4.押しに弱かった私
「ああ、まだ名前すら名乗っていなかったね」
老紳士は、私の背を軽く押しどうぞと更に部屋の中へ誘導しいつの間にか青年がいるベッドの側に置いてある椅に座らされていた。
老紳士は、私の近くに立ったまま、私を見て自己紹介をした。
「私は、ラグナス・ヴィ・ノイアーだ。」
そしてベッドの青年に視線を向けた。
「この子はラスティ」
ラグナスさんの青年に対しての口調は限りなく穏やかだ。少し間があいた。
あっ、私か。
ちょっと慌てながらも自己紹介。
「私は、小林 ゆい です」
「確か逆だっはずだから、名前はユイかな?」
「はい」
そっか…そういえば。
「言葉は最初から通じていた」
同じ言語なのかな。そんな疑問にすぐさまラグナスさんから答えが返ってくる。
「貴方の国の言語とは違うよ」
「え、でも」
確か花畑で会話は成立していたはず。
「ああ。最初から会話をしていた。我が国は特殊でね。魔術や魔法が他国より発達しているから国に足を踏み入れた瞬間から会話はできる」
それって凄い便利だ!
私の表情をみてラグナスさんは、ちょっとニヤッとしながら追加した。
「ただし、読み書きは出来ないよ。期待していたようだが、そこまでは難しいらしくてね」
「そ、そうですよね」
どこでも勉強って必要なんだな。
まあ私には、関係ないけれど。
「それでユイと呼んで構わないかね?」
「はい」
勿論構わないので返事をしたけど。
「では、ユイ、バイトの内容なのだが私の孫、ラスティの話し相手をしてもらえないかね?」
「えっ?」
バイトって冗談じゃなかったの?
戸惑う私にまるで話す隙を与えないかのように話は進んでいく。
「ラスティは、しばらく動くのは難しくてね。年寄りの私より、年齢が近いほうが話も弾むだろう。ラスティも退屈だろう?」
「いえ、僕は」
明らかに迷惑そうに眉間にシワがよっている青年。ですよね!私も困るし!
だが次のラグナスさんの言葉に彼の様子がガラリと変わった。
「まだ周りにはあまり広めたくないのだがユイは、異世界人だよ」
「えっ?」
「ユリの孫だそうだ」
「ユリさんの…」
おばあちゃんを知ってるの?
今まで一言も話す素振りを見せなかった、だんまりの青年が声を出し、好奇心をちらりと覗かせ私を見ている。いえ、見えていないのだろうけど、そう感じた。
「じゃあ決まりだな。」
「いや、私はまだ何も!」
いや、よかったと微笑むラグナスさん。私、やりますなんて一言も言ってない!
ここは、ハッキリ!
「私、無理です!」
よし!
言えたぞ!
「ん?何が問題があるかね?特に難しい事もないと思うが」
流されるな自分!
「今は、入学前で休みですけど学生なので、勉強もあるので!」
「そうか」
考えるように顎をさするラグナスさん。
「その学ぶ学校は毎日なのかね?」
「えっ?7日の内2日は休みですけど」
「なら、7日に1回こちらに来て頂けるだろうか?」
「えっ」
そうきますか!何か言わないと!流されたら負けだ!
「ああ、賃金だが、貨幣は違うから使えないね」
流されたら…。
「なら、こんな案はどうかね?」
ながさ…。
「や、やってみようかな」
「決まりだな」
宜しくとラグナスさんは、ニッコリ。
うっ…流されちゃったよ。
そうして週1のバイトが決まった。
場所は異世界。
あっ履歴書って書くのかな?
私は、ぼんやりそんな事を思った。