第2話 この世界の種族構成
3年が経った。その間に、わかったことがいくつかある。
まず、今生の僕について。名前は4612。46が苗字、12が名前のような位置づけだ。他のみんなの名前もこんな感じ。46までが一緒で、他はみんなバラバラ。1から30までがひとりずついるから、何かの順番の通し番号かもしれない。僕は猫系の獣人らしく、真っ黒な耳と尻尾が生えている。顔はまだわからない。というのも、この姿になってから、まだ鏡を見たことがないんだ。
次に、同じ部屋に寝かされていたみんな。全部で30人。僕と同じように猫耳と尻尾のある子もいれば、兎のような長い耳が生えている子もいる。腕に翼がある子もいたし、人間にしか見えないような子もいる。名前と言い何といい、実験動物として飼われているような雰囲気もあるけれど……じゃあ何で人間が紛れ込んでるの?という疑問は残るな。僕たちはある程度自由に遊んだり、絵本を読んだりして暮らした。絵本の主人公は、だいたいはいわゆるところの人間で、動物という位置づけのキャラもいた。この世界の基本種族は、やっぱり人間なんだろうな。
そんな僕らは今日、ちっちゃな机といすのある部屋に連れていかれた。腕が斑点模様の毛におおわれている、20代半ばの女の人が、一番前に立っている。なんだか、学校の授業みたい。
「今日は、みんなに、おんなじ本を配るわね。」
「え、ひとり1冊、あるのー?」
「そうよ、みんなに1冊ずつ。」
「わーい!もうこれで25と取り合いしなくて済むー!」
「先に取るのは06だろー!」
「はいはい、ケンカはよして。さあ、配るわよ。」
女の人は、みんなに本を配った。表紙はまっさらで、開くとイラストが描いてある。このシチュエーション、学校の新学期にそっくり。そのシチュエーション通りに行くと……。
「始めまして、みんな。私は2019、よろしくね。」
案の定、先生の自己紹介だ。
「あー、私と、名前、おんなじだー!」
4619が叫んだ。
「そうね、4619ちゃん。さて、この本のことを教科書と言います。」
あ、新学期シチュどころか完璧に新学期だこれ。
「教科書の1ページを開いてください。」
さらさらと、ページをめくる独特の音が響く。「人間」と真ん中に書かれた円と、エルフ、獣人、吸血鬼、巨人などの円がある。人間以外の円は、「亜人」と題された大きな円でくくられている。
「この丸一つ一つを、『種族』といいます。私たちは、みんな獣人っていう丸のなか、獣人っていう種族の中にいるの。02とか10とかも、ぱっと見はそうは見えないけれど獣人。」
えっ、そうなのか。見た目は完全に人間なのに。っていうことは、僕らは実験動物説が再浮上してきたぞ。でも、そんな使い捨てに教育を施すのは……むむむ、わからん。
悩む僕をよそに、2019さんの説明は続いていく。地味に難しいことをやってる気もするけれど、みんなついてきてるのかな?
「他の種族と一緒に、『亜人』と呼ばれているわね。この『亜』っていうのは、いわゆる『本物じゃない』っていう意味なのよ。で、その『本物』というのが、この『人間』。」
2019さんは、それを強調した。
「この『人間』は、腕や足、おなかにはほとんど毛が無くて、羽も爪も、何も持たない。その代わり、頭がとてもいい、と言っているわ。」
その言葉にはやや皮肉が込められていた。
「みんなで集まると、とても強い力を出せるのは本当よ。数もとっても多くて、他のどの種族よりもたくさんいる。それで、自分たちのその集まった力で、他の種族を抑えた。今、人間は敵がいなくなって、数があまりにも増えすぎちゃった。それに、他の種族の人に、ひどいことをする人もどんどん増えてきたの。だから、」
2019さんの目つきが、心なしか強くなった。
「増えすぎてしまった人間は、殺して数を正しくしないといけないの。ひどいことをする人も、生きていてはいけないの。わかった?」
「はーい!増えすぎちゃっておかしいから、減らそうってことねー!」
02が元気よく手を上げた。
「そういうこと!みんなもいいかな?」
「「いいでーす!」」
みんなも無邪気に笑って声を上げる。僕も表面上は明るく言ったが、内心はぞわぞわと粟立っていた。
なんだこの教育は。人殺しを容認するための、下地作りじゃないか。
こんな洗脳、いったい誰が、何のためにやっているんだ!?