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病院の休憩室の世話話

作者: 千代乃

大叔父が入院している病院にいくことになった。名目上はお見舞いという形だ。地方の県病院で、大きく立派な建物だったが、五時を回っていることもあり私たち以外の見舞客は見なかった。駐車場にもほとんど車がとまっていなかった。


大叔父のことは家庭の事情のことで、話の筋とは関係ない。病院には、私と両親と祖父で来た。見舞いの後、休憩スペースで両親が祖父と話をしているところから距離をとって私も休んでいた。あの輪の中に入ったら私も冷静ではいられないだろうし、帰りの運転のために休んでおきたくもあった。トラブルのおかげで一日中アドレナリンが出て興奮状態の疲れ知らずだったが、夜の高速を走って帰らないといけない。母も疲れているだろうから、私が運転するしかない。父は運転免許がない。


自販機で買った水を時々口にしながらぼーっとしていると、年配の女性のふたり組がやってきた。彼女たちは持ってきた水筒とお菓子をテーブルに広げて世話話を始めた。


話の内容で、一人はここで仕事をしているのが分かった。もう一人は義父がここに入院しているようだった。


(結局は金のトラブルなんだよなあ)


私がぼんやり考えていると、


「それで返してもらえたの?」


と年輩女性の声が耳に入ってきた。


「返すわけないじゃない」

「でも、勝手にここの物取って行くわけでしょ。ドロボーじゃない」

「そうよ。ドロボーよ。信じられない。こっちが気づいて注意しても開き直るんだから」

「しかも、クレーマーなんでしょ」

「そうそう、これができてないあれが駄目だって文句ばっかり」

どうやら、入院患者の家族の話題のようだった。

「ああ言う人は、自分が手にしたものは絶対に離さないから。どうも、家、ゴミ屋敷みたいなの」

「ベッド周りもすごいものね~。虫がわきそう」

「ゴキブリ出てたって。それはともかくこれは聞いたんだけど」


同僚に、その家族と同じ町内の人がいたようだった。


「昔っから手癖が悪かった見たいよ。家に遊びにきたら、絶対に何か無くなるって有名だったそうよ」

「今まで捕まってないの?」

「あー、万引きで何度か捕まったことはあるみたい」

「やっぱり。もう病気みたいなものね」

「そうそう、でね。先月〇町の〇〇さん無くなったの」

「〇〇さん……」(思いだそうとする様子)

「ほら、庭に変な像が沢山あって、門に「悔い改めよ」とか貼ってある…」

「ああ!〇〇さん!……思いだした。あそこは息子が独り暮らししてたんだっけ。少し前にご両親が立て続けに亡くなられて……」

「そうそう…遠縁の方身内だけで葬式あげに来られたんだけど」

「まだ若くなかった?40代くらいでしょ」

「50だったみたいよ。ずっと仕事はしてなかったみたい」

「そうなの?でもあそこ、軽トラがよく出入りしたいたような…」

「どうもね、彼もドロボーしてたみたいなの」

「どういうこと?」

「あっちこちの廃寺、神社で石像とかを取ってきてたみたいなの」

「庭の像はそういうこと……」

「ネットで売ることが目的だったみたいよ。◇◇さんの息子さんがサイトみつけたって。ネットオークションとか色々出品してたみたい」

「罰当たりなことよくできるわね」

「だから、罰があたったんじゃないのかって」

「ええ?」

「だって、スーパーでその息子が珍しく自分から挨拶してきて、ニコニコしてるから理由をきいたんだって。そしたら【すごくいいものを見つけた】って。その人、ドロボーしてること知ってるから【大丈夫なの】って聞いたそうよ。そしたら【大丈夫かなどどいうものじゃない。とても力のあるものだから、持ってるだけで運が上向く】とかわけの分からないことを言ったそうよ。【盗まれてはいけないから常に身につけている】って。でもそのあと、飼い犬とご両親が立て続けに無くなったわけでしょ。本人の死に方も変だったみたいだし…」

「そういえば、あの家やたら吠える柴犬いたわね。亡くなったのはどうして?」

「犬は自分で首輪とって、逃げだして車道ではねられたって。ご両親はねえ……奥さんは病死っていわれてるけど、自殺みたいよ。首をつって亡くなったって。ご主人は川に落ちて亡くなったみたいだけど…息子は自損事故でなくなったって」

「まあ……」

「亡くなる前に【盗まれた!盗まれた!】って喚きながら車に乗り込んでいるのを近所の人が見てたそうよ。それで、民家に突っ込んで亡くなったみたい」

「突っ込まれたおうちの人は無事だったのかしら」

「運悪く長男が家に帰ってきたところだったみたいでね…半身不随よ」

「詳しいわね…」

「ここに入院しているから」

「嘘」

「母親は備品持って帰るし、クレーム入れる面倒な人よ」

「えー」

「昨日、ここで自分の再健診を受けた後、旦那さんが仕事中倒れたって連絡があって慌てて帰ったみたいよ」

「もしかして…」

「彼女、民生委員で口実つけては人の家に上がり込むんですって……不幸があったお家なら、口実なんて作らなくても上がりこめるじゃない……?」




私は両親と祖父が話に一区切りつけたのを見て立ち上がった。


ドロボーなんていくらでもいる。人のものを許可無く勝手にもっていくやつ。許可を取ればとってもいいと主張するやつ。因果応報なんてありはしない。自分の身は自分で守るしかないのだ。悪いことしたら罰があたる、お天道様が見てるなんて、ファンタジーだ。


しかし、一方でそんなことがあればいいのにとも思う。そういう話はどこか甘美な香りすらする。


その女性がか何の【再検査】を受けていたかは知らないが、何となくよい結果は出ない気がした。



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― 新着の感想 ―
[良い点] ∀・)なんだろう、面白い視点から捉えた怪談という印象。でもなかなかに斬新な発想だと思いますよ。意味がわかれば怖くなる話ですね。 [気になる点] ∀・)人によっては読みこむ必要があるかもしれ…
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