魔王と龍王が迷惑な件について・・・
静かな朝。
それが嵐の前の静けさだったと気付くのは数分後・・・
「ふぁーー」
今日も何事もなく朝を迎えた。
目覚ましは素早く止め、さっさと支度をして隣の部屋へと向かった。
理由はもちろんシュラがミニ恐竜に襲われる前に起こすことだ。
(なによりも隣で毎回叫ばれちゃゆっくりできないからな)
ちなみに昨日のリアラに吹き飛ばされたシュラなのだがいつまでたっても戻ってこないので夕飯前にリヴァルが回収してきた。
一キロくらい離れた場所で気絶していたとか・・・
リアラおそるべし。
「シュラ、入るぞー」
一応ノックはしたが寝ているようで返事はない。
鍵は空いているので部屋へと入った。
案の定ぐっすりと眠っていて起きる気配はない。
動き出す前に目覚ましは止めておいてやった。
「シュラ、起きろ。朝飯の時間になるぞ」
何回目かに揺すってやった時、なんか嫌な予感がした。
「------、---」
遠くで言い争う声が聞こえる。
(喧嘩か?)
その声が近づいてくるのと同時に爆発音が響いた。
その瞬間、突如嫌な予感とともに背筋に寒気が走り俺の本能は最大限の警鐘を鳴らした。
諍う声のその正体はすぐに明らかとなった。
壁を破砕する音と響き渡る怒声によって・・・・
「クーローエーー!!!!」
空気を震わせ響いたのはレアの声。
そして壁を突き破って部屋に飛んできた物体はクロエだった。
(ヤバイ!!)
そうは思ったものの二人が現れたことによる暴風に為すすべもなく吹き飛ばされ壁に全身を打ち付けた。
「ゴメン!マジでゴメンって!落ち着いて!」
激痛に呻いていると俺の前に着地したクロエが必死にレアを宥める。
「これが落ち着いていられるかぁー!!」
だがこれは火に油を注いだようでレアの激昂は激しさをます。
「私のレフェを返せーーーー!!!!」
レアが目に涙を浮かべ渾身の力を込めて拳を振り上げた。
拳を赤い炎のようなものが包み込む。
アレはヤバイ。
一昨日の魔力操作で朧気ながら魔力が感知できるようになった俺だがレアの拳に集まるアレは感知するまでもない。
膨大な魔力が濃縮され視認できるまでに大きくなっている。
あれでは屋敷ごと吹っ飛ばしかねない。
「ストーーープ!それはヤメて!!」
「もういい!そのまま灰になれ!!炎波剛豪殲滅拳」
レアの瞳が絶対零度の冷たさを帯び、それと相反するように拳に集う魔力が熱を纏う。
「深淵の霧ォ!」
即座に展開された防護魔法はクロエだけを黒い霧で包んでゆく。
「え!?ちょっ、待っ」
そんな言葉も掻き消され、レアの拳と黒い霧が衝突する。
目の前で世界の終わりのようなエネルギーが荒れ狂った。
周りの見えていない迷惑な二人とさほど離れていない所に生身で転がっていた俺は為す術なく吹き飛ばされることとなる。
(ああさようなら、第二の人生・・・)
死を覚悟しながら風に煽られた紙切れのように吹き飛ばされた。
屋敷の外まで放り出されたところで意識は途絶えた。
◇◇◇
「・・・・・・は!」
目が覚めた。
知らない天井が頭上に見えた。
この状況どこか既視感を覚える。
取り敢えず起き上がってみた。
「目が覚めたかケンスケ」
レアの声が目の前から聞こえた。
俺の寝ているベットの前にクロエとレアがいた。
しかも正座して・・
「何して・・」
「「すみませんでした!!」」
俺の問いを遮り二人がものすごい勢いで謝罪した。
しかも土下座して・・・
「身体は大丈夫か?腕に異常があったらすぐに言ってくれ」
「腕?」
矢継ぎ早に質問が飛んで来て若干戸惑うが、取り敢えず腕の動きを確認してみた。
まず持ち上げてみて痛みがないことを確認し、動きを確かめるためクルクル回してみた。
軽くストレッチもしてみたが異常はみられなかった。
「大丈夫だがなんで腕なんだ?」
吹き飛ばされた記憶はあるが腕に何かされた覚えはない。
「ケンスケは気絶していたから覚えていないと思うのだが・・・」
「全身骨折して、片腕吹っ飛んでたんだよ」
レアが申し訳なさそうに、クロエはあっけらかんと教えてくれた。
クロエには再びレアの鉄拳制裁が加えられた。
「お前はもう少し反省の色を見せろ」
「イッターい!見せたじゃん。だからちゃんと治してあげたんだし・・・」
ふてくされたようにクロエは言う。
「そもそもお前が・・・」
「ハイハイ、ちょーとストップ。落ち着いて」
またまた喧嘩が勃発しそうになったので急いで止める。
とゆうか爆発の余波だけで片腕吹っ飛ぶってどんな喧嘩だよ。
しかも綺麗さっぱり治ってるし。傷一つ見当たらない。
魔王様と龍王様は流石にレベルが違うということですか・・・・
「二人はなんでまた喧嘩なんてしたんだ?」
そう聞いた瞬間待ってましたとばかりにレアが顔を上げた。
「よく聞いてくれたケンスケ!」
…どうしよ、めんどくさい予感しかしない。
すでにクロエは嫌そうな顔をしている。
「全ての原因はクロエが私のレフェを勝手に食べたことだったんだ。クロエは数ヶ月ぶりにエドからもらったレフェをあろうことか全部おやつに食べてしまったんだ」
語りながらレアは涙目になっている。
相当レフェというものが食べたかったのだろう。
とゆうかエドって誰だ?
「レフェは年に数回食べれるかどうかなのにコイツは・・・」
「いや、あのもう結構です・・・」
どうやら俺の声は届かないらしく、
「まだあるんだ!」
怒りは収まらないらしく床に手を叩きつけながら叫んだ。
そこから堰を切ったように愚痴が始まった。
◇◆◇
十数分後・・・・
「とゆうことなんだ。わかってくれたか?」
愚痴を聞き続けて少しグッタリし始めた頃にようやくひと段落ついた。
「わかったわかった。もう十分に聞きました」
(やっと終わったか・・・・)
「本当はまだ言い足りないのだが・・」
「そ、そういえばレフェってどんな食べ物なんだ?」
危ない危ない。
これ以上愚痴を聞くのはゴメンなので無理矢理話題を変えた。
「レフェのことか。ケンスケも興味あるのか?」
レフェとやらに話を振った途端、急に元気が出できたらしいく嬉しそうに話し始めてくれた。
「レフェというものはな、近年このモーティリッド王国で絶大な人気を誇るスイーツだ。貴族を中心に王室御用達にもなっている最高級品の一つで、南国の果実を加工して作ったものらしいのだが製法が企業秘密とされているんだ。しかも一日数量限定という次第でな滅多に手に入るものじゃない。」
(結構貴重品だったのか)
そりゃあレアがブチ切れるわな。
「美味しいのか?」
答えはわかりきっているが一応聞いてみる。
「もちろんだ。口に入れるととろけて程よい甘みが広がり、最後に鼻をふわっと通り抜ける深い香りがたまらない最高の一品だ」
おもがけず素晴らしい食レポを頂いた。
話を聞くにどうやら黒っぽい色をしているらしく形はいろいろあるそうだ。
そこで俺には一つ思いつくものがあった。
「もしかしてそれ、チョコレートじゃないのか?」
「チョコレート?」
レアもクロエも首を傾げる。
「俺の世界で食べられているメジャーな食べ物なんだが、それも南の方で取れるカカオって身を使って作る黒い食べ物なんだ」
「本当か!ならここでも同じ実を栽培しているから今度見てみてくれ」
「わかった。でも同じって保証はないぞ」
「もちろんそれで構わない」
なんか喧嘩の話からかなり脱線してしまっているがなんとかこれで落ち着いたようだ。
もしレアの言う実がカカオならこの世界でもチョコレートを味わうことが可能だ。
(ちょっと楽しみが増えたな)
「改めて今回は本当に迷惑をかけた。後、悪いんだが午前の魔力の指導には行けないんだ」
一件落着だと思い俺がこれからのことに期待を馳せているとレアが神妙な面持ちで話し始めた。
「なんか用事でも入ってるのか?」
「ぇ?あ〜いや少しクロエと語り合わなければならないことがあってな。その決着をつけようと思ったんだ」
拳でな、と小さく付け足した。
え?喧嘩終わったんじゃなかったの?
どこで決着つけるつもりだよ・・・・
しかも決着という言葉を聞いた途端クロエの顔が一気に明るくなった。
今すぐにでも戦いたいという表情だ。
「だが代わりをリヴェルに頼んでおいたから頑張ってくれ」
「ちょっとまって。今何時かだけ教えてくれ」
今すぐにでも転移しそうな二人を引き止め問いかける。俺はどのくらい寝ていたのだろうか。
「丸一日寝ていたから、朝食が終わったくらいの時間だぞ」
クロエが教えてくれた。
「体調が変だと思ったらすぐに知らせてくれ。あとリヴァルとの集合場所はリアラに伝えたから聞いてくれ」
「じゃ〜な〜」
それだけ言い残して転移してしまった。
(忙しい二人だな)
一人部屋に取り残された俺はしょうがないので軽く準備しリヴァルの居場所を聞くためリアラのところに行くことにした。