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みんなの事情

「私は天魔族の最後の生き残りだ」


場の時が止まった気がした。


「この世界にはもう私一人しか天魔族は存在しない」


「それは・・」

それはどうしてか、と問いかけようとしてやめた。

何事にも誰にでも踏み込んではいけない境界線がある。

レアには尋常ならざる事情がありそうだ。

いつか必要な時が来たら話してもらえるだろう。


「いや、やっぱりいいや。もし話したいと思った時があったら言ってくれ」

いつでも聞くからと伝えた。


「そうだろうな。ケンスケならそういうと思っていた。まぁ今の話は気にしないで続けてくれ」


「?」

何を?


「?、じゃない。講義をやっていたんじゃないのか?」

なぜか呆れ顔で言われる。


「そういえばそうだった」

だが元はといえばリヴァルやクロエやレアがバンバン転移してきてシュラの講義を遮ったんじゃなかったっけ?


「なんでみんな俺の講義遮るんすかぁ〜」

横からシュラの嘆き声が響く。


「すいません」


「悪りぃ悪りぃ」


「気にせず続けてくれ」


と三人三様に謝罪するが帰る様子は見受けられない。


「みんな忙しいんじゃなかったのか?」

だからシュラが講義やっているんじゃねぇの?


「ひと段落ついたんだ。あとは後日また出かけて最後の片づけをしたら終了だ」


仕事の早いこった。


「てことでシュラ、講義再開してくれ」

クロエが楽しそうな声でそういった。


「えぇレア様たち残るんですか。やりづらい・・・」


「私もいますよ、シュラ」

これもまたリアラが突然転移してきた。


(なんか急に出現すんの慣れてきたかもしんねぇ)

俺は驚かなくなってきていたのだが今回に至ってはシュラがそうではなかった。


「ゲッ、姉貴・・・」

苦い声が聞こえた。


リアラはその顔に笑みをたたえシュラに向き直る。

「おや、私の仕掛けておいた魔術陣が起動していますね」

シュラの顔がみるみる青くなっていくのが見て取れた。


「ところでシュラ。話は変わりますが後で私の部屋に来てください。用がありますので」


そう言われコクコクとシュラは頷くしかできない。


ちなみにレアとリヴェルは呆れ顔を、クロエはお腹を抱えて笑っている。


これで全員が部屋に集まった。

みんな仕事が無事に終わったようだ。


だがこの状態で講義をしなければいけないシュラのプレッシャーがヤバそうだ。


「じゃ、じゃあ講義再開しま~す」

開始同様ぎこちなく再開される。


「ともかくみんなの種族は知ってもらえた筈だ。あとはそれぞれの種族の特徴なんだが、これもここにいる六人の分だけ説明すっぞ」


「ここにいるのは人族、鬼人、悪魔、龍族、天魔族だ。まずは一番簡単な人族から説明するぞ」


お、いよいよシュラ先生の授業が始まるようだ。

お手並み拝見といこう。


「ん~、人族はだな。とにかく数が多くて、あと鬼人に比べると弱っちぃな」

うん、だめだコイツ。教師に向いていなさすぎる。


思わずため息をつこうとしたとき、派手な破砕音が響き渡りシュラが視界から消失した。


「申し訳ありません、ケンスケさん。たまたま(・・・・)私の肘が当たってしまったらしくシュラは動けません。私が変わりを務めることにします」


この女性(ひと)たまたまって言い切ったぞ!?

めちゃ怖いんだけど!!


哀れシュラ君は壁を突き破り屋敷の外にまで放り出されていた。

そりゃあシュラの説明も酷かったが吹き飛ばすほどか?


だが

(すまんシュラ。お前の姉ちゃんにそれをつっこむ勇気は俺にはない)

リアラはあれだ。逆らわないほうがいいタイプの人だ。


心なしかレアの顔も引きつっているように見える。


「では気を取り直して再開といたしましょう」

壁の修復をしリアラがこちらを見る。

外にふっとばしたシュラの事はお構いなしだ。


「人族の説明でしたね。大まかなところはケンスケさんの世界と変わらないはずです。ただこの世界と比較して特徴を上げるとすれば魔力適正と平均魔力容量が気になるポイントなのではないでしょうか」


うん。それは気になる。


「魔力適正ってあれか、俺が花を使って調べたやつでいいんだよな?」

つい昨日やって驚かれたばかりだ。

魔力容量は名前の通りだろう。


「ええそうです。種族の違いというのは姿形もそうですがその二つ、又は精霊への適正によって決められることが多いですね。精霊の話はまた後ほど行います」


ふぇー、そんな仕組みがあったのか。


「それで人族の魔力適正と平均魔力容量なのですが、これは他の種族と比較して説明しましょう」


リアラが魔力を流すと黒板に赤と青の二つの人間の絵が描かれた。


「こちらの青色で描かれているのが人間で赤く描かれているのが魔族です」

青い人族のほうが小さく赤い魔族のほうが大きく書かれている。


「大きさから分かるように人族は魔族より魔力容量が少ないです。魔族に限らず人族は他の種族よりも魔力容量は少ない傾向にあります」

人にもよりますが、と付け足す。


「ですが魔力適正の方ではまた異なります。魔族は光やその上位魔術である神聖魔法などに適正が少ないです。それに比べ人族は少し特殊で他の種族と異なり魔力適正に偏りを持ちません」


「偏りがないって満遍なく適性を持っているってことか?」


「その見解で構いません。種族の多くは魔力の適性に相性があります。魔族なら闇に、エルフは風に、ドワーフは土に、というように得意な属性や苦手な属性があります」


だんだん設定が現代のRPGそのものな気がしてくる。

でもしっかり魔力に区別があるからわかりやすい。


「リアラ達の得意な属性ってどんなのなんだ?」

悪魔と言われればなんとなく想像はつくが、鬼人のことはよく知らない。


「私達のですと種族的には鬼人は雷に、悪魔は闇に、天魔族は光と闇に相性がよいです。龍族は個体によるのですがクロエ様は黒龍なので闇との相性がいいですね」


(闇ばっかじゃん)

四種族中三種族も闇属性とはブラック過ぎる。

俺はここの労働がブラックじゃないことを祈っているばかりだが・・・。


「一応種族全体で話しましたがあくまで集団で捉えた時の話であり、エルフやドワーフの中でも水や火に適性を持つ個体もいます。かくゆうシュラだって雷よりも火の適性が強いです」


「何事にも例外があるってことだな」


「全属性に適性があったケンスケさんも十分例外ですよ」

俺が一人納得しているとすかさずリアラからツッコミが入った。


「あとの説明ですがこれはケンスケさんが元いた世界と大した変化はないと思われます」


リアラから受けた説明をザックリ説明すると人族とはこの世界において最弱の種族であり最も数の多い種族だそうだ。強さの基準は魔力容量で決まり人族はそれが低いようだ。

技術面もそこそこ進んでおり栄えているそうなので寿命なども元いた世界と大差ない。

言語は共通語というものを使っていて共通語なら世界中で使用可能らしい。

しかし髪や目の色は割とカラフルで黒目黒髪は目立つと言われた。


(まぁちょっと目立つくらいなら問題ないだろう)


「にしてもリアラの説明はホントわかりやすくて助かるよ」


「ふふっ、ありがとうございます。今日は残り時間的にあと一種族だけなら解説ができますがどれか気になる種族はいますか?」

リアラがそう問いかける。


「一種族か、何がいいかなあ」


いろんな種族が気になるが天魔族か鬼人族で迷っている。


「んー、今日は鬼人族でお願いしようかな」

天魔族、レアのことは今度ゆっくり聞きたい。


「鬼人族ですか・・・。以外ですね、てっきりエルフやドワーフのことを聞かれると思っていました。では残った時間は鬼人族の話をしましょう」


鬼人と聞いたときリアラの顔が一瞬曇ったような気がした。

だが話し始めたリアラの顔にはそんな影はなく、いつもどうりだ。

(気のせいだったか?)

そんな疑問は話を聞いているうちに忘れ去られた。


ちなみにエルフやドワーフのことを聞かなかった理由は割と適当。

単純にこの二つはセットで覚えたかった。

魔族のことを聞いても良かったがこの農園に魔族が一人もいないのだから身近なシュラやリアラの鬼人族を聞いたほうがいいと思ったのである。


そんなくだらないことを考えているうちにリアラ先生のわかりやすい解説が始まった。

俺の横ではクロエは寝ていたがレアとリヴェルは集中して聞いている。


「まず鬼人族は種族的には亜人に分類されます。亜人の中では獣人族の次に数が多いですね。身体的な特徴でいちばん有名なのはやはり額のツノでしょうか。鬼人族は皆このツノを生まれ持っていてある種の誇りのように大切なものとしています」


「そのツノって生え変わったりするものなのか?」

ちょっと気になってしまった。


「数年に一度でしたら生え変わりますよ。魔力の性質や量によってツノは生え方や形が変わります。私とシュラのものも少し異なっています」


「確かに違うな」

リアラは一本角だがシュラは二本角だ。


(なんというか生命の神秘を感じるな)

生え変わるならたとえ折れたとしても再生するわけか。


「他には鬼人の固有能力の話ですがこれは昨日シュラがケンスケさんにお見せしたと思いますが鬼闘気というものです。これは一時的に身体能力を大幅に向上させることのできるものです。一種の覚醒状態と思っていただいて結構です」


ああ、俺が腰抜かしたやつね・・・

シュラのツノが伸びてちょっとカッコよくなったやつだわ。


「固有能力ってことは鬼人だけしかできないのか」

俺もあれ使ってみてぇー


「そうですね。ですが全力で使うと反動が大きいです。確か人族にも似たような闘気術があったと記憶していますのでケンスケさんも機会があったら習得するのもいいのではないでしょうか」


マジか。

んなものが存在するならいち早く習得に出向きたい。


「あと最後に身体的特徴のことなのですが」

そんなことを考えているとリアラが思い出したように言う。


「鬼人はツノを持つ他にもう一つ特徴があります。鬼人族は全員紺の髪と青の瞳を持ちます」

例外もいますけれどね、と自嘲気味に笑みを浮かべリアラはそういった。

自身の薄い翡翠色の髪を横目に見ながら・・・

瞳には微かに哀しみが宿っていた。

その瞳を見れば彼女達がどれほどの苦労に苛まれてきたかが分かる気がした。

髪や目の色が違う。ただそれだけで迫害に近いものを受けていたのではなかろうか。地球でも肌の色が異なるだけで差別を受けていた人がいた。


(聞かない方が良かった案件だな)


レアといいリアラといい此処にはイレギュラーが揃い踏みのようだった。


「とにかく鬼人族はそのような特徴を持っているので見つけやすいです。町などで絡まれたら逃げた方がいいと思いますよ。気性の荒い人が多いので」


その言葉とともに今日の講義は閉会となった。



・・・ちなみに誰一人として吹き飛ばされたままのシュラのことを覚えていなかった。


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