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NO.21 炭鉱夫のススメ

連続投稿二話目になります。まだ読んでいない方は一話前からお読みください。

カァン! カァン! カァン!


「ふぃー、なかなか運動になりますね」


今セヘルはソシエールが示した洞窟に来ている。

この洞窟には、魔力を溜め込むことができる鉱石があり、良質なものは洞窟の深いところでしか取れないらしい。

高さはセヘルの背丈の3倍ほど。横幅は両手を広げたセヘルが二人並べるくらいだ。

セヘルはツルハシを振り上げ、リズムよく弧を描きながら他と色の違う壁を掘っていると、

カァン! ゴスッ!

やがてセヘルの足元にやや大きい紫色の鉱石がコロコロと音を立てて転がってきた。


「これは件の鉱石ではありませんね」


セヘルはそれを拾い上げ、近くで見てみる。

未だ精製していないため形は悪く、石もこびりついているが、鉱石は少し濁っていて、反対側を見ることはできない。


「もう少し深くに行ってみましょうか」


ソシエールに言われた洞窟に行く際、誰か一緒に行く眷属はいないかシエセルに聞いてみたところ、竜はあまり薄暗いところを好まないらしく、色よい返事はもらえなかった。

我慢すればいけないことはないが、自発的には行くことはないとのことだったので、無理強いはできないと思い、大丈夫だと言った。

シエセル本竜もまだケガの療養中のためついていくことはできず、申し訳なさそうにしていた。

ソシエールは肉体労働はできないため、消去法でセヘル一人が行くことになった。


しばらく薄暗い中を歩いていく。壁には先ほどの鉱石のものと同じ色の壁が続いている。それらがぽつぽつとあたりを照らしているおかげで、たいまつを持つことなく進むことができるようだ。


一時間ほど歩いただろうか。洞窟を進みながら鉱石を眺めていると、


「っ!」


前に強烈な気配を感じた。


この先に何かがいる。鬼としての本能がそう訴え、手にかすかに汗を感じる。セヘルの頭は情報を求めてフル回転している。


「先程まで他の動物と出会わなかった理由がこれですか」


前にあるであろう存在から感じる心臓をつかむような圧力。この先に何かがある。その強さは未知数。戦って勝てるかどうかさえ定かではない。


では何も見なかったことにしてそのまま帰るか? 幸いにもセヘルの持つ力を以てすれば蜃気楼殿に戻ることは刹那のうちに行うことができる。鉱石採集をあきらめることにはなるが身の安全に勝るものはない。ここで帰還を選ぶのも一つの道ではないのか? 


否。勝てるかわからないからと言って逃げ帰るのは鬼として、蜃気楼殿の主としての矜持が許さない。それに、勝てるかわからない敵というのであれば人間も同様だ。


戦え。胸の奥に熱い脈動を感じる。

戦え。手の汗はやみ、力が自分を満たしている。

戦え。まっすぐ前を見る。いつしかセヘルの顔には口許を釣り上げた暴力的な笑みが浮かんでいた。


「来いよ。正面から相手してやる」


戦え。本能が赴くままに。


「筋力増強:腕・足!」


セヘルから放たれた魔力は白銀の光となり彼の四肢を包み込む。セヘルは己の奥底からあふれ出す力に任せ、地面を蹴った。

ドガァァァン!

地面は円盤状に陥没し、彼を送り出す推進力となる。


「個人転移!」


空中のセヘルの手の中に得物の二振りの直剣が現れる。一目で業物とわかるその双剣。それらはどちらも漆黒の闇を体現したかのように仄暗い洞窟の空気に溶け込んでいる。

双剣を振り上げ、彼は正面を見据える。彼の目の前に現れたのは、


「sssshhhhraaaaaa!!」


巨大な蠍であった。高さは3メートルに届こうかというほどであり、セヘルと比較するとその差は圧倒的という言葉では言い表せないものである。

蠍は己の得物である悍ましいフォルムのハサミを振り上げ、セヘルの剣を止めようとする。


「ウガアァァァァ!」


セヘルは片方の直剣で鋏を受け止めると、もう一振りで蠍の鋏を切り落とさんとする。しかし蠍もそうはさせない。もう片方の鋏でその直剣も受け止める。


「――――!」


セヘルの背後に迫る攻撃の気配。それを察知すると彼は体をバネのようにしならせ蠍から離れる。

するとセヘルがいた場所を蠍の尾が通り過ぎて行った。


蠍はセヘルを倒すべき敵と認め、その尾をセヘルに向ける。


その行為に何かを感じた鬼としての本能に任せ、横へセヘルが飛ぶと、蠍から一筋の赤い光が現れ、それがセヘルのすぐ横を掠めていく。彼の頬に一筋の炭ができる。

セヘルはそれに構わず、蠍に魔法を発動する。


「ダークバースト!!」


セヘルが向けた直剣から、蠍へ向けて魂を滅する光が放たれる。蠍はこれ虫特有の動きで躱す。


「鋼鉄ですら切り裂くこの直剣を止める鋏に、超高熱の光を放つ尾ですか。厄介な敵ですね」


そう吐き捨て、セヘルは再び漆黒の剣を構える。

蠍は再び尾をセヘルのほうへ薙ぎ払うように振り、それに合わせ再び光が放たれる。

セヘルは正面に構えた対の直剣に魔力を流し込み、光へ向けて剣を閃かせる。


「アァァァァァァァァ!!!」


蠍はその行為を嘲笑うかのように鳴き声を上げ、己の尾をセヘルへ向ける。


赤い光と白銀の光。光同士がぶつかるこの攻防が終わったとき、果たして…




無傷のセヘルと焼き切れた蠍の尾があった。


「shhhhaaaa!?」


蠍はその事実に驚愕し、動きを止める。


「さァ、おとなしく死ね」


セヘルは筋力強化された足の力で一瞬で間合いを詰め、蠍の首に刃を振るう。

蠍がセヘルの直剣の動きに気付き、鋏でその刃を止めようとするが、もう遅い。


セヘルの刃は蠍の首を捉え、落としたのだった。

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