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第4話 数字

1年近くがたったころのある朝、教室に行くと、そこに2019さんはいなくて、40代前後の男の人と、2019さんと同い年くらいの男の人がいた。

「私は0911、君たちに大事なお知らせがあってきた。まず、2019先生はしばらくお休みすること。代わりに今日から、こちらの2020先生が君らに色々教えていく。ここまでいいね?」

「はーい!」

「でも0911さん、2019さん、いつまでお休みするの?」

「あいつは自分のことを先生と呼ばせる礼儀すらなかったのか……。まあいい、2019先生は、いつまで休むかわからない。明日には戻ってくるかもしれないし、何年か後かもしれない。」

「なんでお休みするのー?」

「2019先生が戻ってきたときに聞きなさい。」

「えー、今知りたい!」

「黙りなさい」

0911さんは、02ことリンネの追及を、ぴしゃりと切り捨てた。絶対、齢4歳の子供に取る態度じゃないよな。

泣きそうな顔になるリンネをよそに、0911さんは続ける。

「そして、君らにつけられた名前の話だ。」

これを聞いた時、僕はどきりとした。

「名前は、生まれるときに大人からもらう最初の贈り物であって、けしてないがしろにしてはいけない。お互い、もともとつけられた名前以外で呼び合うなどもいけないことだ。これから気は、そのようなことが絶対にないように。」

この時まで、僕は失念していたんだ。

僕らに数字のような名前が付けられていたのは、僕らがその程度の存在だから。ちゃんとした名前すら付けてもらえないモノには、与えられた運命を拒否する力はないということを。

「では、2020先生に授業をしてもらいます。」

0911さんは、そう言って教室を出て行った。


「みんな、こんにちは。僕が2020です。今日は、命のつながれ方についてのお話をするよ。」

「はーい!」

「まず、僕らの体の成長について……」

えーと、ここからお昼までの何時間かで教えられたことをまとめると、大体小4から高校生までの保険内容を網羅できちゃう。ぶっちゃけヤバい。ちょいソフトにだけどR18な話もされたし。一体僕らを何にしたいんだ。実験動物にこんなこと教えるの?いや、待てよ。0911さんにも2020さんにも、数字の名前が付けられている。でも、どちらも20代、30代まで生きていられる。僕らが実験に使われて死んでいくんなら、もう生きているはずがないはずじゃないか。うーむ、まだまだ謎が多い。

「……じゃあ、お昼を食べたら、午後の授業でまた会おう。」


お昼の間、僕たち男子は、さっき2020さんに教えられたことばっかり話してた。男子は4つそこそこでも立派にエロへの興味があるのだよ。

そして午後。

僕らの前に立った2020さんは、こんな話をしたんだ。

「本当はこれから、それぞれの種族について詳しくやるつもりだったんだ。というか0911さんにやれと言われてたんだけれど、そんなものはあまり役に立たない。だからちょっとだけ話して終わる。」

「まずは人間、これは2019が話してくれたろうから飛ばす。それから獣人、これは自分らのこと、半分人間半分動物、高い身体能力と動物の力の一部を持っている。んでエルフ、魔力を扱う力が強い。耳が長いからすぐわかる。そいで巨人、これはでかくてパワーがある。他にも、宝物を代々守る小鬼族や、人間からおよそかけ離れた異形だが意思疎通ができて生活様式が人間なので亜人と呼ばれる妖怪族、人をたぶらかすめっちゃ別嬪さんなニンフなんかがいる。」

「最後に吸血鬼。見た目が人間で太陽の下に出たがらない奴は、たいてい吸血鬼だ。だが、『吸血鬼ですか?』なんて聞いちゃいけない。そういうやつに会ったら、何も言わずに、これ以上付き合わないようにしろ。他の種族よりもブチ抜けて危険だからな。こいつは他の奴の血を吸うんだ。吸われた奴は、全身の血を抜かれて死んじまう。だから、なるべく近寄るな。」

「はーい。」

「さっき話したので、この世の亜人は大体わかる。これ以外の亜人に出くわすことは、ほとんどない。」

この話は、2020さんが案外忘れん坊でおっちょこちょいだということを抜かさずに考えると、また違ってくる。そのせいで僕が大変な目に合うのは、また先の話。

2020さんの話は続く。

「あとは……名前の話、だな。」

僕は、本日2回目の動悸を味わった。

「0911さんは、名前をないがしろにするなと言ったよな。確かに普通はそうだ。でも、きみたちにとってはそうではない。名前は、子供を産んだ親が、その子供のことを心から思ってつけたものだ。だから、ないがしろにしてはいけない。でも、きみたちの名前はそうではない。区別のための名前だ。だから俺は、君たちが自分の名前を変だと思うことは、いけないことじゃないと思う。」

心臓の鼓動が、ふっと落ち着いた。

「そこで今日は、君たちに『念話』を教えようと思う。」

前世ではなかった技術に、僕の胸は、さっきとはまた違った理由で高鳴った。

念話のやり方を教わり、大体の子たちは、その日のうちにできるようになった。必要に迫られたら、人間(獣人だけど)、難しいことでも飲み込めちゃうもんだな。

「声に出して会話するときはもともとの名前を使わなければいけないけれど、念話ならその必要はない。自由に自分たちで決めた名前で呼び合うといいさ。」

2020さんは、そう言って授業を締めくくった。

それは、僕たちの、そして2020さんの、ささやかな反抗だった。

そして、2019さんが突然消えた理由を、僕らは数年先に知ることになる。

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