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十一話警察庁の堕天使其の壱

第二幕です。


 


「単純バカのあんたにしては、冴えてるわね…飛ばして康太!彼女の囚われている場所、奴より先に見つけるのよ」


 現場に向かい深雪の持参した赤色灯を回して走らせての車中母、深雪は息子信楽康太の展開理念に多少の嫌みを匂わせていうのだった。

 一方その頃、深雪の義兄信楽和哉巡査長は。あの國龍会本部事務所特設捜査本部を出て、義妹であり、階級的には直下の上司でもある。信楽深雪管理官の指示どおりに瀬戸内真理子元主席監察官の行方を捜査していた。覆面パトカーの車中、車載の無線機からながれる康太達三人が起こしたであろう。事案と、現役警視総監葛城隆三の死を知るのだった。



「あいつら……随分と派手に暴れたもんだな。しかし何故だ……ここまでの大事になっていながら、彼女の行方だけは用としてつかめねぇ……」


 彼は、車の窓を半分ほど開けて、思案にくれてタバコを燻らせた。そして、ある考えに行き着いた時、彼は覆面パトカーを停車させると運転していた巡査を車から降ろし自分でハンドルを握りとある人物の事と、以前、実父でもある信楽凌矢の口にしていた。人物の影がかさなり、先ずはその重要人物に直接会って事情を聞こうと思いたったのだった。


 その人物とは康太、里緒、深雪。の三人の実父でもある皆上龍二という人物で、西新宿の裏町で、もう何十年と闇医者兼、町の顔役として、その名を馳せる初老間近の白髪混じりの頭髪を短く刈り揃えた、年の割にはかなり童顔なのを隠すように、口髭をはやした。少しアンバランスな風体の男であった。


「おぉ……和哉か、丁度いいところに来たな。ちっと手伝え!誰にやられたか知らねぇがよ…まったくひでぇ事しやがるぜこんなクールビューティな女に四発以上も鉛玉ぶち込みやがってよ。」


 彼、皆上龍二はそうぼそりとつぶやくと吸っていたタバコを靴のつま先辺りで揉み消し和哉に中へ入るように促した。

 そして、彼に促され病室としてはかなり粗末な造りではあったが、それでも一年ほど型落ちしただけの医療設備の整った部屋に通されるのだった。


「……瀬戸内主席監察官……よかった。ご無事で何よりです……」


 彼がそう声をかけた時丁度彼女手術時にかけられた麻酔が切れるのだった。



「……信楽和哉巡査長……あなたがここ来たということは、あの三人が行動を起こしたのね……あの三人に伝えてください。全責任はあたしが取るので、ぜ……全力で暴れろと……そして……同じ内容を、あなたのお父様。信楽参事官にもお伝え願います……」


 彼女は乱れはじめた自分の呼吸をどうにか整えていうと、また、眠るのだった。


「皆上さん……しばらくの間彼女をお願いします……」


 ベッドに眠る真理子の顔を今一度見て、和哉が龍二に言った。



「……大体の話しの内容はわかってたからよ。彼女のこたぁ任せときな、それからこいつは、あいつらに伝えといてくれ……とてもおまえ等三人の前に、父親として名乗り出れた柄じゃねぇがよ……くたばるのだけは許さねぇぞってよ……頼んだぜ!信楽和哉巡査長」


 彼は自分の住居兼病室の玄関前まで和哉を送りそう声をかけ彼に向かい敬礼するのだった。


「ばぁか……今度はてめぇがくたばるみてぇに言うんじゃねぇや。全て方が着いたら、名乗り出てやれよ。世界中処探したって、あいつらの父親はおまえしかいないんだからよ……」



 彼に背を向け自分の車に向かう彼がそう言って手を振り車に乗りこみエンジンをかけた刹那だった。彼、信楽和哉の乗る車はエンジン始動と同時に発火装置が作動するタイプのダイナマイトによって、彼の盟友皆上龍二の眼前で爆死するのだった。


「なんてこった……ここもう、長居はできねぇな……」


 盟友の死を眼前に愕然とする彼だったが気持ちを切り替えて真理子を連れに住居に戻ろうとした時だった。



「龍二さん……建物に戻ってはだめぇえ!あたしの事はいいから早く逃げてぇえ!信楽和哉巡査長の死を無駄にしないで……そして……ありがとう。地位と名誉に目が眩んで悪の手先に成り下がった。こんなあたしでもあなたは、懸命に助けてくれた……改めてお礼を言うわ……そして……さよなら」



 彼女はそう叫ぶように言うと自身の寝かされていた簡易病室のドアを固く閉ざすのだった。


「……ちょっと待てよ!あんたは絶対守るってあいつと約束したんだ、だから、何が何でもあんたは連れて逃げる!」



 彼は病室の中の真理子にもはっきりと聞きとれるくらいの雄叫びにもにた大声を上げると、この辺一帯の治安の悪さから、護身用に所持していた。彼のマトリ時代に愛用していたアメリカ製の大型拳銃。ベレッタM29を抜くと病室の鍵の部分に狙いを絞りトリガーを引き病室の鍵を破壊するのだった。中に入った彼は、来たる死の時を待つかのように、ベッドに座る真理子を抱きすくめるようにして、避難用に造った地下シェルターへと二人して逃げ込むのだった。


「何で……あたしを助けるの?あいつはどんな手を使ってでも必ずあたしを殺しにくるわ……それを解ってて、あなたまで巻き込む事なんてとてもじゃないけどあたしはたえられない!なのに……なのになぜ?」



 地下シェルターへと逃げた二人、最初にそう口火を切ったのは真理子だった。



「そんなのきまってんだろ。全ての自分の不義を他人に頼って、てめぇは死に逃げる……そんなの卑怯以外の何物でもねぇや……それに、あいつには未だ返せねぇでいる借りがあるんだ……和哉と俺はマトリ時代の同期でよ、あいつの右足、義足にしちまったのは職務遂行中の俺のミスでよ……けど、あいつはその借り返せねぇまま、俺の目の前でくたばっちまった……俺の借りはもう二度と返せねぇけどよ……あんたを守るっていう約束だけは、絶対不義にしたくねぇんだ。だからよあんたも死んで罪償うんじゃなくてよ、生きてきっちり罪償えよ。いいや……生きてきっちり罪償ってくれよ。あんたみたいにすごい人間になるんだって頑張ってた。あいつのためにもよ」



 彼は問わず語らずに言うと真理子に静かに当て身を決めるのだった。


 そして、気を失った真理子を避難時の仮眠用のベッドに寝かせシェルターの更に一つ奥にあるセキュリティーシステムの施された部屋の扉を開くのだった。

 そして、中に入った彼は着ていた白衣を脱ぎ手早くアーミージャケットに着替えると小型のショットガンをジャケットの横に付いたホルスターに差し込み更にショットシェルを詰めたガンベルトを腰に巻き傭兵並みの装備を整えるとこちらに向かっているであろう栗浜悠介の放った刺客を待ち構えるのだった。


 そして、数時間後。彼の前に現れたのは大勢の仲間を連れた栗浜悠介ではなく、四人ほどのボディーガードを従えた還暦間近の

 一人の男性だった。

「信楽さん…何であんたが?」突如として現れた警察官僚の信楽凌矢に怪訝な様相で龍二が聴いた。



「久しぶりだな……皆上龍二元警部補。今日は君に折りいって頼みたい事があってな。君もニュースなどで知ってはいるだろうがいま、警視庁内部は現役警視総監が殺害された事でめちゃくちゃになっているんだ。警察官僚のわたしが公務に事情を挟むはいけない事なのも充分理解している。たが……今の私は、警察官僚である前に和哉だったり君から預かった深雪達三人の父親だ。彼等が今本懐を成し遂げようとしている栗浜という男は、とてもじゃないが彼等三人は無論だが……恥ずかしい話し、今の日本の警察機関の力では到底太刀打ちのいかない国際的な重要指名手配のかかっている男なんだ。単刀直入に言おう。全世界の裏社会を知り尽くしている君の力を借りたい…このとおりだ頼む」



 彼、信楽凌矢がそう言って龍二に深く頭を下げたのは彼に付いた護衛を乗って来た車に戻した時だった。



「ちょっと待ってくれよ信楽さん……いや、信楽凌矢参事官。先ずは頭を上げてください。事情はよくわかりました。あの子等は、やはり、あなたに預けて正解だった。あの子等に父親らしい事何もしてやれなかった……こんな父親失格の俺でも役に立てるなら喜んで協力させてもらいます。なぁんて、俺が言うとでも思ったかい?信楽凌矢さんよぉ今回の一連の騒動。裏で意図引いてるのがあんただったとわな……あの時と一緒だな。あんたはあの時だって、俺と和哉をただの捨て駒にしか思ってなかった。大方和哉の車に細工したのもあんたなんだろ?今回だってまた、あの時みたいに自分の出世のためなら利用できるモノは全て利用して、用さえ済めばあんたにしたらただのゴミ屑と同じ。そんな人の皮被った外道者以下のあんた……警察官僚としちゃあすげぇんだってなぁ?けど、人としちゃあ最底辺のクズ野郎だよ」




 彼、皆上龍二は信楽凌矢の微妙な様相の変化をも見逃すことなくそう言い放つのだった。



「やはり、君のような危険人物はあの時しっかりと息の根を止めておくべきだった。と反省してるよ」



 今までの柔和な様相を一気に修羅の様相に変え凌矢が龍二に拳銃を発砲しようとした刹那だった。

 その修羅場に参入した一台の軽ワゴンタイプの覆面パトカーその窓から投げられた一本のスローイングナイフが彼の拳銃を払い落としていた。



「何で……おまえ達がここにいるんだ。栗浜を始末しに行ったんじゃないのか?それに、父親の私を何故狙う?」


 まるで、化けの皮の剥がれた獣の様相で、彼は、この修羅場への参入者を激しく睨みつけるのだった。



「父親だぁあ?んな巫山戯た事ぬかすなぁあ何処の腐れ外道だよぉ。可哀相とも思わねぇし、同情もしねぇがよ。あいつはもうあんたに見捨てられたって自覚したんだろうな?あの惨劇の数時間後に近くの交番に自首したらしいぜ……だったよなぁ?母さん」



 彼はそう言ってここまで乗って来た軽ワゴンタイプの覆面パトカーに声をかけるのだった。


「ええ、そうよ。それと、和哉さんも無事よ。里緖」


 そう言って先に車を降りた黒髪のロングヘアを後ろでポニーテールに結んだ女性は車に同乗していた長身の彼女より、やや小柄なもうひとりの女性に声をかけるのだった。


「そうか……あいつが自首したか。おまえ達よくやったぁ」


 康太達三人の報告を受け、信楽凌矢は、薄汚い雄叫びに似た歓喜の声を上げるのだった。



「ふっ……バカはあんただぜ親父ぃ!あんたは、私利私欲のためにあいつを利用しようとした。けど、答えはその真逆で、まんまと奴の術中に踊らされてたのはあんたの方だったんだよ……奴を国際指名手配犯に仕立てるつもりだったが、あんたはそこで一つ致命的なミスをしてる。それは、あんたが奴との癒着関係を隠すために、当時マトリに所属していた俺に、内情を漏らしたからだ。」


 命に別条は無いとはいえダイナマイトの爆風と熱によって重度の火傷なのは変わらぬ彼、信楽和哉の呼吸が乱れるのだった。



「和哉さん……もういいよ……もう充分だよ。外道者に成り下がったあなたの父親には、もうこれ以上何言ったって無駄。あるとしたら……職務を返上しておとなしく出頭するか……もう一つは、この場であたし達に裁かれるか……悪の限りを尽くしたあんたにはこの二択しか術は残って無いんだよぉ!」


 彼女はそう言うと開けた覆面パトカーの後部座席に意識が朦朧とする和哉を横たえると四本のナイフで信楽凌矢の身体を建物の壁に縫いつけるのだった。



「ぬぅうう……何をするか貴様ぁ!一階の警部補風情が上官への反逆罪で左遷かもしくは即刻死刑だぞ」



 彼が建物の壁に縫いつけられた状態で尚もみっともなく足掻く姿はその場に居合わせる人間のそれぞれの逆鱗に触れたのだろう。その場に居合わせた彼等の得物が一斉に彼に向くのだった。


「待ってくれよ……撃たないでくれ。こんな外道者でも……俺の……俺のたった一人の父親なんだ……せ……せめて法の裁きを受けさせてやってほしい。もし、どうしても許せないなら……遠慮はいらない。俺も一緒にあんた達の裁きを受ける!」



 一同と建物の壁に貼り付け状態のはずが、彼付きのシークレットサービスに助けられ、恐怖心からか、その場に座り込み動けなくなっている信楽凌矢の前、激痛を堪えて立ちふさがったのは、先ほどまで覆面パトカーの後部座席にて意識朦朧としていた彼の息子、信楽和哉だった。

 彼のその、自分の命をも鑑みない行動にほんの一瞬だけ緩みが生じた時だった。シークレットサービスから拳銃を受け取った凌矢が自分を庇ってくれた息子に向けてその拳銃のトリガーを引いた刹那だった。父、凌矢の前に立つ和哉の身体は、横っ跳びに割って入った一つの影によって弾き飛ばされ代わりに、一人の男が左胸部に銃弾を受けゆっくりと倒れ、その命の灯火を消そうとしていた。


「あんたぁあああ!!……この……腐れ外道がぁ!おまえには法の裁きなんかより、鉛弾の裁きがお似合いだよ……」


 一瞬だけ発狂したように叫び、倒れる男の側にかけよった彼女だったが、途中から、表情をもたない。まるで能面のような、様相に変わり、その様相のまま愛用の四五口径の大型拳銃のスライドを引き絞り、ガシャンという冷たい金属音とともに、彼女の手にした大型拳銃の撃鉄が起こされ、弾丸の装填がなされたことを報せていた。


「母さん!そこまでだ!後は俺と里緖姉さんの領分だ。現役警視が官僚殺しなんてよ洒落にもなりゃしねぇぜ。それよか親父の最後看取ってやってくれねぇかな?」


 そう言ってトランス状態の彼女の前に出たのは、白の着流し姿に白鞘の日本刀を携えた康太と里緖の二人だった。


「信楽凌矢参事官あんたは殺さねぇよ……いいや、死なんてものには逃がさねぇよ。悪くいやぁあんたも、死んだ葛城も。奴にしたら氷山の一角にしかすぎねぇだからよ。あんたにゃあ奴と一緒に取り調べを受けて、後は塀の中ででも話すんだな……」


 彼、皆上康太はそう言って彼の腕を斬り落とそうとしたのだが、あれだけ何かと喚いていた彼が静かに無反応であることと、実父だった。皆上龍二の撃たれた弾道に疑問を抱き、彼への断罪行為を中断して、未だ座り込んだままの彼の身体を隈無く調べある事に気づくのだった。

 それは、父、龍二が撃たれたのと僅か数秒の差で彼、信楽凌矢は背にしていたはずの建物側の壁越しに何者かによって、何か鋭利なキリのような凶器で人体上最大の急所とされる煩悩窪を刺され既に死亡していた事だった。


「母さん……彼は既に死亡してたよ。父さんの撃たれる僅か数秒の誤差でね」


 康太がそう言ったのは、あの至近距離だったのにも関わらず、明らかに急所を外れ軽傷だった父、皆上龍二の側に里緖と一緒にかけよった時だった。


「親父、二人の間ぁ飛び込んだ時、背後に何か感じなかったか?」


 あれだけの至近距離だったのにも関わらず肩口を弾が掠めただけの軽傷で済んだ父、龍二に息子の康太が聴いた。



「康太ぁ、おまえ、しばらく見ないうちに随分と刑事らしくなったな。これは、俺がマトリの刑事だった頃……そうまだ、駆け出しで、マトリ組織の表も裏も、右か左かさえわからねぇときに、当時のマトリの課長から聴いた話しなんだがよ。当時のマトリにゃあ裏の処刑代行人なんて呼ばれてた……そう、堕天使ルシファーの再来か。なんて言われてた。悪魔みてぇな女刑事がいたらしいぜ……あの時……俺が飛び込んだ時、既に参事官は死んでたよ。参事官の弾いたチャカは……ありゃあ完全に、死後硬直による誤射発砲だ。じゃなかったら俺は今頃、三途の川の上だっただろうよ」



 彼はそう言うと痛む肩口を抑え半身を起こすと自分の住居の地下シェルターを指さすのだった。


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