8.ラスティside
「何をやってるんですか?!」
気を失い倒れかけたユイをなんとか抱き留めた。
既に自分の声は彼女の耳に入ることはないと頭では分かっていても、苛立ちは収まらない。
自分の額から汗が噴き出ており、まだ心臓が落ち着かず荒い息をしている身体を徐々になだめていきながらも異世界人、ユイを注意深く観察した。
服の上からだが、火傷はまったく見当たらない。
よかった。
奇跡だ。
傷つけないで済んだなんて。
普通なら助からない。
もし助かったとしても、力を持たない彼女は、きっと全身…。
思わず安堵のため息が口から漏れた。
ふと足元に落ちている小さな塊に目がいった。
「お祖父様がユリさんに渡した髪飾りか?」
かろうじて留め具の部分が原型を留めていたのでわかった。
コレが彼女を護ったのか?
いや、でも確かに見た。
暴走した力が炎となり広がったそれは彼女の中に入っていった。
まるで吸収されたように見えた。
見間違いではないだろう。
彼女が助かったのはよかったけど、今後不味くなる予感がする。
何もかも俺のせいだ。
最近は大分回復したはずだったのに。
身体は回復してきていても、中身、精神はいまだ駄目らしい。
この花の香りであの時の事を、思い出してしまった。
気づいた時には制御できなくなっていた。
力は精神によって大きく左右される。
…俺は、生きていていいのか。
いまだ俺のせいで目覚めない師を想う。
自分にその資格があるとは到底思えなかった。
俺は彼女…ユイを抱き直し、原型がなくなった髪飾りを拾い屋敷へと足を向けた。
この事をお祖父様に話して、果たしていいのだろうか?
「どうされましたか?!」
この件を黙っていてもいずれ気づかれるだろう。
俺の監視役、ダリアが出迎え、腕の中にいるユイを見て大きな声をあげた。
どうせ離れた場所であの光景を見ていたに違いない。
もう一度ユイを見た。
穏やかに眠るユイ。
俺を救ってくれたユリさんの孫。
──この表情を曇らせたくない。
「お祖父様の書斎へ行くので彼女をお願いします」
どうせならダリアから話がいく前に自分で話したい。
彼女を客間の部屋のベッドへ寝かせ俺は、そのままお祖父様のいる場所へ向かった。