NO.13 混乱
やっとの思いで生きのこり、軍本部へ連絡する。
「聞こえるか? こちらは第56連隊、応答願う」
「あぁ、生きていたか。こちら本部」
「何とか制圧することに成功! だが56連絡は壊滅。生き残りは私一人」
「……そうか、だがこちらもかなりの状況だ」
「どうした? 何かあったのか?」
「同時多発テロが起きた。これより我が軍にて掃討作戦を行う」
「私はどうすればいい?」
「一人ではすることはないし、作戦の直後だからな。すまんが日本支部へ帰投してくれ。此方からそこへ応援も送る」
「了解」
通信機を切り、ひとつため息をついた。同時多発テロ? 昔某西の国で起きたと言う飛行機がビルに突っ込んだあれか?
そんなものを俺達の軍で掃討できるのか些か不安だが、一応帰投するとするか。
「……も」
ん? なんか聞こえたような?
後ろを振り向くが誰もいない。
「……も!」
やっぱりなんか聞こえる!
誰かいるならちゃんと言うか無線使えよ。
「おーい? 誰かいるなら返事しろ!」
辺りに反響する。返事は帰ってきた。
「良くも! 許さない……お父さんを! 殺した! 許さない! 殺してやる!」
「お父さん? 拉致されていたのかい? 今助けるから待っていてくれ」
「お前、殺す。許さない」
――大きな邪気を孕んで。
突如として空間が歪む。そして現れたのは一人の子供だった。
しかし、彼が放つ殺気は今まで感じたことがないほどのものだ。
子供であって子供ではない? 何者だ?
「許さない。許さない。許さない。許さない。許さない」
意志疎通を図るのは無理そうだ。許さないとしか言わない。
そいつは俺に向かって走り出した。速い! 先ほどのとほぼ同じだ!
サイドステップで躱そうとするが、こちらへ方向を変えてくる。
だめだ。躱せない。後ろへ大きくジャンプし、相対する形となった。
すると奴はなにやら呟き始めた。
「闇に命ずる。彼の者を永遠の闇へと消し去る力を此処に表せ! 絶対消滅!」
奴の回りに黒い光が集まり、此方の足元に集まってきた。
それは俺の足を中心に魔方陣のような形をとる。
ズプリ、ズプリ。
気が付けば俺は徐々に足元の魔方陣に体が埋まり始めていた。
「なんだ! これ!」
「魂ごと消え去れ!」
魂ごと? つまり……死ぬじゃ許されないってことか!
どう言うことなのかは分からないが本能が全力で警鐘をならしている。
これは危ない! 早く逃げろ! と。
しかし、どれだけあがいても魔方陣から足が抜ける気配はない。
もう胸の辺りまで埋まっている。
俺は絶望し、奴は嗤う。
「あはははははははは! 死ね! 二度とこの世界に現れるな!」
首まで埋まった。埋まったところの感覚は消え失せ、本当に消えているのだと思わせる。
もうここまでか。
赤く染まる視界の中、俺は化け物を睨み、この運命を呪った。
プツリ
そして、彼は魂ごと消え去り、応援が到着した頃にはそこにはなにもなく、第56連隊は一人たりとも発見されなかった。
これでこの章は終わりです。




