三話 危険な森の旅路②
…2日目
安眠など出来るはずがなかった。
神経をすり減らし常に周りを警戒しているうちに夜は明けた。
(ずっとこの場所から動かない訳にもいかないからな)
森を抜けないことにはどうしようもない。
取り敢えず、しばらくの食料になるであろう林檎もどき(仮)を持てるだけ持って移動を開始する。
(これがあれば、多少の水分補給にもなるしな)
◇◇◇
…半日後
「全っ然、抜けらんねーーー!」
(広すぎる、端が全然見えてこねぇ。)
こちらは寝不足な上ひたすら歩き続けて足がパンパンなのだが、森はそんなこと関係なしに広がっている。
何より…
(あのクソ猿め、次会ったら覚えておけよ!)
そう、唯一安全が確認された林檎もどき(仮)を猿の魔物らしき者に奪われたのだ。
魔物はホーンラビットばっかりで油断していたところを、木の上から強襲された。
油断してた俺も悪いが、なんとか死守できた果実は一つだけだ。
そん時に、引っ掻かれてミミズ腫れした頬がまだ痛い。
しかし災難はそれだけにとどまらない。
憎き猿野郎の猛襲から逃げきった後のことだ。
俺はただ一つ残った果実をかかえ泣きそうになりながら森を歩いていた。
「ーーーラ、ーーーララー」
何処からか変な声が聞こえたんだ。
(もしかして人がいるのか!?)
なにかの魔物の可能性もあったが確認しない訳にはいかない。
声のする方に近づいてみた。
少し歩き、開けた場所に出たところで声の正体がわかった。
花が歌っていたのだ。
一つや二つではない、色とりどりの花が何百と集まって大合唱をしていた。
チューリップくらいの高さの可愛らしい花が集まる花畑だ。
人がいたわけじゃなかったので落胆する気持ちもあったが、とても綺麗な音でしばらく聞き入ってしまった。
(なんだ、この森も案外良いとこあんじゃん)
つい気持ちも和やかになる。
どんな仕組みで声を出しているのかも気になった。
「フミュッ」
「んん?」
足に違和感を感じる。
なんか噛み付かれてる。
甘噛みのようで痛くはないんだかムズムズする。
不気味なんで一応すぐ離れる。
足を引き戻せばすぐに離れていった。
それから数時間経つが、噛まれたところがめっちゃ痒い、それはもうとにかく痒い。
(ろ、ろくなもんがいね〜)
一瞬でもあの花畑が和やかだと思った自分に腹が立つ
それに蚊に刺された時のような腫れ方もしている。
それ以外何もないので毒ではないと信じたい…
だが!食料も奪われてしまった上に足がめっちゃ痒い。
森も抜けられず、植物に怯えながら歩き回らなければならない俺の気持ちにもなってほしい。
(何より森を抜けたからといって人里があるとも限らねぇ。)
むしろこんな危険な森の側に居を構える物好きがいるとも思えない。
望み薄だろう。
(最早この森に安全な場所などない!)
そう心に決め、休みながらだが夜も歩き続けることにした。
◇◇◇
…そして3日目だ
「眠い」
「疲れた」
「ハラヘッタ」
今は日の出から数時間ほど、
ここに来てから一睡もしていない。
そしてひたすら歩いてきたせいで体は限界に近い。
さらに言うと、最後の一個だった林檎もどき(仮)は昨日のうちに食べてしまった。
(いつ、また襲われるかわかったもんじゃないからな。先に食っといて正解の筈だ。)
だがもちろん腹は減る。
空腹と眠気でだんだん思考もぼやけ視界も霞んでゆく。
そんなふらついた足取りで歩いていた時だった。
(なんか、人っぽいのが見える)
眠気でかなり霞んだ視界だが遠くの方に歩いている人影を見つけた。
(追いかけなきゃ…)
疲れた身体に鞭を打って、小走りでその人影を追いかけた。
10メートル程の距離になった時、何かが違うことに気づく。
目を凝らしてよく見れば、かなり背は低く体表は緑色だ。
とんがった耳が特徴的でボロボロの布切れを纏い、石で作られた簡易な斧を手にしている。
一般的に、小鬼というものだろう。
「グガ?」
ゴブリンもこちらの存在に気づいたようだ。
ニタリ、と口角を上げて醜く顔を歪ませる。
完全にこちらを獲物として見ているようだ。
「グガァァー!」
雄叫びを上げこちらに襲いかかってくる。
(これってヤバイやつなんじゃ…)
逃げる為に体を動かそうとするが足がもつれ尻餅をついてしまう。
体が強張って立ち上がれない。
(動け! 俺の身体!)
既に目の前にはゴブリンが立ち、斧を振り上げている。
「ギシシィ!」
ゴブリンが勝ち誇り斧を振り下げようとした時…
ヤツは現れた。
突如俺に襲いかかってきていたゴブリンが目の前から消えた。
数瞬おいて、俺のすぐ横の地面にゴブリンの持っていた斧が刺さる。
「えっ?」
頭上を見れば、巨大な植物に捕まっているゴブリンは救いを求めるように俺に手を伸ばしていた。
無論、俺に助けられるはずもない。
俺だってついさっきまでアイツに殺されかけていたのだし。
「グギャァァーーー!!」
断末魔をその場に残し、ゴブリンは巨大植物の口に消えた。
巨大な花についた口は咀嚼するように数回動き、
「ゴクリッ」
ゴブリンは飲み込まれた。
その間、俺は時が止まったかのように硬直していた。
ゆったりと目の前のバケモノは、こちらを振り返る。
植物についているはずがないが、不思議と目が合った感じがした。
その瞬間、全身が総毛立った。
(ヤバイ、ヤバイヤバイ!)
ゴブリンの比ではない。
頭の先から足の指先まで、全身が危険を訴えている。
恐怖のあまり、体の硬直も吹き飛んだ。
手近にあったゴブリンの斧を掴み、巨大植物から真逆の方向に全力ダッシュする。
「ギャァァァーーーース」
ヤツは、その巨体を揺らしながら追いかけてきている。
「なんで、なんで生まれ変わってまでこんな目に遭うんだ!!」
主人公の運命はいかに!?
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