第3話 名前
「授業」らしきものが始まって、何日か経った頃。僕は、隣に座る13に聞いてみた。
「ねえ、ぼくらの名前、変じゃない?」
13は、真っ白い猫耳と、大きくてもの問いたげな目をした女の子。優しい表情で、生まれた時からベッドが隣だったこともあり、女子では一番に友達になった。
「変?なんで?」
「だってさ、みんな数字じゃん。えほんの主人公は、みんなアオバとかイリーとかって、おしゃれな名前がついてるのに。」
「そうだね……」
「ぼく、こんな名前、いやなんだ。」
これは本音だった。番号が名前だと、余計に実験動物感が増して、人として扱われなくなってるようで、悲しいから。
「だから、ぼくに名前を付けてよ!」
「でも、急につけろなんていわれたって、なんてつければいいかわかんないよ……」
「だから、たとえば……」
「おいおい12と13、何やってんだ?」
21が割り込んできた。
「えっとねー、12が、名前つけて、だって!」
「名前?もう、ついてるじゃないか。おもしろいこというなおまえ、あっはっは!」
21は、とにかくよく笑う男子だ。腕には斑点模様の毛皮が生え、大きく開いた口からはとがった牙がのぞく。
「もお、21ったら、わらいすぎよぉ。」
21の後ろから出てきたのは、同じく斑点模様の毛皮がある男の子、22。どことなく口調がオネエっぽい。
「うん、21のいうとおり、もう名前はついてるんだけどさ、なんだか、みーんな数字でつまんないなーって。それで13にたのんでたんだ。」
「でも、わたし、えほんにでてくるような名前しかつけられないから、やっぱりできない……ごめんね。」
「そういう12は、ほかの名前、わかるのか?」
「うん、なんとなく。」
前世で山ほど人と知り合ってるから、なんて言えないけど。
「じゃあ、おれになまえ、つけてくれよ!」
21が、どんと腰に手を当ててこちらを見る。
「いいよ。21は、いつも元気だから……ゲンキでいい?」
「おう!なんだかかっこいいな、きにいったぜ!」
「ねえねえ、ぼくにもつけて~!」
22がねだる。
「いいよ。じゃあ……ユウキで」
「わぁ、ありがとう、すてき~!」
「なんだよ、おまえらさっきからなにやってるんだ?」
さらに割り込んできたのは、僕らの中で一番のガキ大将、斑点模様の毛皮を持つ01だ。
「いまね、21と22に名前つけてたの。」
「名前?もう、01っていうのがあるじゃないか。」
「ゲンキとかユウキって名前と01、どっちがかっこいいかな?」
21と22……もといゲンキとユウキがにやにやと01の方を向く。
「……12、おれにもなまえをつけろ!」
「はいはい。じゃあ、きみはゴウだ。」
「やりい!みろ、おまえらよりかっこいいぞ!」
「ねえねえ、みんなでなにやってるのー?」
「おれたちもまぜろよー!」
興味を持ったらしいほかのみんなが、遊んでいたおもちゃや絵本を置いて、こっちにやってきた。事のあらましを説明すると、みんなこぞって名前を欲しがったので、みんなに名前を付けた。いやー、大変だった。前世も含めて、こんなに人に名前つけることって、なかったからな。
そうやって全員に名前を付けて、なんとなく疲労感を感じていると。
「ねえ、12はわたしたちに名前をつけてくれたけど、12はどうするの?12だけ変な名前じゃ、やだよ。」
そう言って、13……もといミサトが、僕の目をのぞき込んできた。
「そうだね、じゃあぼくは、じぶんでじぶんに名前をつけるよ。」
その名前は、もう、とっくに決めてある。
「ぼくの名前は……トキトだ。」
僕の、前世の名前だ。
こうして、数字よりはるかにいい名前を手に入れた僕たちは、お互いのことを数字でない方の名前で呼ぶことになった。僕も、実験動物じゃない気がしてきて、嬉しかった。
そう、僕たちが、数字の名前しか付けてもらえない存在だということを忘れて。