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NO.20 訓練

ホントに遅くなってしまい申し訳ない。

このあともう一話投稿するのでよろしくお願いします。

妖怪の人間との明確な差異とはなんだろうか。

力? 存在? はたまた数?

確かにそれは違いではあるが、それは決定的な差異たり得ない。


それは『思い』。人よりも長い年月を生きる妖怪が持つ思いは普通の人間のそれを遥かに凌駕する。


たとえばある鬼の妖怪。父親を理不尽に殺されたことで人への憎しみで振り切れ、心が壊れてしまった。

いつも敬語で話す物腰柔らかな風体なのに、平然と人を殺す。

魂を吸いとってしまうことだってある。


そんな憎しみを持ちながら、未だ大規模な行動を起こさないのは、住む館、彼の役割への執着か。

それとも、仲間への友情か。


どちらにせよ――――



蜃気楼殿の玄関の反対側、テラスの下にある裏庭。

セヘルは竹で作った人形に相対し、魔法を使用する。

「筋力増強:腕!」

おもいきり引き絞った拳は遠心力と魔法の効果によりうなりをあげて人形に直撃する。


ドォォン!


人形はそのあまりの衝撃に木っ端微塵になる。

「ふぅ……もう一度!」

セヘルは反対側の人形の腹に正拳突きをすると、この人形もバラバラになった。

「筋力増強:足!」

「やぁぁ! はっ!」

セヘルはその勢いのまま遠くにある人形へ蹴りを放つ。


バシ!


しかし、先ほどの残像すら見えないスピードはなく、遠くの人形は乾いた音をたててわずかに揺れるだけであった。

「筋力増強は一度に一ヶ所しか使用できないようですね」

聞きかじりの武術ではその道の者には遠く及ばず、魔法の効果で何とかしているという現状にセヘルは一人ごちる。

「やはり魔法でなんとかするしかないのでしょうか……」


しかし、魔法だけでなんとかできる敵ならまだしも、これではもし何らかの方法で魔法を無効化する敵が現れた場合、セヘルは無手の状況に陥ってしまう。

そんなことはできるだけ避けたい。


「魔道具、なんてどうかしら?」

上から声が聞こえたのでセヘルは声が聞こえた方へ視線を向けると、ソシエールがティーカップを片手にこちらを見下ろしていた。

「魔道具? 魔法を使うのは悪くないのですが、もし魔法が効かない相手が現れたときになにもできなくなってしまうのでは?」

「それって、体質的に魔法が効かないってこと?」

「そうかもしれませんし、魔法バリアのようなものを張ってくるかもしれません」

なにせ最高位転移魔法を使ってくるような敵だ。あらゆる可能性を考慮する必要がある。


「んー、そうなんだけどね? ちょっと思いついちゃって」

ソシエールはティーカップをそばにあったサイドテーブルに乗せると、テラスの手摺りにのっかかり、いとも容易くテラスから裏庭へ飛び降りた。

「ソシエール!?」

しかし、セヘルの心配は裏腹に、ソシエールが地面へと近づいた瞬間、ふわりと浮くと、なんの衝撃もなく着地した。

「…………これは?」

「気になる?」

「えぇ。一瞬ヒヤリとしましたからね、その慰謝料代りです」

「そんなに言わなくても教えるわよ」とソシエール。

「これは、靴に"浮遊"の魔法を刻んだのよ」

浮遊の魔法とは、空中に浮くことができる魔法だ。

便利な反面、使用魔力が大きく、長い時間飛ぶことはできない。

「この靴に細工をして、地面への接近を探知したら自動で魔法が発動するようにしたの。勿論地面に接触している時はオフにしてるわ」

と言い、彼女ははいているごく一般的なスニーカーに見える靴をセヘルに渡した。

「――? なにもないように見えますが?」

「裏面よ裏面。そこにセンサーの超小型探知魔法と浮遊の魔法陣を連結させて、それを踵に仕込んだ魔力タンクの魔力を使って発動させるの」

スニーカーの裏面を見ると、そこには紫色の石が組み込まれており、よく見ると魔法陣が彫り込まれている。

「なるほど……魔力はどのくらい持ちますか?」

「使ってるのは基本的な探知魔法だけだし、浮遊魔法も一瞬しか使わないから1ヶ月に一回魔力を込めれば使える筈よ」

「本当は?」

「嘘な訳がないでしょう。シャレでそんなこと言わないよ」

ソシエールは手を胡散臭く振ると、真剣な目つきでセヘルを見つめた。

「話が逸れちゃったわね。今見せたスニーカーみたいに魔力タンクと魔道具を繋げれば大分使い勝手がよくなるはず」

確かに、ソシエールの言っていることは的を射ている。魔力タンクという発想はセヘルには無かったものだ。

「魔道具の製造はどのくらいでできる見込みですか?」

「材料さえもらえればすぐにでも始められるわ」

「その材料はどこにありますか?」

「んーっとねー、転移」

ソシエールは両手を広げ、転移の魔法を使う。

彼女の両手から眩い光が広がり、その光が収まると、辺り一帯の地図が描かれた羊皮紙が現れた。

ソシエールは地図を見渡すと、人差し指をある地点に置いた。そこにはー

「このへん」

「これは……




洞窟、ですか」

ーぽっかりと口を開けた洞窟の印があった。

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