NO.22 帰還
題名通り、セヘルの帰還のお話。
何が起こったかというと、簡単なことである。
セヘルは蠍の赤い光線を直剣を介して転移魔法で取り込み、逆に打ち返したのだ。加えて魔力によって圧力を加えたことで蠍の尾にまで衝撃が届き、蠍を倒すことができた。
「ぜぇ、ぜぇ……」
生まれて初めてといえるかもしれない蠍との激闘を終え、セヘルは乱れた呼吸を整えた。そしてその佇まいを直し、改めて蠍の死体を見直した。
「さて、とりあえず腐ってはいけないので転移魔法で取り込んでおきますか」
セヘルは転移魔法で蠍の死体とその尾を回収し、先へ向かった。
「おおおお……すごい……」
洞窟の最下層にたどり着き、セヘルが目にしたのは、小部屋のような空間の中で、青く輝く魔鉱石がびっしりとあたりを埋め尽くしている光景である。その幻想的な空間はまるでセヘルを歓迎するかのように、中へと招いている。
室内へ足を踏み入れると、シエルは手近な鉱石にピッケルを振り下ろし、そのかけらを一つ拾い上げる。
「この鉱石ですね」
透き通った青色はセヘルの顔を照らしている。その輝きを確認すると、セヘルは幾らかの鉱石を収集し、蜃気楼殿へ帰還した。
◇◇◇
「これは……ブラッディースコーピオン!? よくこんな危険な魔獣を狩ってこれたわね!」
蜃気楼殿へ帰還し、ソシエールに洞窟で倒した蠍の死体を見せると、彼女は驚いたようにそう言った。
「運が良かったので。いい魔法戦闘の練習台になりました。それより何か素材は取れるのですか?」
「ブラッディースコーピオンの鋏はとても固いから鉱石と合わせれば刃物が作れるわ。それとこの尻尾だけど、光線を放つ魔石があるから取り出せば使えるかもね」
ソシエールはそう答えると、セヘルの持っている双剣に目を向け、
「それよりそのは剣はどうだった? それなりの自信作だったんだけど」
とセヘルへ尋ねた。セヘルはそれに頷くと、
「えぇ。すごくよかったです。魔法も使えましたし」
と答えた。実際、剣と転移魔法のコンボは凶悪と言っていいほどの性能を発揮してくれた。これを作ってくれたソシエールには感謝だ。
「魔法を使いながら剣も使えるように設計した代物だからね」
ふん! と胸を張ったソシエール。セヘルはくすりと笑う。
「おぉ、お帰りになられましたか、我が主! ご無事で何よりです」
と、そこへシエセルが近づいてきた。シエセルは申し訳なさそうな顔でセヘルに声をかける。大方、セヘルの洞窟探索に参加できなかったことに彼なりの悔しさを感じているのだろう。セヘルは自分が固辞したからいいのに、と心中で呟く。
「えぇ、この通り、どこも大丈夫です」
「その頬の傷はブラッディースコーピオンにやられたの? 治療するからこっち来なさい」
とソシエール。頬の傷はソシエールによる治癒魔法で回復された。緑色の輝きがセヘルの傷のある部分に宿り、それを治癒していく。
「ほい、これでとりあえず完了」
「ありがとうございます。ところで、先ほどのブラッディースコーピオン? でしたっけ? その魔石の使い道なんですが……」
セヘルが治療された頬に不思議そうにぺたぺたと触れながらソシエールに声をかけた。
「銃、なんてどうでしょうか?」
「銃? 人間が使う武器のこと?」
「えぇ、あの蠍の尾は超高熱のレーザーのようなものを打ち出すものでした」
「なるほど。それに魔力を込めて使えば銃のように使えるわけね」
セヘルは頷き、ソシエールに蠍の尾から魔石を取り出して、手渡した。ソシエールの使えると魔法の中に、金属加工のできるものがあったはずだ。彼女に頼んで銃を作ってもらおうという考えである。ついでに彼女に採集してきた鉱石を渡し、予定の魔道具の作成を依頼しておいた。
ソシエール曰く、多分1、2週間あればできるとのことだった。
ソシエールは魔石を手に乗せながら、スキップでもしそうな様子で館に戻っていった。
「それで、シエセル。一つ頼みがあるのですが……」
「はっ、なんなりと」
「私は次の転移の後、しばらく人間の里へ行って、様子を伺ってきます」
シエセルは少し驚いた様子で、
「しかし、主の顔は割れております。人間のところへ行くのは危ないのでは……」
と答えた。
「大丈夫、僕に考えがありますから」
「はぁ、それで頼みとは?」
「ソシエールや眷族たち、館を任せます」
シエセルは顔を硬くすると、セヘルに声を一段と張り上げて、
「はっ! 命に変えましても、お守りいたします!!」
「お願いします」
セヘルは笑みを浮かべると、疲れたのでもう寝ますねとシエセルに言い残すと、館へと戻っていった。




