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Battle Order Xaxis《バトルオーダーザクシズ》  作者: Ru-ne
フロア1_神名万丈part1
4/13

【BOX_03】惑星の洗礼

「どうなってるんだよ…これは……」


万丈は、自分の身に起きたことがいまだに信じられなかった。


BOXにはコクピット内部にいる臨場感を出すために震動や音などある程度の演出を加えるシステムは入っている。


だが、“匂い”は別だ。そんなシステムは入っていない。


今、万丈の鼻を刺激するのは荒れた大地の土のと鉄が混じり合った匂いだった。


モニターに手をやり、周囲のマップを開く。

味方の識別信号が数千単位で見てとれる。その数一万。

その後ろにガデオン軍の識別反応が四千。

画面端には僅かながらにクラッシャーの反応が見え始めている。


「どうやら、俺だけじゃないみたいだ……」


同じ状況にいるプレイヤーが自分だけではないことに少し安堵する。

だが状況はいまだに不明だ。

外に出て確かめてみたいがなぜかハッチが開かなくなっている。

ゲーム中に離脱できない仕様にはなっていたはずだが、それにしても緊急ボタンをおせばできたはずだ。しかし、ボタンの項目がカーソルから消えているのであった。


不可解なことが多すぎる。ここは少しでも情報が欲しい。

万丈は左のモニターを触り、カズキに通信をとった。


「あっ、万ちゃん!?」


カズキの声が聞こえる。


「カズキ、無事だったか」

「なぁ、さっきわや揺れたよな?」

「あぁ、家が壊れるんじゃないかってくらいに大きく揺れたよ」

「万ちゃんのところもそうだったか。俺だけだったらどうしようかと思ったよ」

「なにかいつものイベントと違わないか?」

「あぁ、NPC通信手からの連絡もないし、お決まりのダイブ出撃もないだろ。マップ見たら敵も味方も既に配置されているみたいだし。万ちゃん今どこ?」

「中央より後方。ガデオン軍より前って感じだ」

「良いとこじゃん。俺なんか最前線だぜ。これ、一番最初にやられるフラグじゃね?嫌なんだけどそういうの」


カズキの言葉を聞いて、万丈は少し嫌な感覚を覚えた。言葉に表すには難しいが直感がそう告げていた。


「あと1分もしないで接敵だな。万ちゃんこっち来てくれよ」

「あぁ、今向かうよ」


その時、割り込み通信が入り、モニターの映像が強制的に切り替わった。


頭全体を仮面で覆った男が正面に映り込む。


「諸君、惑星ルナリスへようこそ。最後のイベントLast missionの開始である。君達にはガデオン軍特種遊撃部隊としてクラッシャー殲滅の任に就いてもらう。見事攻略した暁には報酬を与えよう」


さも当然のように淡々と言葉を連ねていく仮面の男。表情も見えず不気味な雰囲気を漂わせる。


「この2年数ヶ月で君達はアームの操縦を嫌と言うほどやってきたはずだ。その働きに期待する」


ひとつ間をおいて、男は最後の言葉を口にした。


「元の星、地球に戻りたければ要塞を攻略することだ。それでは、検討を祈る。Fullfill a mission《使命を果たせ》」


そう言って、通信が切れる。


「どういうことだ…元の世界って……」


考えたくない最悪なことが、ひとつずつ外堀を埋めていっているようだ。


「とにかく、カズキと合流しないと」


ブラウエーデスを動かし前に出た途端、近くで待機していた黒い機体に制止される。


ブラウエーデスと同じくらいの全長。

装甲は黒い機体の方がありそうだ。

後頭部に2本のセンサーらしきもの、バックパックには大きな剣が2つ縦に設置されている。


「どこにいくつもりだ、No.3。まだ遂行の時間ではない。モニターを確認していないのか?」


アームの外部スピーカーから声が聞こえてくる。


「モニター?」


右のモニターに目をやると、ミッションがいくつか表示されていた。


・フロア3の解放

・ガデオン軍の護衛


最後の一文に目を疑う。


・先頭部隊を囮にした本陣への強襲


こんな内容のミッションは今までのイベントでは見たことがなかった。衝撃的な内容に目を疑う。


「ミッションを確認したら持ち場に戻れ。十傑機(ランキング10位以内の呼び方)は最後だ」


「そんな…でも、前には友達が!!」


万丈もスピーカーをONにして返答をする。


「ならん!!任務が優先だ。最前線の者は最前線の任務がある」


そんなこといったって、それは彼らが望んだことではない。

無理矢理前線に立たされた人達はどうなるんだ?


仮面の男は地球に戻るには要塞を攻略しろと言った。

負けた場合はどうなるんだ?元の世界に戻されるんじゃないのか。


マップには最前線の部隊とクラッシャーが接敵しているのが映っている。

1体、また1体とプレイヤーがロストしていく。

カズキがクラッシャーと戦うまで、そう猶予はない。


万丈は操縦桿を握り、アクセルを踏む。

急激にバックし、黒い機体の制止を振り切る。


「むっ!!?貴様!!勝手なことをするな!!」


追いかける黒い機体の腕をかいくぐり、前線に向けて加速する。


「何故わざわざ危険な場所に赴く!!」

「友達は見捨てられない!!」


後ろから聞こえてくる声にスピーカーで反論する万丈。


ブラウエーデスはあっという間に前線の群れの中へと潜り込む。

機体を取り逃し、悔しそうな素振りを見せる黒い機体。


「理解できん……むざむざ十傑機の座を捨てるとは。奴はもう使えん。

見つけ次第廃棄処分にしろ」


黒い機体に乗った男は通信で数人にそう命令する。

アッシュの髪色に精悍そうな顔立ちの男。目つきは鋭く、冷たさを窺わせる。

歳は20代後半くらいだろうか、スッと通った鼻立ちは日本人ではない風貌を思わせる。


男が命令を終えた頃、そこに超遠距離から極太なレーザーが放出された。

縦一直線に走ってきた熱線は、一瞬にしてその直線状にいたアームをただの鉄屑へと変えていく。

次々と爆破を起こし、破片が宙を舞っていく機体。


「後退!!後退だ!!敵の射線上に入らないように散開しろ!!……なんだ、今の攻撃は!!?データには一切なかったぞ!!」

焦りの色を見せる男。


機体を動かし後方へと下がる。

彼が先ほどいた場所は、レーザーによって深くえぐれてしまっていた。

その場に留まっていたら、間違いなく跡形もなく消え去っていただろう。


「……化け物どもが!!」


ドン、と男は座席を強く叩いた。



ブラウエーデスは前線で混乱するブラントとノル・ブラントの間をすり抜けながら

カズキの乗るシルトクレーテを探す。


通信ボタンを押すが、混線しているようでなかなか繋がらない。


「カズキ!!返事をしてくれ!!」


先ほど前方から放たれたレーザーは、プレイヤー軍、ガデオン軍含めて

優に千の機体は消し飛ばしていた。

凶悪な攻撃……このまま第二波が放たれれば更に被害が増す。

周りには、既に焼け焦げたアームが散乱していた。


ゲームのように撃墜エフェクトが出るわけではない。

機体から赤々と燃え上がる炎と焦げた鉄の匂い。


万丈は、震えていた。

大破したアームの中にカズキが、兄がいないことを切に願った。

隙を見ながら2人に通信を送り続ける。


マップを見ると、1500単位のクラッシャーが6方位からプレイヤー軍、ガデオン軍を取り囲むように進撃してくる。


迫りくるクラッシャーも全く見たことのない機械ばかりだった。


手長猿のようなだらんと伸びた腕に獏のような顔をした機械が数をなして迫ってくる。

腕の先にはマシンガンのようなものを装備し、攻撃を仕掛けてくる。

能面のような表情の読めない顔は余計に不気味さを漂わせていた。


万丈は1体1体確実に動きを止めていく。

しかし、仲間の援護まで到底間に合わない。

そうしているうちにも、プレイヤー軍のブラントが胸部に銃撃を受け、次々と倒れていく。


「くそっ!!このままだと、全滅する……!!」


1体で皆を守り切るのは不可能だが、助けないという選択肢はとれない。


「各機!!このままでは無駄死にだ!!南西の手薄な地帯に避難するんだ!!」


まだ動けるブラントをかばいながら、万丈は叫び続ける。


そこに入る通信。


「万ちゃん!!万ちゃん!!」

「カズキ!!無事か!!?」

「あぁ、なんとかな。シルトクレーテにしておいてホント助かったぜ…にしたってなんなんだよこりゃ。万ちゃんと話が出来てるってことは夢ってわけでもなさそうだな……」

「信じたくないが現実みたいだ……。とにかく、考えるのは後だ。今はここから早く離脱しよう。南西のクラッシャーの群れに唯一手薄な場所がある。そこを今いるアームを連れて逃げるんだ」

「わかった!!万ちゃんはどうするんだ?」

「俺は兄貴を探す」

「通信は?今どこにいるかわかっているのか?」

「わからない……でも、探さないと…」

「なら、俺も探す!!」

「でも、早くここから逃げないと!!」

「逃げるなら一緒だ!!万ちゃんが兄貴を探すって言うなら俺も手伝う」

「カズキ…ありがとう、助かる。兄貴を探そう!」

「おう!!」


ブラウエーデスとシルトクレーテは、後退を始めるブラントに狙いが向かないよう敢えて

前へ陣取る。


「しっかし、どうしてこんなことになっちまったんだよ……」

「わからない……わからないことだらけだ」

「考えても答えは出てこねぇな。今は無事にここから逃げ切るだけだ」


そこに後方からガデオン軍のリーダーと思しき機体が先頭を走ってくる。

機体はノル・ブラントの特殊カラーのようだ。

武装にそれほど違いはないが、出力が通常のノル・ブラントに比べて1.2倍ほどの違いがある。

後ろには100機ほどのノル・ブラントが連隊を組んで追ってきていた。


「援軍か?」

「だといいんだけど」


先頭を走っていたノル・ブラントの特殊カラーはブラウエーデス、シルトクレーテに向けて

左手のマシンガンを斉射する。


ダダダダダダダダダダ!!!


放たれた銃弾をシルトクレーテの装甲がはじき返す。


「カズキ!!助かる!!」

「そういう時のこいつよ!!にしても、なんだあいつら!!味方じゃねぇのかよ!!」


急な攻撃に憤慨するカズキ。万丈も同じ気持ちだった。

今、クラッシャー以外を敵にしている余裕などない。


「なにすんだぁお前らぁ!!!」

「それはこちらの台詞だ!!!何を敵前逃亡をしている!!」


カズキの怒声にかぶせるようにノル・ブラントリーダーからの怒声。


「敵前逃亡?こんな戦力差で勝てるわけがないだろう!!人の命がかかってるんだぞ!!」

「命がなんだ!!星のために死ね!!それが貴様らの役割だ!!!」


あまりの物言いにカチンと来る万丈。それを止めるシルトクレーテ。


「万ちゃん、ダメだ。今こういう奴を相手にすると死ぬのは俺らだ。映画じゃ常套手段だよ」

「カズキ!!でも!!」

「今は撤退だ!!いちいち喧嘩を買ってたら、身体がいくつあっても足りやしない」


食って掛かろうとするブラウエーデスを制止して下がらせるシルトクレーテ。


「腰抜けのアーサーどもが!!!だからワシはこの作戦には反対だったんだ!!」


ギャーギャーと喚くリーダー機。


「反乱分子を制圧しろ!!クラッシャーから逃亡するものは死あるのみだ!!」

「聞く耳持たないようだな」

「絶対上司にしたくない奴だ。顔を見なくてもわかる」


2機は撤退するブラントに攻撃がとどかないよう近場でガデオン軍を牽制する。


「このっ!!ちょこざいな!!撃て!!撃てー!!!」


響き渡る怒号。飛び交う銃弾。

ブラウエーデスはそれをかわし、シルトクレーテは全てを跳ね返す。


「この!!ごみどもがぁぁぁ!!!」


リーダー自らが飛び出し、ブラウエーデスに向かって手に持った旧式の物理ソードを振るう。


ガキィィン!!!


真っ二つに折れ、地面に刺さる刃。

それを受け止めたのは深紅に染まったブラントだった。


「兄貴!!」

「万丈、遅くなった。大丈夫か!!」


外部スピーカーから声が聞こえてくる。


「通信が一切効かないんだ、どうやらこっちに来たショックで壊れているらしい」

「そうだったのか!!とにかく無事で良かったよ!!」

「ぐぬぬ、このワシを無視して話などしおって……!!!」


深紅のブラントは両脚からエッジダガーを取り出すと両手に装備する。


「ノル・ブラントにはこれくらいでいいだろう」


通常のブラントとは明らかに違う駆動音。

カズキ曰く、“変態的にチューンアップされた”ブラントはあっという間にリーダー機の背後に回りエッジダガーで両腕を切り落とす。


「ぬおっ!!!」

「兄貴!!!」

「流石!!変態的な動きだぜ!!!ブラントであんな動きができるなんて兄さんくらいだろ!!」


戦いを終え、鮮やかにエッジダガーを脚部に仕舞う。


「さぁ、早く撤退しようか」

「くそっ!!!くそーっ!!!」

「弟を傷付ける奴は許さない。俺がいつだって相手になってやる」


兄・大和は倒れたリーダー機に折れた剣を突き立て、そう言い放った。



大和の活躍でガデオン軍は渋々撤退をしていった。

3人は南西に向かったプレイヤー達を追いかける。


「いやー、さっきのは傑作だったな。スカッとしたぜ!!」

「流石、兄貴だ!!」

「まぁな。覚えておれ!なんて去り際の台詞までテンプレ通りでわかりやすい奴だったな」

「確かに」

「どこの世界でもああいう奴はいるってこった」

「足止めを食ってしまったが早くここから脱出しよう。被害も甚大のようだし、落ち着いて色々と考える時間が欲しい」

「流石、兄貴。冷静だね」

「冷静なもんか。今だって夢であってくれと祈ってるよ」

「とにかく考えるのは後だ、早くここから離れよう」

「あぁ、そうしよう。………ん、あれは」


万丈は少し遠くで白い機体がクラッシャーの群れに襲われているのが見えた。

以前のイベントで万丈のことを助けてくれた機体だ。


「俺、ちょっと助けてくる」

「おい、万丈!!」

「万ちゃん!!」


アクセルをふかし、南西の進路を外れ白い機体に接近していく。

クラッシャーの数は50。

1人で相手にするにはなかなか大変な数だ。

加えて白い機体の得意な武器は遠距離武器。

完全に距離を詰められた状態では分が悪い。


「左に避けろ!!!」


万丈は外部スピーカーを使って叫ぶ。

声に反応して白い機体を追っていた手長猿達が数匹こちらに向かってくる。


お決まりの左ボタンを2回押してからのウィンドウを技に合わせる。


「バーンウェップ!!!!」


蒼く燃える炎が鞭のように伸び手長猿達を捕らえていく。

横なぎに払われた炎は走ってきた手長猿達を一斉に吹き飛ばしていく。


逃げる動きを少し緩めブラウエーデスの方を見る白い機体。

機体に向かってサムズアップをして見せる。

機体は特に反応せず、再び移動を始めあっという間に見えなくなってしまった。

敵陣には向かっていないようで一安心だ。


そこに高圧縮エネルギーの第二波が発射される。

ピッと線を引いたように地面に裂け目が出来、近くにいたクラッシャー、ガデオン軍、プレイヤーを巻き込んでいく。


「敵味方お構いなしか……」


そこに、先ほど自分を制止した黒い機体が1機のブラントを追いつめているのがモニターに映った。

ブラントの明らかな劣勢。

片腕を斬られながらも後退してなんとか黒い機体の攻撃を避けている。


特に助ける必要はなかったのかもしれない。

けれど、父に教えてもらったロボット道はそれを見逃すことを許さなかった。


気付いた時にはアクセルを踏み、黒い機体に攻撃を加える。


ガァン!!!


機体の頭部を殴り付ける。

黒い機体もすぐさま反応し、態勢を変え剣を振り上げる。急制動で剣の動きをかわし

倒れたブラントを引きずり後方へと下げる。


「あんた、大丈夫か!!?」

「何故助けた!!貴様まで巻き込まれるぞ!!」

「わからない!!」


万丈はブラントを下げ終えると、黒い機体に向かって向き直る。


「何故そいつを助ける。十傑機の座を捨て、尚私の邪魔をするか」

「困っている人がいたら助ける。兄貴にそう教えられたからさ」

「首をつっこんだ結果死ぬことになる。貴様はこの世界にとって邪魔でしかない」

「そんなものいちいち人に決められたくはないね!!」


左のジャブを機体に当てストレートを繰り出す。

拳は空を切り黒い機体からの回し蹴りを胸部にもらう。


「ぐっ!!!」


コクピット内部に伝わる強烈な衝撃。

ゲームとは明らかに違う“本物の痛み”が体を襲う。


「いってぇ………やっぱ、違うな……でも」


気付いていなかったが、特権服が衝撃を吸収してくれているような気がする。

思わぬ助けを得て、万丈はブラウエーデスの体を起こす。


「厄介な者を呼んだようだな。ここで始末しておかねば後々の遺恨となる……」


黒い機体は手に持っていた剣を放り投げ、背中に背負っていた2本の剣を構える。

先ほどとは違う空気。明らかにトドメを刺しに来ている。


「お前たちの敵はクラッシャーじゃないのか!!?」

「無論、敵である。しかし、また目の前にいる貴様も敵である」

「私のことはいい…もう逃げろ!!」

「そうもいかない!!助けに入ったものを途中で見捨てられない!!」


剣を交差させ、腰を落とす黒い機体。

ブラウエーデスはそれを迎えうつべく、腕に蒼い炎を纏う。

おそらく勝負は一瞬だ。万丈は今までのBOXの経験からそう感じていた。


一足先に黒い機体が動く。

ブラウエーデスも遅れて機体に向けてブーストをかける。

右からくる剣閃をすんでのところでかわし、黒い機体がそのまま回転して振り払われた左の剣を飛び越える。


「なんと!!」


頭上高く飛んだブラウエーデスは空中で回転したあと着地し、

黒い機体の背後に回り込む。


「チェック!!」


ブラウエーデスは黒い機体の胸部に渾身の一撃を食らわせる。

脇の空いたところに攻撃を喰らい吹っ飛ぶ黒い機体。


「ふぅ、ギリギリだったな……」

「貴様、情けをかけたつもりか……」

「倒したら死んじゃうんだから。壊せないだろ」

「私を生かしておけば、いずれ貴様を殺しに行くぞ!!」

「どうしてその態勢で強気なことが言えるんだか……いつでも相手になってやるよ」


ブラウエーデスは黒い機体を放って倒れているブラントのところまで行く。

立てるかと手を差し伸べるとブラントは残った片手で起き上がった。


「大丈夫ですか?」

「あ、あぁ……」


そこにカズキから通信が入る。


「万ちゃん!!救援のホバートレイルが来てるって!!それに乗ればここから離脱できる」

「本当か!!」

「マップにマーカーを置くからここを目指してきてくれ!!」

「わかった!!」


カズキからもらったマーカーを元に、壊れたブロントを押しながら移動する。


「私のことは置いて行けといったのに……話を聞かんやつだ……」

「放ってはおけないでしょ」

「私の役目はもう終わったのだ。あいつをあそこで倒せなかった私には……」

「よくわかんないけど、落ち着いたら話聞くからさ。一旦救出艇のところまで頑張ろう」


遠くに救出艇が数隻見えてくる。丁度ブラント達を収容しているところのようだ。


「万ちゃーん!!」

「カズキ!!」

「お兄さんも心配してたぞ!!無事で良かった!!」

「あぁ!!」


そこに、急遽鳴り出す警告音。

クラッシャーどもが救出艇に向けて凄まじい勢いで追いかけてくる。


「カズキ、急げ!!クラッシャーがすぐそこまで来てる!!」

「万ちゃんも急いでくれよ!!」

左ボタンのスイッチを2回押し、SET3のコマンドを呼び出す。


「ちょっと荒っぽいけど、我慢してくれよ!!!」

「な、なんだって?……う、うぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


ブラウエーデスの装甲が青白く光り、更にスピードを加速させていく。

ブラントを押しながらとはいえ、このスピードを出せるのはブラウエーデスだからこそだ。


「こ、こ、こんな力が!!!!」

「エネルギー食ってしまうけど、仕方ない!!!!」


万丈はアクセルを強く踏みしめ更にスピードを上げる。


「万ちゃん急げ!!!」

「万丈!!!」


カズキと兄の声が聞こえる。


「うぉぉぉぉおおおお!!!!!」


エネルギー値が40%を切り、一気に減っていく。

気合の雄たけび。


ブラウエーデスはブラントを持ち上げると、

間一髪、浮上を始めた救出艇の後部に取りついた。


「なんとか間に合ったみたいだな……」


一息ついて上を向いたその時、ガクンと脚を引っ張られる感触。

クラッシャーのうち1体がチェーンのようなものを口から吐きだしブラウエーデスの

左脚を絡めとっていた。


「な、なんだ!!?」

「万ちゃん!!」


左足を引っ張られ、救出艇から空中に放り出されるブラウエーデス。

シルトクレーテが手を伸ばすがあと少しのところで届かなかった。

高度もそこそこ上がってきたところだ。万が一着地したとしても機体への損傷は免れない。


せっかく脱出できたというのに………。


「クソッ!!」


万丈は悔しさのあまりモニターを叩いた。


「万ちゃーん!!!!」

「万丈、待ってろ!!!今すぐ!!!!」


2人の声が外部スピーカーから響く。


ここで終わりか、あっけない終わりだったな。

万丈が心の中でそう思った時、救出艇に乗っていたブラントが突如自ら落下を始めた。


ブラントはそのまままっすぐに落ちてくるとブラウエーデスの体を片手で抱える。


「おい!!!なんで落ちてきたんだ!!」

「あんたみたいな者に……賭けてみたくなった……」


ブラントの外部スピーカーから聞こえる掠れた声。

その声とともにブラントの胸部が光り出し、球体の光が2機を覆い始めた。


「……これは!!?」

「使用の目的は違ったが、これもまた、導きなのかもしれん……幸あらんことを」

「何言ってるんだ!!訳が分からない!!!」


光は徐々に強さを増していき、大きくなりきったところで一気に凝縮する。


一瞬の出来事だった。

塵となって消えてしまった2機のアーム。


「万ちゃーん!!!!!」


腕のないブラントとブラウエーデスが消えた空に、

カズキと兄の声が虚しく響き続けた。


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