農園生活
「最初はどこからいく?腕か?眼か?それとも内臓か?」
フフフッと悪魔のように嗤って恐ろしい相談しながら、舐めるような目でその三人はこちらを見た。
今俺は椅子に縛り付けられている状態だ。
今なら山姥に捕まった少女の気持ちがよくわかる。
目の前にいる三人、もといレアとリヴァルとクロエは俺をどこから切り刻んで食べようか話し合ってるらしい。
昨日は俺のことを仲間だと言ってくれていたのに・・・
騙されていたのだろうか・・
自らを“魔王”と名乗った少女、レアは大きな鉈を揺らしながら此方へ近寄ってきた。
「ふふっ、まぁとにかく首から落としてしまおうか・・・」
そう言って大きく鉈を振り上げて・・・
鉈は俺の首へと・・・
「ぎゃあああああーー!!」
◇◇◇
「ぎゃあああああーー!!」
飛び起きた。
勢い余ってベットから落ちて足を捻ってしまった。
「夢、夢か・・・・」
はあはあ、まぁ夢でよかったなと息をつく。
「うわっ!いきなり飛び起きてどうしたんだ?」
俺の声に驚いてしまったらしき者に目を向ける。
まぁ予想通りにレアがいた。
思わずビクッとなってしまったのは不可抗力だ。
「いや、何でもないよ。悪夢、そう悪夢を見ただけだから・・・」
どんな内容だったかは決して言わない。
「何でもないんならいいんだが。あの時急に倒れて本当に驚いたぞ」
レアは花瓶の花の手入れをながらそう言った。
「悪い。ちょっと色々、衝撃の強いことが重なっちゃっただけだから」
「すまんな、驚かせてしまって」
「もう大丈夫だ。多分何が来ても耐えられる」
みんな人型だったし、めっちゃバケモンだったりはしないはずだ。多分・・・
「部屋にまで運んでもらって済まないな。それでここは何の部屋なんだ?」
「ん?ここはケンスケの部屋だぞ。これからは自由に使っていい。場所は屋敷の端の方だが・・」
なんかサラッと聞き逃せないこと言ったぞ
「俺の部屋?いきなりそんなものもらっちゃっていいのか」
「問題ない。それより体に問題がないならこれから朝食を取るからこれからのことでも話し合おう」
どうやら朝まで寝てしまっていたようだ。部屋の窓からは朝日が差し込んでいる。
昨日ぶっ倒れたのは夜だったし、一晩寝たってことだな。
「わかった。すぐ行くよ」
「ああ、忘れるところだった。ケンスケ、服はリヴァルとシュラが着なくなった服があったからクローゼットの中から適当に出して来てくれ」
なんと服まで用意してくれたらしい
「ほんと何から何までありがとな」
「気にすることはない。これから一緒に過ごす仲間だろう。」
当たり前のようにそう言って、食堂の場所だけ伝えてレアは部屋から出て行った。
「よし」
あの悪夢のことはとりあえず脳内から消去して、レア達の厚意に甘えて着替える事にした。
動きやすい服を選んで着てみた。
サイズはどれもちょうど良かった。
服が決まったところで、レアに言われていた食堂に向かうことにした。
結構広かったけど迷わず辿り着けた。
ドアを開けることが少し緊張したが、待たせてはいけないので気持ちを整えて入った。
「おはよう」
「おはようございます」
「おはよー」
「おはようございます。よく眠れたみたいですね」
「おっはー」
みんな挨拶してくれた。
たった数日間だったけど人のいないサバイバル生活は、大分人恋しくさせてくれたようだ
「おはよう」
今日この一言で何かが始まる、そんな気がした。
◇◇◇
朝食も美味かった。
和食では流石になかったが、西洋で出てくるような朝食だった。
「だいたい決まったな。最初は慣れないと思うが頑張ってくれ」
「わかったこれからよろしく頼む」
これからのことを説明するとこうだ
取り敢えずはこの世界のことを俺は一切知らないわけだから、農作業の手伝いをすると並行して世界の構造や世界情勢など、あとは魔力や魔術の使い方についてレクチャーしてもらうことになった。
時間割としては早朝から農作業の手伝いをして、朝食をとってから午後に授業をやってくれるらしい。
授業の先生は日替わりだそうだ。
両方とも今日から始めてくれるそうだ。
本当に何から何までお世話になってしまっている。
ちなみに早朝からの仕事はもう終わらしているらしい。
「一先ず、農園を案内するからついてきてくれ」
レアが席を立ち催促する。
「では私達は持ち場についています。御用がありましたらお呼び下さい」
リヴァル、シュラ、リアラがそれぞれその場から消えた。おそらく転移でもしたのだろう。
「私はのんびりしてるから飯の時間になったら呼んでくれ」
続いてクロエも消えていった。
「いやお前は働けよ」
ボソッとレアが悪態をつく
そういえば、と
「レアは魔王なんだろ?それなのになんで農業なんてやってんだ?」
それは今朝の夢を見てでの感想でもあった。
偏見かもしれないが“魔王”なんていえば俺にはそういうイメージがあった。
「んー、そうだな。昔はちょっとやんちゃした時もあったんだけれど静かな場所で野菜を育てるのが夢なんだと、とある奴に言われてな」
「とある奴?」
昔を懐かしむようなそれでいて哀しそうなレアの表情に思わず声を掛けてしまった。
だが、気にするなと言われ会話は終了してしまう。
しばらく無言のまま数分歩き、巨大な魔方陣のある場所まで来た。
ここは屋敷を出てすぐの庭園にあった。
「ここが入り口だ。このまま転移するぞ」
よくわからなかったが取り敢えず魔方陣の上に乗れと言われたのでいう通りにした。
「じゃ行くぞ」
レアがそう言ったと思ったら目の前が真っ白になり、全く別の景色が現れる。
緑、赤、黄色、青。
そこは様々な草花に囲まれた場所だった。
見渡す限り一面に広がる色とりどりの世界はとても幻想的だ。
「ようこそ。ここがスティア農園、又はダンジョンと呼ばれている場所の第三階層だ」
どうやら俺が今いる農園は巨大なダンジョンをも兼ねているらしい。