魔物の森とエイトとの出会い
魔物の森で私は馬車から降ろされた。
「本当に申し訳ありません、聖女様…。いつもやさしくしていただいたのに…」
衛兵隊長は涙で声をつまらせる。
ほかの衛兵も同様だ。
「その言葉だけで十分です。ありがとう」
私は精一杯の強がりで微笑んだ。
「さようなら。神様のご加護を信じます。また会いましょう」
私は魔物の森を進んだ。
◇◇◇
もうどれだけ時間がたっただろうか。
のどがからからだ。
空腹はとうに感じない。
魔物の森、というからさっさと魔物でもなんでも出ればいい。
楽になりたい。
聖女剥奪…、私はその事実に絶望していた。
婚約破棄はどうでもいい。
聖女という存在は一時代数人である。
その力はすべてを癒すと言われ、死者を甦らす以外は可能と言われている。
私は物心ついた時から資質があると言われ、実家ではなく教会で育った。
訓練は血を吐くより辛いもので、大聖女のもと昼夜なくしごかれた。
あの日々が無駄になるなんて。
15歳。
ようやく成人を迎え、これから一人前の聖女としてたくさんの人を救いたかったのに。
私はそこで意識を手放した。
◇◇◇
「大丈夫?」
目が覚めると目の前にいたのは巨大なドラゴンだった。
「ひっ…!」
私が飛び起きるとドラゴンは「ごめんね!」とあわてたように言った。
「僕は白竜のエイト。良いドラゴンだよ」
私は白竜様の瞳をじっと見た。
群青の瞳には知性と慈愛、そしてとまどいがある。
きっとこの方が私を助けてくれたのだろう。
「私はアデルと申します。白竜様、助けていただいてありがとうございます」
私は立ち上がると一礼した。体がふらつく。
「大丈夫?無理しないで。」
白竜様が私の体を顔で支えてくれる。そして座るように促す。
「かわいい名前だね。よろしくね、アデル。僕はまだ120歳の若い竜なんだ。人と話すのは初めてだから緊張するよ」
白竜様はちゃめっけたっぷりに片目をつぶった。
…つもりだろうが、うまくできずに両目をつぶっている。
私は思わず微笑んだ。
安心するとお腹がキューと鳴った。
「アデル、何か食べれる?これどう?」
白竜様はごそごそと林檎を取り出した。
「いただきます。ありがとうございます…!」
私は出来る限り下品にならないよう気をつけながら、むしゃぶりついた。
おいしい…!
私は感動した。
「おいしいです。白竜様!」
「喜んでもらえて良かった。アデル、僕のことは名前で呼んでね。エイトだよ」
エイト様はニコニコしているように見えた。
こうして、私たちは出会った。