18.ラスティside
窓から見た外は夕暮れだ。
自分は、一番この場所にいなくてはならない存在なのだが。
「少し出てきます」
「お早めにお戻り下さい。先生は今夜には…」
「少し走らせてくるだけだ」
ダリアの追いかけてくる言葉を遮り外へ出た。
逃れる事はできない。
だから今だけだ。
「結局此処にきてしまう。未練がましいな。…俺もお祖父様と同じか…」
数ヶ月前にこの屋敷に戻ったが、屋敷もこの花畑の光景も時が止まっているかのように昔の記憶のままだ。
愛馬のロウが鼻をこすりつけてきた。
鼻先を撫でてやると満足そうに嘶いた。
襟の小さなブローチを外し表面を親指の腹で撫でる。何も飾りがない円形のそれは、硝子の中に編まれた漆黒の髪と銀色の雫が入っている。
夢ではないが夢のような出来事。
このブローチがあるからこそ、今まで王都で力を安心して使えた。貴族の男子に課せられる規則とはいえ自分が騎士として剣を魔法を使えるとは。
俺は、彼女に髪を切らせ、ユリさんからだという大切な品を奪ってしまった。
彼女は幸せだろうか?
闇が濃くなっていく。 そろそろ戻らないと。
裂け目から背を向けた瞬間足を止め振り返った。
…空気の流れが変わった?
身体が血がザワザワと騒ぐ。
…この感覚は。
まさか。
彼女を強制的に還した影響を受け、おそらく裂け目はあと一年ほどで閉じるはずだ。上はこの異常事態に騒いでいたが、間違いなく彼女の力と俺の力の作用だ。
継承をしてない俺では、ナニか迄はわからない。
害を及ぼすモノは侵入できない術はかかっているが、完全ではない。
だからこそ、我々が代々監視をしていた。
それにしても、何故今なのだろう。
敵の場合に備え右手に力を集中させる。
──来る。
夕暮れの中から大きく裂け目が現れ、強い光が目を刺激する。腕で庇いながらも右手には直ぐに放たれる黒い炎。
光が薄れ、それと同時にモノの気配も強く感じられた。その気配を自分は知っていた。
そこには、彼女が立っていた。
間違いない。八年ぶりに会う彼女だった。泣き笑いの彼女は俺に挨拶をしてきて、右手にまだ作り出した炎がそのままだった事に気づいた俺は急いで炎を消した。それと同時に頬に痛みが走った。
「酷いよ!」
俺は、強い生き生きとした瞳の彼女、ユイに怒鳴られ、頬を叩かれていた。