町へ
エイトと暮らして一年がたった。
毎日がやさしく穏やかだ。
今日は一ヶ月に一度の買い出しの日。
エイトは私と暮らしはじめてから町に行くようになった。
それまではこわくていけなかったそう。
「アデル、準備できた?」
エイトが人型になっている。
年は13歳くらいだろうか。
プラチナブロンドの美少年。
群青のやさしい瞳は変わらない。
「できたわよ」
私は髪を編み込みまとめ、飾りピンをつけた。
ドレスは白いレースに縁取られたネイビーのふんわりしたもの。
先日の誕生日にエイトから贈られたものだ。
「僕の目とおそろいだよ」と照れながらくれたときはかわいさに萌え死にそうだったのは内緒だ。
「アデル、今日もとても綺麗」
エイトは微笑みながら腕を出す。
私がつかまると腰に手を回す。
瞬間、ふわっと景色が変わり、私たちは森から町の雑踏にいた。
「いつもながら便利ね」
私は店を回る。
食料品は買う度にかごに入れるふりをしてエイトの転移魔法で家に送る。
必要品を買ったあとは昼食。
「エイト、何食べたい?」
「金のたまご亭のパンケーキかな」
甘党のエイトは目を輝かせた。
店に向かう途中、男性の怒鳴る声がした。
喧嘩だ。
反射的に声の方を振り向く。
筋骨たくましい男性と、身なりの良い若い男性が言い争っていた。
若い男性が殴られて倒れる。
私は思わず駆け寄る。
「大丈夫ですか?」
左頬が赤くなっており、くちの端からは血が出ている。
私はハンカチを水筒の水で濡らして男性に渡す。
「アデル」
エイトが呼ぶ。
「それではお大事に」
私は男性に一言残すとエイトのもとに戻った。
「なんでも首をつっこんじゃいけないよ」
エイトはあきれ顔。
「おまけに治癒までして」
ばれてたか。
私はハンカチを渡すときに『祝福』をした。
私の気を送るのだ。
これで明日には完治するだろう。
「あ、お店についたわ!」
私は話をそらした。
金のたまご亭は人気店。すごい行列である。
私たちはしりとりをしながら時間をつぶした。
ようやく私たちの番が来る。
「リコッタチーズのパンケーキとランチセットを」
私は唐揚げのランチセットにした。
すぐ運ばれてくる。
「おいしい!エイト、あーん」
私は嫌がるエイトに唐揚げをお裾分けする。
「むぐ…。おいしい!でもやめてよ、恥ずかしい」
私は「ごめんね」と言いつつ、「あーん」と口を開けた。
エイトは「反省してないね」と言いながら、パンケーキを私の口に入れる。
「うふふ」
私が思わず微笑むとエイトもあきれながら笑顔になる。
「アデルは本当に貴族だったの?こんな令嬢聞いたことないよ」
エイトは私に会うまで人と関わったことはなかったが、竜同士の伝聞で知識は知っていた。
「私は異端だから」
その時、声をかけられた。
「お食事中申し訳ありません。お嬢さん」
見ると目鼻立ちの整った、切れ長の黒い瞳が印象的な青年がいた。
「さっきはありがとうございました。これ…」
青年は私のハンカチを渡す。
「さっきの…!」
「私はアーサー。ボンネルンド家のアーサーです。これはお礼です。」
青年…アーサーは小さな包み紙を渡した。
有名なキャンディボンボンのお店のものだ。
「気を使わせてすみません。こちら、大好きですわ。ありがとうございます」
アーサーはにこっと笑った。
怜悧な美貌がやわらいで、やさしい印象に変わる。
「お嬢さん、お名前をお聞きしても?」
「私はアデル、ただのアデルです。こちらはエイト。」
エイトはむっすりしている。
アーサーはそれを察して「また会いましょう」と去っていった。
「あーあ、あんなイケメンと知り合っちゃって。アデルの番になる?僕はまた一人になっちゃうのかなー」
エイトがすねている。
「私の番はエイトよ」
私がにっこり告げるとエイトは真っ赤になった。
「意味わかってる?」
「わかってる!だーいすき、エイト!」
私はエイトの頬にキスをした。