NO.16 早とちり
今回は戦闘シーンはございません。
畜生、あいつ、早まりやがった。
「奴」の移動という情報を得て捜索隊を出したら直ぐに発見できた。ヤマト海沿岸にいたようだ。
今の時期、つまり冬ではヤマト海は凍る。海軍を動かしておいたが、砕氷しながら進むのは大変だ。
今回やられた空軍は空軍基地から1週間程の日程だったが、残り3日の辺りで気づかれてしまった様だ。平行している陸軍に協力要請すれば良かったのものを……
幸い砕氷中だった海軍のミサイル射程内だったので援護してもらっていたが、後退した「奴」を深追いしすぎて一網打尽にされたようだ。
今俺は「奴」の討伐隊を指揮するものとして海軍旗艦に乗り込んでいる。今は俺と同じように討伐隊と同伴している指揮官やそれに準ずるものたちで作戦会議をしている、
「では、多数決を採ろうと思う。援軍を待つとよいと思うものがいれば手を挙げてくれ。わかっていると思うが今援軍の準備はなく、部隊編成から始めなければならないことを理解してくれ」
援軍部隊編成なんてしていたらいつまでかかるかわからん。撤退してまたどこかへ転移されては困る。今回は容易に発見できたが次回も上手く発見できるという保証はどこにもない。実際手を挙げている人間は少ししかいない。
ではこちらの方が現実的だろう。
「次、現在残っている幾つかの空軍部隊と陸軍で作戦を展開、海軍は援護に徹すると良いと思う者」
大多数の手が挙がる。困ったことにわがヤマト国内で派閥争いが勃発中であり、その手の者がこの挙げなかった連中の中にいたりする。政治を戦争に持ち込もうとするなど言語道断だな。
「了解した。後者の作戦で行こう」
後者で手を挙げなかった連中か睨んでくる。多数決だし、仕方ないと思ってほしいところだ。
「よし、では初期の作戦を変更し、奴らを殲滅する!」
「「おおー!」」
空軍との戦いを終え、蜃気楼殿に帰還できた。
シエセルと眷属たちが出迎えてくれた。
ソシエールは警戒中で手が離せないらしい。
「傷はどうですか?」
「幸い擦っただけですので、お力に成れず申し訳ありません」
「シエセルが無事ならば全然。もしものことがなくて良かったです」
シエセルの目に涙が溜まる。戦力的打算がないとも言えないが、やはり身近な人が居なくなるのは寂しいし悲しい。そういったことは出来る限り避けていきたい。
「「シエセル様は強いんだぞー!」」
――と、眷属たちも言っていた。
ソシエールの所に行くと、なにやら魔方陣が敷かれている。邪魔しないように、ゆっくりと入る。
――これはすごい魔法だ。
「ちょうどいいところに来たね。警戒魔法を作ってみたけどどう?」
「すごいです! 必要魔力の簡略化や警戒網の増強など、僕には到底できないです」
「お世辞はいいから。前に教わったことを纏めただけだし」
僕も伊達に200年生きていない。殆どの魔方陣なら余裕で解読できる自負はある。
「起動!」
ソシエールが叫ぶと魔方陣が光りだし、外にうっすらと青い膜ができるのが窓から見えた。
「警戒するだけでシールドにはならないけど」
「十分です、蜃気楼殿までは近づけさせません」
「――今一番近づいているのはどこですか?」
「それが、なんか停止しているみたいなのよ。作戦会議でもしてるのかな?」
今? 蜃気楼殿をせめるということは最初から戦略は練ってあったはずだ。だったらここで作戦会議なんてする必要はない。しかしそうしなかった。いや、せざるを得なかった。なにか予想外のことがあったと考えるべきだ。大方空軍だろう。あれがやられたことで作戦を練り直すはめになっているということか。
「海軍を潰しに行きます。あのミサイル援護がなければ楽になるはず」
「了解」
下手に人を連れていくとシエセルのようなことになりかねない。今回は一人で行くべきか。
「今回は――」
「「一人で行きます」とでもいうつもり?」
「はい。シエセルのようにはさせたくありませんから」
「駄目、あなたは一人でやり過ぎ。もっと頼ってくれていいのよ? シエセルも準備万端だって言ってたし、私だって準備万端よ?」
「……そうですね。ごめんなさい。シエセルと、いや。皆で闘いましょう。この脅威に」
「その調子。今回も魔法援護をするわ」
「ありがとうございます」
――そうだ。立ち向かおう。そして、やって見せよう。脅威をはね除けて見せる。




