……」


 その女性は、最後の力を振り絞るように言って、そして事切れるのだった。


「真理子先輩……了解しました!」


 彼女はそう言ってその女性の遺体に敬礼して

 四人全員で彼女を手厚く弔うのだった。


 そして、作戦決行の宵闇迫る頃。皆上家の主である皆上龍二は妻の深雪と二人の子供の康太と里緖を自作の秘密基地に集め決起の狼煙を上げた。


「いいか、おまえ達。よぉく聞いてくれ。今回の相手西園寺優弥は哀れな男だ。家柄と親の立場の板挟みにあい、いつしか彼はその憂さを独自に立ち上げた内部告発機関で、その告発に上がった人間を処刑名目により残酷な方法で殺す事を始めたんだ。彼は徐々に魔王ルシファーに心を委ねてしまった。ただ、やはり、今現在の彼に優しかった昔の心を呼び戻すには、こちらも武力行使をしなければはっきり言って勝算は皆無だ。西園肇警察庁長官には俺が直接話しを着けてくる。後は何一つ心配しなくていい。おまえ達は、思いっきり暴れてこい!先日康太の言ったとおり、新しい物を造るには古い時代と名を変えた化け物をぶち壊さねぇとダメなのかもな……」


 彼はそう言うと、用意した水杯を深雪、里緖、康太の順に配るのだった。


「お互い生きてたらまたここで再会しましょ!」


 最後に、母親、皆上深雪が、全てをしめくくるように言ったところで、四人の精鋭はそれぞれの血を垂らした水杯を一気に飲み干すと、その杯を地面に叩きつけた。

 割れて飛び散るその破片が、彼等四人の、戦闘宣言だった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ