キャプチャーゲーム1
真剣子の生い立ち、真剣子とチヅの出会いについて
そして、サイドメニューのアリマ大尉の話が、メインに食い込んでいく回です
主な登場人物
真剣子 — 新米クリアラー、15歳。ハズノチヅの相棒。傍若無人。男顔負けの身体能力を持っている。彼女の考えは、既存のクリアラーを度外視にするものであり、他のクリアラーと馴染めないでいる。
ハスノ チヅ — 新米クリアラー、15歳。年頃の娘らしく繊細ではあるが、優しさと芯の強い部分を内に秘めているクリアラーの見本。真剣子の唯一の理解者。
アリマ — 32歳、男性。陸軍喪失地偵察部隊第三分遣隊という、情報収集専門の特殊部隊の隊長。階級は、大尉。さきのカーズマンの大群のノースシャフト侵攻の早期発見者。
(キャプチャーゲームからの追加)
ストリチナヤの罠にかかり、カーズマンの変身薬を注射された。ストリチナヤは、彼に変身遅延薬を報酬として、大聖女カラクラの拉致を強要する。アリマ大尉が、完全にカーズマンになってしまうまでのタイムリミットは、12時間である。
キャプチャーゲーム
1
真剣子とチヅの休暇は終わり、都市部のクリアラー養成学校で勉学に勤しんでいた。
教室の生徒たちは、みな、真剣子とチヅより、年下の子たちばかりだった。教室では、女教官が、クリアラーの心得という教本に関しての持論を展開している。
クリアラーは、慎ましやかに謙虚に行動しなければならない。指揮官どのの命令を忠実にこなし、洞察をもって、軍人の方々をひき立てる気遣いを持つのが、理想である。決して自分の役割に奢ってはいけない。
教官は、そのように本の中の教えを自分なりの言葉にした。
真剣子は、口元を教科書で隠し、大あくびをした。くだらない、とつぶやき、頬杖をついた。
彼女は、学校へ入る前から戦い方の基礎を充分に習っていた。彼女にとってクリアラーの心得という本は、実際の戦闘では、なんの役にも立たないものだった。
真剣子は、中央都市の外の小さな街で生まれた。その街は、ウエストシャフトから北東へ山を一つほど越えたところにあった。そこは、兵隊が、疲れをいやす遊興の場所だった。
しかし、ウエストシャフト要塞の近くにあっても、その街が、常に守られているとは、言い難かった。街の人は、時より迷い込んでくるカーズマン相手に総出で戦う。女も子供も分け隔てなく、戦いに借り出される。
そんな場所で彼女は、高くそびえ立つウエストシャフトを見上げながら育った。
真剣子には、両親がいなかったが、親代わりの叔母がそばにいた。叔母は、引退したクリアラーだった。鍛え抜かれた体を持ち、負けん気の強い人だった。
叔母は、畑仕事の合間、まだ幼い真剣子へ知るかぎりの戦闘のイロハを叩き込んだ。仕事を手伝っている真剣子の背中へ石を投げつけたり、罠をかけたり、気を抜く暇を与えなかった。
それでも、真剣子は、叔母をひどい親だとは、思っていなかった。
街にカーズマンの襲撃があったとき、叔母は、真剣子の教育から敵へと興味をうつした。彼女は、銃火器をもち、率先してカーズマンとの戦闘をおこない、これをしとめた。叔母は、男顔負けの英雄だった。
それは、真剣子にとって、祭りのような出来事だった。カーズマンが出没した日は、訓練は、なくなるし、街の人々が、ひとつになって行動し、敵を倒せば、祝杯があがった。
そういうふうにして、真剣子は、漠然と叔母みたいなクリアラーになりたいと思うようになった。叔母が、真剣子に訓練を施したのは、この土地で生き残るためであって、彼女をクリアラーにするためではなかったが、真剣子の意思をきいて、叔母は、つらいぞといった。肯定も否定もなく、ただそれだけだった。真剣子は、叔母の訓練以上につらいものがこの世にあるのかと怖気づきそうになった。
叔母を慕う理由は、もうひとつある。
訓練は、きびしかったし、同じ歳の子と遊ぶことも許されなかったが、週に一度、テレビをみる機会を与えられていた。叔母が、中央都市で製作される兵隊ドラマを好んでいて、ともに鑑賞することが習慣だったのだ。
ドラマの内容は、カーズマンを相手にたった七人の精鋭部隊が、活躍するというものだった。幼い真剣子は、このドラマを通して、叔母と喜怒哀楽の感情をともにできた。ささいなことかもしれないが、叔母との関係をつなぐ娯楽だった。
叔母は、彼女とドラマを見終わったとき、よくいった。
「お前は、ヒノモトレンのようになれ。抜け目なく、なにごとにも動じず、戦闘になれば、トラのように強いリーダーだ」
「うん」
彼女が、好きだったのは、『ヒノモトレン』ではなく『タマキヤイチ』だった。情にもろくて、どんなにきびしい状況でも冗談をいって明るく振る舞う。しかし、ドラマの中でタマキヤイチは、活躍しないし、失敗ばかりして仲間の足を引っ張った。
真剣子は、叔母にだけは、逆らえなかった。
ある放送のあと、真剣子は、タマキヤイチのほうが好きだと打ち明けてみた。すると、叔母は、激怒した。
「あれはだめだ!あれは真っ先に死んでしまうやつだ!あれになっては、戦場では生きていけない!いいか、あれは、ドラマを面白くするだけのやつだ!お前はヒノモトレンのように知恵を働かせるんだ!わかったな?」
真剣子は、そのとき返事をしたくなくて、叔母の癇に障り、畑で寝かされ、その上、ドラマをみることを禁止された。
その翌週、テレビが壊れた。街の人が、新しいライフルを仕入れ、家までもってきてくれて、叔母が、扱いに慣れようといろいろさわっていたら、誤射してしまい、テレビに風穴があいた。
叔母は、顔を真っ赤にして、この怒りをどこへぶつけていいか迷った末、
「テレビなんぞなくったって生きていける!ヒーローはここにいるんだからな!は!は!は!」
自分を指さして、負け惜しみをいった。
ドラマの最終回が近かったが、叔母は、気軽に近所へテレビをみせてもらいにいくというようなことができない性質だった。最終回の放送時間になって、いつも覇気にあふれた叔母の落胆したところをはじめてみた。画面にひびの入ったテレビをながめている。真剣子は、そんな叔母を思い出すと、おかしくて、悲しいなんともいえない変な気持ちになった。
午後からは、野外で身体をつかった訓練をした。養成所の敷地内の高低差を利用して走り、体力をつける。
この訓練は、どんなに遅くても、七周のノルマが達成されない限り、終わらない。ノルマを達成した生徒は、最後の一人が走り終えるまで帰れず、見守ることになる。それが、体力のない生徒に大きなプレッシャーを与えるのである。
これが、真剣子とチヅを結びつけた。
真剣子は、このロードワークでは、常に先頭を走っていた。連日、最下位の子をニ週も周回遅れにするというタフさだった。並はずれた体力をもっているとはいえ、真剣子は、同級生の尊敬を得るということはなかった。むしろ、彼女の尖った言動が、近寄りがたい存在にしていた。
チヅは、最初の頃、真剣子に及ばないまでも、先頭集団で走り終えていた。しかし、次第にチヅは、順位を落としていって、いつも最後尾で走るようになった。
ある日、真剣子は、手を抜いて走った。当然、教官は、どやしたてた。
「どうやら、あの日が近くなってきたみたいです」
彼女は、そういって、教官の口ごもる反応をみたかっただけのことだった。
そんなふうに、だらだらと中間の集団といっしょに走っていた。走っている時は、誰も人の走り方など観察してはいないのだが、飽きてきたので真剣子は、周囲をよくみていた。
チヅが、妙な走り方をしていた。ペースを上げたり、下げたりを繰り返して、自分の体力の消耗を無為に速めているようだった。チヅは、その日も最後尾近くで走り終え、体力のある生徒たちの環視の中、走ることが苦手な子とおしゃべりしながら、シャワー室へむかった。真剣子が気づいてからもチヅの妙な動きは、ずっと続いた。
真剣子は、その理由を問いただそうと、チヅが、廊下を歩いている時を見はからって、声をかけた。
チヅは、真剣子に呼ばれて、かたくなって緊張した。
「おまえ、ロードワークで本気出してないだろう?」
「え…そんなことないですよ…」
「嘘をいうな。教官にいってもいいんだ」
「いいです。本気ですから」
強がってみせたが、チヅの眉が八の字になった。
「本当のところ、あたしは、告げ口が嫌いだ。なんでそんなことする?それだけ知りたい」
「…誰にもいいませんか?」
「ふん、あたしが誰かと話しをするところ、みたことあるのかよ」
冗談のつもりでいったが、チヅが予想に反してさびしげな目をしたので、真剣子はうろたえた。
チヅは、答えた。
「…たぶん、いっしょに走れば、走るの苦手な子を楽にできるかもと…」
「は?誰かにゆすられたり、たかられてるんじゃないの?」
「そんなことあるわけないじゃないですか」
真剣子の勘ぐりが、あまりに突飛なのでチヅは、笑った。その自然な表情からチヅが嘘をいってないとわかると、無性に腹が立ってきた。
「訓練をなめるな!どあほ!」
そんなことがあった後、真剣子は、走り込みでチヅを周回遅れにするたびに、肩に触れて、数を数えた。あてつけをすることに意地になっているものだから、真剣子が調子のいい時は、チヅの肩を三回触れたこともあった。
チヅは、はじめの頃は、無視していたが、気がつけば、真剣子のことを普段から注意深く観察するようになった。そして、いつの間にか、真剣子の起こすいざこざをチヅが、仲裁する立場になっていた。
それを懐かしんで走っていると、二人は教官に呼び止められた。すぐに教官室へいけということだった。
「あたし、まだなんもしてないぞ…」
「わたしもみたい…なんだろう?」
チヅも呼ばれたということで思いあたるふしがない。
教頭の中年婦人が、二人を教官室へ迎え入れた。緊迫した雰囲気が漂っていた。
「軍の方が、みえています。先日のノースシャフトの事件での聴取をおこないたいらしいです。あったことを正確に正直に話しなさい。そうすれば、何も心配することはありません」
会議室に通された。婦人は、一礼して、部屋を辞した。
そこには、アリマ大尉がいた。二人をみるなり、彼女たちのパージロッドはどこにある、ときいた。
「ノースシャフトの話をするんじゃないの?」
「悪いが、あれはデマカセだ。至急にクリアラーの力を借りたい。正規の手順を踏んでいる時間がなかった」
「それって任務ってことですか」
チヅが不安げにいう。
「そう受け取ってもらうとありがたい」
真剣子は、拳を手のひらに打ちつけた。
「いッよし!再教育ふっとんだ」
アリマ大尉は、「聴取は、長時間になるので、情報統括本部のほうでおこなう」と適当なことをいって、教頭を丸め込み、二人を外へつれていった。
武具整備所にむかい、アリマ大尉は、整備主任へ身分証をみせた。検証のために、と彼女たちのパージロッドを持ち出し、三人は車に乗った。
「どこにいくんだ?北?南?」
「都市内だ」
「都市にカーズマンがいるのか?」
「そうだ」
「どうしてそんなことに…」
「経緯はわからない。しかし、カーズマンである情報はたしかだ」
大尉は、ストリチナヤとサショウとの関係、つまり、自分がサショウを都市に放った張本人であることを明かすわけにはいかなかった。そうすれば、彼女たちは、大尉に疑念をもって、ついてこなかったであろう。
「わたしたちだけで殲滅するわけではないですよね?」
「ここで大規模な作戦をおこなうとなると市民が混乱する。私には、君たち以外に頼れるクリアラーがいなかった」
「敵は、どれくらい、いる?」
「一人だ。だが、やつは、無法地帯のカーズマンとは違う。人間の姿をしているし、理性がある。不安定だろうがな…」
真剣子は、頼られること自体、悪い気はしなかったが、がっかりした。再教育がこれで有耶無耶になると思っていたからだ。これでは、日帰りもありうる。
「人間なんですか?」
「どちらともいえる。カーズマンになりかけている人間なんだ。私の説得がききそうなら、君たちの力は無用になるかもしれない。君たちは、あくまでも備えだと思っておいてくれ」
「よくわからないな。半分カーズマンの人間が、ここでなにをしようっての。仲間でもふやすつもり?」
「それより…こんなにスピードださなくても…」
追い抜いた車が、クラクションを鳴らしてくる。チヅは、怖くなって、肩のシートベルトをぎゅっとつかんだ。
「今からいうことは、とくに内密にしておいてほしい。我々は、カラクラ様が入院している病院へむかっている。敵の目的は、カラクラ様の拉致だ。だから何としてでも我々で敵の行動を阻止するんだ」
「カラクラだって?」
二人は、大尉の途方もない話におどろいた。