日常
――ジリリリリリリリリリリピッ…
うるさいアラームを止め、起きる。顔を洗い、服を着替えリビングへと向かう。
♪〜9月4日朝のニュースです。今日未明、女子高校生が自宅で首を吊って亡くなっているのが発見されました。警察は自殺とみて調査をすすめており────
テレビでニュース番組が流れているのを横目に、朝食を食べる。歯を磨き、家を出る。通学路には他の生徒は誰もいない。何故なら昨日、アラームをセットする時間を間違えたからである。そんな人寂しい通学路を歩き学校へと向かう。教室に着くとまだ授業中であった。教師にはもちろん叱責されるが、すみませんと一つ謝ると着席するように促される。授業が終わるとその事で他の生徒に揶揄される。それを適当にあしらいつつ机の上にうつ伏せになる。寝坊してきてまた寝るのかと揶揄が増えるが、今度は完全に無視をする。すると、揶揄していた生徒たちはだんだんと散っていく。静かになったのでそのまま本格的に眠りに入る。しかし、しっかりと寝てきたので眠りは浅い。すぐに目を覚ますがそのまま寝たふりを続けた。途中、起こしてくる教師もいた。そしてついでかのように問題を解かされた。間違いなく答えると、教師は押し黙った。その様子を視界に捉えつつ、また寝たふりに戻る。しかし、意識は覚醒しているので、色々考えてしまう。あぁ、本当につまらない、と。何の代わり映えのない、何の刺激もない、非常につまらない『日常』。何か少しは刺激が欲しい。この『日常』を少しは楽しめるような刺激が。まぁ、戦争、紛争などの『非日常』が『日常』と化している人々に聞かせたら憤慨するようなセリフかもしれないが。俺らのように戦争のない、いわゆる平和と言える『日常』を『日常』として過ごせるからこういった言葉が出るのであろう。俺が勝手に思考する上で考慮する必要はないのだが。故に俺は、退屈だと思う。ついそういった思考をする。そんなことを繰り返しているうちに、気が付くとすでに放課後となっていた。クラブや校外活動も何も無いので直ぐに家へ向かう。道中、本屋により興味の有無関係なく、読んだことのない本を手に取る。それはよく分からない名前も聞いたことがない学問の学術書であった。題名からどんなものかも想像出来ないその学術書を買った。家に着くなり、すぐに買った本を読み始める。途中、風呂や夕食を挟みつつ読み進めていく。買うんじゃなかった。なんだこれは。何が言いたいのか全く分からない。ただただ辛い。何故こんなものを読んでいるのだろう。限界であった。読み切ることなくそっとその本を閉じた。新しい刺激でもこういった刺激はいらない、そうしみじみ思った。苦行から解放された俺はそれからゲームやYouTubeで時間を潰していった。気がつくと時計の短針はもうすぐ12を指そうとしていた。アラームはセットせず、部屋の電気を消し、ベッドに入った。明日は何か面白いことがありますように、そんな願い事をしながら眠りにつく。その時、時計の短針は12を指していた。
―――ジリリリリリリ────
―――まだ『日常』は繰り返されている―――
―――ジリリリリリリリリリ――――
―――退屈だ、しんどい―――
……リビングからテレビの音が聞こえてくる。
♪〜9月4日朝のニュースです。今日未明、女子高校生が自宅で首を吊って亡くなっているのが発見されました。警察は自殺とみて調査をすすめており────
はぁ、今日も変わらなかった。いつからだろう、こんなことになったのは。もうどのくらいになるか分からない。1週間、1ヶ月、いや、数ヶ月経った気分だ。それは突然だった。急に9月5日が来なくなった。4日の24時、その時間になると全てが4日の0時にまでリセットされるようになったのだ。いや、全てではなかった。俺の意識以外全て、だ。最初は戸惑ったが、しばらくすると能天気にも楽しみ始めた。何をしても次の日、24時になるとリセットされるのだから。それはもう楽しみに楽しんだ。しかし、さらに時が経つと、4日の終わりは来るのだろうか、5日になるのだろうか、という不安に襲われた。そして、その不安が的中するかのように今も4日のままだ。こんな時の解決策などは全く知らないが、苦し紛れにも色々行った。しかし、全てダメであった。何をしても5日など来なかった。正直、心が折れた。それからは、『日常』を過ごしながら待つことにした。いつ5日になっても支障がないように。しかし、この生活ももう、しばらくだ。とても辛くしんどい。希望も見えない。あぁ、何か面白いことがないかなぁ。
♪〜9月5日朝のニュースです。今日未明、男子高校生が自宅で首から多量の血を流して亡くなっているのが発見されました。床には凶器と見られるカッターが転がっており、当時の状況を鑑みて、警察はカッターによる自殺とみて調査をすすめています────