23.私の羅針盤
ラスティ君の淡い魔法の光が持ち主の手から離れてしまい宙をさまよっている。
手を伸ばしてみたら、静かに手のひらに降りてきた。
触っても温かさはないのに、そのオレンジ色の灯りは優しくて。
「ユイ」
怒っている低い声。
でも懐かしさが先にくるから不思議。
金木犀の香りと淡い光は私を勇気づけてくれる。
苛立ちを隠さないラベンダー色の瞳の男の子、もう男の人になっている彼に話しかけた。
「ラスティ君は、自分の命とラグナスさんの力、あとこの指輪で狭間を塞ぐつもりなんでしょう?」
少しだけ表情は動いた。
でも。
「…関係ない」
ほら、また距離を置かれた。
なら、私は近づくよ。
「文句を言うつもりはないの。提案をしたくて」
「提案?」
私は、強引に奪った指輪を取り出し、手に握りしめ、ダリアちゃんに教わった言葉を呟いた。
微かな変化に手を開けば、指輪は半分に割れていた。
「私は、おばあちゃんみたく強くないし、我が儘なんだ。ラスティ君が死ぬのも嫌、強制的に帰らされ二度とこの世界の人達に会えないのも寂しい」
すぐに決められないよ。
だけど、出来ることはある。
「ラスティ君達は、特殊な力がなければお墓に埋葬されるはずなんだよね。私は、この狭間を守る為にこの場所に縛られているのも、そして尊敬と同時に恐れられているのもよくない気がする」
ダリアちゃん1人から聞いた話だけで判断はよくないのは分かってる。
でも、お墓もないなんて力がある人はこの一帯から出られないのはおかしいよ。
「これ、半分もらうね」
「ユイ? 何をする…」
割れた指輪の半分を口にいれた。
それは砂糖を固めたお菓子のようにさっと舌の上で溶けていく。
ほどなくして変化が。
…身体が寒い。
外からじゃない中からだ。
手をラスティ君に伸ばした。
もう私の結界は消えかけているはず。
人から借りた力は短時間しか持たないってダリアちゃんは言っていた。
ぼやける姿になるべく軽い口調で。
「話し合いしようと思ったんだけど、反対されそうだから変更した」
へらっと笑いかければ、固まっていたラスティ君は私の手、腕を掴んだ。
「何をするつもりだ? ダリアは何を貴方に吹き込んだ?!」
彼の声はいまや怒りに声は震えている。
私も、カタカタと今までに経験したことがない寒さで手だけだったのが全身に。
「裂け目を私に移す」
「そんな事! 不可能だ!」
ああ、寒い。
「ユイっ!」
揺すられ消えかかる意識が少し戻った。
目の前の綺麗な人からは怒りよりも焦り、心配そうな顔。
やっぱり優しいところは変わってない。
「ラスティ君も協力してくれるかな?」
伸ばした手の中には残った指輪の欠片。
それをラスティ君に押しつける。
「ご先祖様の力が入った指輪とラスティ君の力、あとその器の中身を私に振りかけて」
私だけでなんとかなればいいんだけど、それじゃあ足りないって言われた。
全ての力を私に下さい。
そのずっと悩んでいた強い力を変えてあげる。
だから生きて、そして。
「私が戻る場所に羅針盤になってくれますか?」
ダリアちゃん、賭けに勝つよ私。
我が儘を通すからにはそれなりの覚悟を。
『再びユイ様が現れた際にヴィセル様から伝えるように言われておりましたが。成功する確率は限りなく低いと。私の力もお渡ししますが…どうされますか?』
もう立ってられない。
瞼が開かないよ。
『ゆいちゃん、女は度胸』
おばあちゃん。
私、諦めない。