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16.別れ

早朝、美味しい朝食をありがたく頂き食べ終わった頃にドアがノックされ、ムーデさんが顔を出した。


「先生、ノイアーの小僧が来ましたよ」

「予想通りね。離れの部屋に入って待っているように言ってくれる?」

「…懲りない先生だね」

「ふふん、今度はヘマしないわよ」


呆れた顔をしたムーデさんが、やれやれと言いながら去っていった。


「先生が心配なんですね」


面倒そうな顔のムーデさんだけど、先生の事を気にかけているのがとてもよく分かる。


「そうなのかしらね~。産まれた時から、かれこれ五十年くらい一緒だから」

「えっ五十年?!」


思わず声が大きく出てしまい、慌てて自分の口に手をあてた。もう手遅れだけど。そして失礼ながら先生をじっくり見てしまう。そんな私の様子を先生が気がつかないはずもなく。


「あ~この世界では保持している魔力量が多いいほど長生きするのよ。まあ、そうはいっても私だったらあと七十年くらいかしら」


何事もなければな話だけどとケラケラ笑った。

どう見ても二十代後半にしか見えなラナ先生にまた気になり質問をしてしまう。


「見た目というか外見は止まってしまうんですか?」

「まさか。緩やかにだけど変化していくわよ」

「…そうなんですか」


興味深いな異世界。

見た目だけじゃなくて中身はどうなんだろう?


「はい、考えるのはそこまで。さっさと作った物を試しましょ。ユイはどうする? 安全は保証できないけど」


ここまできて除け者なんて嫌だよ。


「行きます!」

「そうこなくっちゃね。じゃないと務まらない。いえ、こっちの話よ」


…? なんだろう今のは。

考える間もなくせかされて、次の瞬間忘れてしまった。


「さっ行きましょ。成功すれば、そのまま屋敷に帰るだろうから忘れ物しないようにね」

「はい」


本当に学校の先生みたいだな。

それに、つい返事をしてしまう私は生徒そのものだ。


私は、隅に立て掛けてあった先に綺麗な赤い石がついた棒、杖かな。それを手に持ち外へ出ていく先生の後を追いかけた。



「私の人生で三番以内に入るくらいの出来な物よ」

「はあ」


案内された場所は、先生のお家からすぐに見える森の中に入った大きな岩の後ろにあった。

それは半球の形だ。岩と同じ色で目立たないようにしたらしい。どこか近代的な建物で不思議だな。前にいたラナ先生が何か呟くといきなり扉が開いた。


「早く」

「あっ、はい!」


急いで中に入ると。


「…外観と広さが違う」


外から見た時は、小さい戸建てくらいの大きさだったはずなのに、室内は学校の体育館三つ分くらいはあり、物は何もない。それに周りを確認しても窓や電気は見当たらないのに日中くらいの明るさがある不思議な空間。


無機質な部屋の中央にはラスティ君が無表情で立っていた。その彼にラナ先生が話しかけた。


「ラス、じい様はどうだった?」

「西の町の土砂崩れが予想より被害がでていて、今日戻られる予定です」

「ふ~ん。まぁいつ帰るかわからないから早速始めましょうか」

「それよりユイはいなくてよいのでは?」

「今後の為に見ていたほうがいい。これは決定よ」


ラナ先生の本気の声は怖かった。

先生が、私の方へ振り向くと杖を私に向かってひと振り。直後私を中心に小さな光る円が足元に発生した。


「ユイは、そこから私がいいと言うまで出ないでね」

「はい」


私は素直に返事をするしかない。

次に先生は、ラスティ君とラナ先生が立っている丁度中心の場所に昨夜作った品を置いた。


「ラス、それに力を徐々に出してみて」

「これにですか?」

「そう。つべこべ言わずやりなさい」


置かれた物、小さなブローチに戸惑いを隠せないようだ。そうだよね。私もそんな物で大丈夫かなと不安だもの。


ラスティ君は一瞬躊躇した後、左手をそのブローチに向けた。その手から黒い炎が出てくる。


「もっとよ」

「でも」

「私を誰だと思っているの? この国で一番の私に二度目の失敗なんてありえない」


凄い自信。

私だったら絶対言えない台詞。というかラナ先生ってもしかして、とても偉い人なのかな。


「いいわね。もっと」


ラスティ君は、その絶対的な言葉に勇気づけられたのか、黒い炎は強さを増していく。

そんな時、突然先生はラスティ君に問いかけをし始めた。


「ねぇラス、あなたは、あの家に産まれなければ、どんな人生を送る事ができたのかしら?」


「え?」


「あなたはこの一族に産まれ、しかもその力によって人生は既に決まっている。自分を嫌にならなかった?友を羨ましく、憎く思わなかった?」


「先生…」


「あなたは、ここに一生縛られなくてはならない。あるのは、ほんの少しの自由のみ。そして、あなたはユリを利用しようとしたあのじい様を憎んでもいる」


「憎んでなんか」


「そうかしら? なら、ユイをここに留めておけばいい。ユイは、あなたの力を恐れない。ユイを屋敷に閉じ込める? それとも、民に恐れられながらも利用され続けた我が一族の復讐をしてくれるのかしら? ユイを隣につれていれば力はコントロールしやすいから可能よ」


煽るような言葉。

──絶対わざとだ。



「やめてください!」


いつもの冷静なラスティ君なら、そんな事わかるはずなのに。


黒い炎は、不規則に動き大きくなっていきそれは膨れ上がり激しく揺れながら量を増していく。


力が乱れていくのが、素人の目でもわかるくらい。怖さはまったくない。それより制御ができなくなってきたのか、ラスティ君の何かに耐えている表情を見て辛くなってきた。思わず一歩を踏み出そうとしたら。


「ユイ、出ないで」

「う」


その鋭い声でなんとか踏みとどまった。背中に目でもついているのかな。あっ、微かにガラスが割れる様な音が。その音は置かれたブローチから。


やっぱり駄目だったの?!


「やっぱりこっちのじゃないと難しいか」


ラナ先生は、そう言うといつ取り出したのか手には同じブローチが。それを中央へ投げた。


ヒュン


一瞬で黒い炎が消えた。

…魔法みたい。あっ、そもそも魔法か。

なんだか此方にきて段々感覚が麻痺しているのかも。


「これは…」


私よりも驚いているのはラスティ君だった。

綺麗で大きな目がさらに広がりこぼれおちそうだ。


「流石私。上手くいったようね」


先生は、中央に転がっている二つのブローチを取り上げた。私は、足元の光が消えたので膝をついて荒い息をしたラスティ君に急いで近づき声をかけ肩に触れようとしたら、手で制された。拒否されたとちょっとショックを受けたら。


「汗がつきます」


違ったようで、ほっとした。

…あれ? なんで安心したんだろう。


「ラス」

「はい」

「コレは、ユイの髪とユリの気が入った物で出来ている。予備も含め二つある」


そこで先生はラスティ君の襟首を掴み無理やり立ち上がらせた。先生は、あんなに細いのに何処にそんな力が? その手は襟首を離さずギリギリと締め上げた。


「グッ」

「ラス、アンタは弱い。身体じゃなくて心が。力に対して器が小さいのは、小さくしてんのはアンタ自信なんだよ」


先生の手は急に離された。

ラスティ君は、ドサリと剥き出しのコンクリートの様な床に崩れた。


「ラス、力は、過去は変えられない。だけど、そこからは変えようとすれば少しは変わるかもよ? 器に入りきらないなら器を大きくすればいい。アンタ次第よ」


「…はい」


ラナ先生の声は、優しかった。

私、ここにいる必要ないんじゃないかな。

二人の入り込めない空気に、なんか悲しくなった。



「えっとお邪魔しました」

「お邪魔じゃないわよ~いつでもいらっしゃい」

「はい」


私は、ラナ先生に挨拶をし、ラスティ君が乗ってきた馬に乗り、というか乗せてもらい、二人でラグナスさんのお屋敷に向かった。


私は、馬の上でさっき別れたラナ先生の呟きが、なんとなく気になっていた。先生は「会うのはいつになるやら。だいぶ先かしら」と確かに言っていた。


しばらくして距離の感じだと、もうお屋敷につくかなと思っていたら、何故か今では見慣れている景色の場所にいた。


「降ろします」


先に馬から降りていたラスティ君が、私が返事をする前に体が浮き足が地面着地していた。


「ラスティ君? お屋敷に帰るんじゃないの?」


私は、無言のラスティ君に手を掴まれ裂け目に連れていかれた。細く長い指がスルリと離れた。トンと背中を押され、前に一歩出た私が振り向けば。


「ラスティ君?」


なんで、そんな泣きそうな顔をしているの?

私は、ラスティ君に笑って欲しいのに。


「さよならユイ」


黒い炎は私を柔らかく包んだ。

私の意識はそこまでだった。



私は忘れてしまった。

あの花畑の景色も。

ラスティ君の泣きそうな顔も。


──全て消えた。






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