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隣のクラスに伝説の教師が赴任してきたらしい

作者: 佐々笹

「兼末先生!あの先生の噂って本当なんですかねぇ?」


「さぁ、どうなんでしょう?」



俺は、梅中学校、3年A組担任教諭をやっている、しがない中学校教師だ。

職員室で同僚の教師の噂話に付き合っていたところだ。


噂の主"あの先生"とは

先日、隣のクラスの女性教諭が産休に入ったことで、代わりにやってきた

男性教諭のことだ。


もう定年しているので正規の教師ではなくて、お手伝い講師だという。

見た目は、ずんぐりとした足の短い、さえないおじさんだ。

そのくせ、せこせこと動き回る無駄に元気なおじさんだ。


その、おじさん講師は現役時代、伝説の教師だったという噂なのだ。


ふと考えていると、同僚の教師は

「噂はしょせん噂なんですかねー」

と言いながら、自分の席へと戻っていった。


俺は、その伝説の教師の噂を思い出す。



なんでも


教え子同士がカップルになり、そして妊娠して、15歳で子供を産ませて

それをバックアップしてことをおさめたとか。


それって、一教師の職務の範疇超えてね?



またある時は

他校から転校してきた生徒が元いた学校の教師に殴り込みをかけて

警察沙汰になったけど、


「お前たちは俺の生徒だ!」

「大人達の責任は無いんですか!」


という意味不明な主張を押し通して、不起訴にしたとか。


それって、生徒がした悪さというレベル超えて単なる暴行傷害事件じゃね?

それで不起訴にできんの?

とか思うのだが、生徒の殴りこんだ理由が

自分達を腐ったリンゴに例えたから、というこれまた意味不明な主張で

そもそも、この噂の真偽を疑うぜ。




またある時は

表はクラスを引っ張るリーダー格の女子生徒が実は裏で虐めの

リーダーであることを見抜きながら、直接そこには手を加えず

他の生徒たちを啓蒙していくことで、更生させたとか。


どうなの?そういうリーダー格の子供って頭が回って驚くほど強かだから

そう簡単にしっぽなんかださねーんじゃね?これも嘘っぽいな。




またある時は

中学三年生になった我が子が白血病に倒れ、そんな中で

生徒の一人が性同一性障害であることを知り、その子供に寄り添い

送り出したとか。


もう問題の渋滞だよな。

っていうか、我が子についててやれよ。

教師は常に自分の身を削らなきゃいけないのかよ?




またある時は

生徒の一人が薬物依存になって、その子は逮捕されたのだが

彼を救ってあげられなかったと泣いたとか。


いやいやもはや一教師の範疇完全に超えてるだろ?

これ完全な警察案件だろ?

それを自分のせいだ、とかどーかしてるぜ?



目立った激しい伝説はこんなんだけど

そもそも担任になると、生徒たちがほぼ毎週何か問題を起こして

それを体を張ってどうにかしてきたらしい。

ほんとかよ?

そんな毎週毎週問題起きるとか、そんなクラスあんのかよ?

そこまで、問題生徒が集まることとかあんのかよ?


それって冷静に考えたら生徒側に問題があるんじゃなくて

この教師に何かあるんじゃねーかと疑うよな。





そして極め付きは

ある年の男子生徒。

表は優等生でクラスを引っ張るリーダー格。

しかし裏では、虐めのリーダー。

他の生徒たちをあおり倒して、しまいには別の教師に暴行して

病院送りにした生徒、健次郎。


なんか問題生徒の総集編みたいなやつだな。


ソイツは、実は引きこもりの兄、家庭に無関心な父

狂気レベルでヒステリーな母親など、家庭に問題があり

とうとう母親を包丁で刺してしまった。

そして警察に追われ逃亡した。

という問題の宝石箱なヤツ。


その教師は、コイツの逃亡先にやってきて

「君の苦しみに気が付いてやれなかった、、、ごめんな・・・健次郎、ごめんな・・・」


とその血だらけの手をとり、ボロボロと涙を流したんだ。



先生は何一つ悪くないよ。悪いのは全部、その生徒だ。

救ってほしければ、救いの声をあげればよかったんだ。

それを何も言わなかったのはその生徒だ。

先生のせいなんかじゃないよ。

なのに、先生は。


と、考え込んでいると、職員室の扉がガラリと音を立てて開き


短足で老齢の教師が、こちらへやってきて俺の隣へ座る。

噂の伝説の教師だ。


「あー、もう問題山積みだな」


俺は隣で髪の毛(昔よりだいぶ少なくなったな)をかきむしる伝説の教師に声をかける。


「先生、大変ですね」


伝説の教師は俺のほうへ向き直り


「そうなんだよー、我々のちっぽけな力で解決できることなんか

たかが知れてるからね、ホント、苦悩の毎日だな」


と言い苦悩の表情を浮かべたが

しばらくして何か思い出したようにニコリと笑い


「いやー、君とこんな話ができるとは夢にも思ってなかった。

嬉しいよ、教師冥利につきるとはこのことだな、健次郎」


と俺の肩をバンバンとたたいた。



あいかわらずですね、先生。


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