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Battle Order Xaxis《バトルオーダーザクシズ》  作者: Ru-ne
フロア1_神名万丈part1
5/13

【BOX_04】クラウズ騎士団

フロア1。

そこは惑星ルナリスにおいて、クラッシャーの侵攻が一番少ない地域である。


要塞付近を一定まで制圧したクラッシャーはそこから全てに侵攻することはなく、要塞を守るように配置された。それ以降要塞に近付けるものは誰もおらず、要塞は静かにその巨大さを誇っていた。


クラッシャーに抵抗できる力を持たず、人々は狭い領土の中で取り合い、

醜い争いを繰り返している。



着いた名前がEarth of Resignation《諦めの大地》



わずかに残った自然と領土は、分断されたガデオン軍大隊に大半を占領されており、

残された民は不自由な思いをして日々を暮らしている。


南東の森を抜けるため、車を走らせているこのクラウズ騎士団の部隊もガデオン軍に領土を追い立てられている者のひとつだった。


クラウズ騎士団のドライバー、テオは徹夜明けの眠たい目をこすりながらトレーラーを走らせていた。ヒゲは生え、シャツはヨレヨレで赤髪もボサボサだ。昨夜のガデオン軍との戦闘からなんとか逃げ切ったが、部隊のダメージはなかなかのものだった。5機あったうちの4機はガデオン軍にやられ大破。1機だけはなんとかトレーラーに積み込み、撤退をしたところだ。パイロット達は捕虜にとられ、騎士団は大いに疲弊していた。


テオは助手席で寝ているモアナを叩き起こす。

茶髪でクルクルカールの女の子はスヤスヤと寝息を立てていた。


「おい、起きろ」

「ムニャムニャ……あと少しだけ……」

「寝ぼけてんじゃねぇ、ナビ見てくれよ、ナビ」

「んぅ……?」

「ナ ビ!!」

「あぁ、はいはい……ナビね…。あと10km程でベースキャンプ到達予定だよ」

「サンキュ」

「ずっと車走らせてたんだね、テオ。お疲れ様」

「あぁ、本当労ってもらいたいくらいだぜ」

「団長は?」

「後ろで休んでるよ。だいぶまいってるようだな」

「そっか……一旦帰って立て直さないとね。皆やられちゃったし…」

「そうだな、どちらにせよこのままじゃ無理だ」

「それより……」


モアナはテオの体に顔を近付けると、


「…テオ、臭い」


鼻をつまんで臭いというジェスチャーをする。


「ハァ!?お前、夜通し頑張って運転してる俺にそれ言うか!!お前も大概臭いからな!!」

「なっ、なによ!!レディに向かってその言い方!!失礼じゃない!!」

「何がレディだ!!胸がでけぇからって調子乗ってんじゃねぇぞ!!」

「…カチーン。あぁ、今ので目が覚めた!完全に目が覚めましたー!!表に出ろー!!」

「あぁ、やってやろーじゃねーかよ!!」


言い争いを始める2人。

トレーラーは道の途中で止まると地面に降りていがみ合いを始める。


「なんだ、一体何があったというんだ…」


低く野太い声。

トレーラーに積まれた機体、アムドックスのコクピットから出て様子をうかがう団長。

トレードマークの兜をかぶり下を眺める。


「おーい、2人とも何かあったのか?」

「モアナの野郎が俺のこと臭いって言うんでちょっととっちめてやろうかと!!」

「テオが私のこと馬鹿にしたんでどっちが上かわからせてやろうと思いまーす!!」


2人の元気な声が聞こえる。

ガデオン軍から逃げて2日、体力的にも辛いはずなのだが。


「また喧嘩か……」


団長は呆れたように頭を抱える。

テオとモアナの喧嘩は今に始まったことではない。寧ろ日常茶飯事だ。

にしても今ではなくてよいのではないか。

団長はそう言おうとして、自分も臭くないか念のためチェックをしてみる。

………それなりに匂いがする。これはどこかで水浴びをした方が良さそうだ。


「2人とも、喧嘩もいいが近くに湖があるようだぞ」

「これ終わったら考えますー!!さぁ覚悟しろデカパイ女!!」

「団長先行っててくださーい!!このチビネズミぶっ潰したら向かいますー!!寝不足が私に勝てるかー!!」


取っ組み合いの喧嘩を始める2人。


「ハァ……仕方ない……」


団長は兜をかぶり直すと、トレーラーから降り湖へと向かう。


ずっとガデオン軍から逃げる日々だったから2人も疲れているのだろう。

そう思いながら湖へと足を運ぶ。


数分歩いたところに丁度よい湖があった。

周りには誰もいないようだし、水浴びにはもってこいのようだ。

団長は騎士服を脱ぐと、傍らに畳んで置く。


周りを気にしながら、兜を脱ぐと腰まで届く金色の長い髪が風になびいた。

緑色の瞳は凛々しさと可憐さを備えていた。

裸になり、ゆっくりと湖に入っていく。


「水浴びできるのも久しぶりだな……。誰もいなくて良かった」


先ほどとは違い、澄んだ綺麗な女性の声。


団長エマ=キルシュ=クラウズは、病で動けない父の代わりに戦場へと赴く

若干16歳の少女であった。

相手に舐められないよう男装をして団長として指揮に立った。

全てが初めて尽くし。その上、今回の初陣で手痛い敗北を負ってしまった彼女はひどく疲弊していた。


「やはり、私に団長などという大役は務まらないのだ……」


弱音をぽつりと呟くエマ。


ガサッ。


その時、草むらから何か物音がした。動物か?

慌てて服と一緒に置いてあった剣のそばまで移動する。


「…誰かいるのか?」

「………」


反応はない。エマは服を着て慎重に草むらへと近寄る。

剣で草をかき分けると、そこには騎士服を着た少年・万丈が怪我をした男性を抱えて倒れていた。





「大丈夫か!?」


エマは倒れている万丈と男性を草むらから出し仰向けに寝かせる。

首にかけられたダイス上のキーホルダーが首元から転がり落ちる。

幸い息はあるようだ。


「う……うぅ……」


少し意識を取り戻す万丈。微かに目を開けてエマに手を伸ばす。その手を握るエマ。


「何があった…君は誰なんだ」


「う……」


少年は、僅かに開けた目をまた閉じ眠ってしまった。エマは、服を着直し兜をかぶる。

体を確認するが、どちらも命に別状はないようだ。


妙齢の男性が腕に怪我を受けていたのを、持っていた布を破って慣れた手つきで止血をしてやる。


「これで大丈夫か」

「う……あんたは……」

「怪我をしている。動かない方がいい。今水を汲んでくる。少し待っていてくれ」


エマは湖の水を器ですくい、男に差し出す。


「ほら、飲むといい」

「………すまない」

「あなた達はどこから来たんだ」

「…詳しくは言えない。今はとにかく彼を安静な場所に移動させたい」

「名前は?」

「……ベイトだ」

「彼は?」

「彼の名は言えない」

「その騎士服、これはどこの国だ。私が知っている限りでは見たことがないが」


万丈とベイトの着た騎士服を見るエマ。


「……すまないが、それも言えない」


ベイトを見つめるエマ。

どちらも黙ったまま真剣な眼差しを向ける。


「…わかった、ひとまずあなた達を安全な場所へ送ろう。立てるか?」

「あぁ、すまない」

エマの手を取り立ち上がるベイト。そこにモアナが血相を変えて走ってくる。

「団長ー!!」

「モアナか、どうした?」

「ガデオンが、ガデオンの奴らがー!!」

「なんだって!?」



トレーラーに向けて急ぐエマたち。

エマは万丈を背中に背負い、ベイトもモアナの肩を借りて出来るだけ急ぐ。


「それで、ガデオンは何機だ?」

「ギャレット3機みたいです。数日前に襲ってきた部隊ですね」

ギャレットはブラントより性能の劣る軽量型アームだ。

簡単な操縦性と俊敏性がウリだが、それと引き替えに装甲が物凄く薄い。


「なんとか撒きたいところだが…」

「トレーラーの足だと追い付かれちゃいますよ」

「私のアムドックスもやられてしまっているし…」

アムドックスはブラントに性能の近い汎用型のアームだった。

しかし先の戦いで駆動系に損傷を受けており今すぐ動かすのは難しい。


「団長!!早く!!」


エマ達がトレーラーに乗り込むと、アクセルを踏んで一気に加速する。


急発進の反動を受けてトレーラーの後ろに乗せられた万丈、ベイトの2人は壁に叩きつけられる。


「いたた……もう少し安全にだな」

「いってー、なんだ?なにがあった」


叩きつけられた衝撃で万丈が目を覚ます。

何が起きたかを一切把握していない万丈。怪訝そうに当たりを見回す。


「どうやら気付いたようだな」

「その声は……ブラントのおっさんか!!?」

「声がでかい、諸々説明したいところだが今は立て込んでいてな。お主、名前は?」

「え、神名万丈だけど…」

「よし万丈。今からお前は私の息子としてバンと名乗れ。日本から来た身分は隠すんだ」

「は?どういうことだ?」

「いいから、それがお前のためだ」

「よくわかんねぇなぁ…で。おじさんの名前は?」

「私はベイトと呼べ」

「ベイト。なんかよくわかんないけど了解」


そこに外部スピーカーから声が聞こえてくる。


「クラウズの弱小貴族殿~。いつまで逃げておられるのかな~」


鼻につく甲高い声。どうやら挑発行為をしているようだ。


「なんだこの声は?」

「おそらくガデオンの追手だろう。領土の小競り合いといったところか」

「喧嘩吹っ掛けられてるのか」

「そのようなものだ」


万丈とベイトはトレーラーの覗き窓から外を見る。


3機のアームがガシャンガシャンとトレーラーを追いかけてきていた。

どうやら一番先頭を走っている機体から声が出ているようだ。


「クラウズの貴族殿は尻尾を巻いて逃げ帰るような腰抜けだったとは~。さそがし、国に戻って笑い物になるんでしょうな~」


アッハッハと複数の男の笑い声が聞こえる。


「調子に乗らせておいていいのか?」

「私達が馬鹿にされているわけではない。今は事態をやり過ごすことの方が先決だ」


外ではギャレットがトレーラーのすぐそばまで近付いてきている。


エマは前の座席から後ろに移動してくると、アムドックスの背後に回ろうとする。


「何をするつもりなんだ?」

「このままでは追い付かれる。ここで応戦するしかない」

「そうは言ってもその機体、脚周り壊れているみたいだけど」

「それでも、やるしかない……」


エマの声には悲壮感が漂っていた。


「(アームがあれば代わりにやってあげてもいいんだが……)」


その時、万丈はダイスのキーホルダーが首にかけてあることに気が付いた。


ダイスを手に取ってみるとBOXのコクピットを小さくした物であることに気付く。

ボタンのようなものが側面に付いている。

それを押してみようとすると、ベイトに制止される。

「それは使うな……お前の機体は目立ちすぎる」

「これって…やっぱり?」


黙って頷くベイト。


「でも、さすがにこれで出るのは無茶だろ?」

「戦わず逃げるのが得策だと思うが」

「男があそこまで言われて引き下がれないだろ。なぁ?」


エマの方を見上げる万丈。


「あ、あぁ…」

「何かいい方法はないのか……。おっちゃん、ブラント貸してくれ」

「ブラントを?左腕はまだ修復していないぞ」


万丈は外のギャレットを見ながら余裕そうに言い放った。


「左腕がないくらい、どうってことないって」





「仕方ない…あれを出されるよりはマシか。下がっていろ」


ベイトは2人に後ろに下がるように促すと、首にかけていたキーホルダーのボタンを長押しした。

空いていた空間にブラントが足元から姿を現す。


「これは!?」

「我らの転移技術だ。私達はこうやってアームを運んでいる」

「(俺、今知ったわ……)」

「凄い…、こんな技術があるのか…」

「さぁ、乗れ。中身に特に違いはないはずだ」

「サンキュ」

「君が乗るのか!?」

「経験はあるんで、大丈夫。まぁ見てて」


万丈はブラントの胸部ハッチを開け、コクピットに乗り込む。

自分のコクピットと同じモニターに操縦桿。

そんなに時間は経っていないはずだが、随分久しぶりのように感じる。


アームの現在の状態をチェック。左腕は黒い機体に斬られたまま。

これは後で自己修復に回せばいいだろう。

他は問題なく動かせるみたいだし、ギャレット3機くらいどうってことない。


「ブラントの扱いは兄貴にみっちり教えてもらったからな……よし、行くか!!」


アクセルを踏み込みトレーラーから飛び出すブラント。


「お、なんだ?違う機体が出てきたが、片腕がないではないか。クラウズ貴族は腕を付けるお金もないのかね」


馬鹿にするように笑うギャレットのパイロット達。


「あんた達にはこれくらいハンディキャップだよ。(やっぱブラントだとこんくらいの

出力だよな)」


万丈は外部スピーカーを使い挑発してみせる。


「なんだと……今、その機体で我々3体を相手できる口振りだったが?」

「だからそう言ったんだよ(武装は、ってなんもないのかよ…イマジネーションドライブもないし。あのおっさん何やってんだよ)」

「あぁ、そんなに彼らを挑発しては……」

「あの程度の輩、問題ないだろう(その能力、じっくりと見る良い機会だ)」


慌てるエマと落ち着いて成り行きを見守るベイト。


「クラウズの弱小貴族も言うようになったもんだな。いいだろう!!!我らギャレット3騎士の力、とくと見せてくれる!!」

「そのセリフ、吐いた時点で負けてるってわかってるのか?(おっ、エッジダガーはあった。これだな)」

「クラウズの愚民共の見せしめにしてくれるわー!!」


3機同時に襲いかかってくるギャレット。

ブラントは冷静に少し右側に脚のローラーを動かすと右手でギャレットを掴み思い切り振り回す。


「んなっ!!?」


掴まれたギャレットは真ん中、左のギャレットを巻き添えに派手に吹き飛んでいく。

装甲の弱いギャレットは今の一撃で2機は大破状態になった。


「ブラントはそれなりにパワーがあるんだよ。ギャレットなんて軽い機体だったら尚のこと、片手で十分だ」


右手で力こぶしをつくるジュスチャーをする万丈の乗るブラント。


「すげー!!モアナ見たか!!」

「片手で3機とも吹き飛ばしちゃった!!」

「あいつ何者だよ…」


前の座席から乗り出して戦いを見守るテオとモアナ。


「凄いパワーだな……」

「これでも私達の中では下の方だ」

「そうなのか!!?」

「まぁ、あいつが上手く操っていることも関係しているが(ロクに確認もしていないブラントをああも簡単に扱うとは)」


ベイトはブラントの動きを見ていて万丈の技術力を確信していた。


「おい、もう終わりか?」

「ぐふぬ、これで終わりなわけがなかろう!!我はガデオン軍大隊東南支部副隊長ダミール様だぞ!!」

「副隊長なんだ……」

「うるさい!!貴様の息の根を止めてくれるわー!!」


ブラントに向かって突っ込んでくるギャレット。


「この世界の人って直情型が多いのか?」


ブラントは脚部からエッジダガーを取り出すと、相手の側部へと回り込み左わき腹装甲の隙間にダガーを突き刺した。


「な、なんだとー!!?」


ボンッと煙を上げ膝から崩れ落ちるギャレット。


「勝負ありだな」


万丈は兄貴直伝のやり方でエッジダガーを仕舞うと、ビシッと決めポーズをとった。

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