バーンアウト-クリアラーたち7-
この回が、終われば、いよいよクライマックスです。
気づけば、バーサスクリアラーを上げ始めてから一か月もたってしまいました。来週中には結末まで上げきれるかと思います。
おもな登場人物
ウズメ ― 41歳、男性。ノースシャフト要塞防衛隊司令参謀長。コダカ司令に取り入り、自らの地位を引き上げようと画策している。クリアラーは、小娘の形を成した兵器でしかない、という冷酷な視点を持っている。
(バーンアウトからの追加)
ノースシャフト事件の戦功から大佐から少将へ昇進。(列島側に准将の階級は、存在しない)そして、中央防衛管理総長という列島にある南北西、三つのシャフトを守護する防衛隊の連携を円滑にする役職につく。
現在、カーズマンの猛攻にさらされているサウスシャフト要塞防衛隊の指揮に対して助言を与えている。
スミヤ - 29歳、女性。シャフト関係の技術士官。大聖女・カラクラを管理する立場でもある。
オリン - 9歳の女の子。カラクラのたった一人の家族。クリアラーの訓練生。
(バーンアウトからの追加)
カラクラが行方不明だった間、スミヤによって、サウスシャフトを動かすように仕向けられた。そうして起動したのは、いいが、サウスシャフトを暴走させてしまった。
カラクラ - 17歳、女性。カーズマンに対して、絶大な力をもつシャフトを動かせる、稀有な存在。民衆からは大聖女と呼ばれ、すべてのクリアラーの羨望の的。しかし、カラクラは、自身を平凡なものと感じており、大聖女という大げさな呼ばれ方を受け入れられないでいる。
真剣子 — 新米クリアラー、15歳。傍若無人。男顔負けの身体能力を持っている。彼女の考えは、既存のクリアラーを度外視にするものであり、他のクリアラーと馴染めないでいる。
(アンドザショウダウンからの追加)
カラクラ拉致事件の成り行きから、彼女の護衛役のようになる。
そして、ピクシーにより、自身がシャフトを動かす資質があることを知り、いとも簡単に動かしてみせた。
キザキ ― 16歳、女性。ノースシャフトの先遣大隊のクリアラーだったが、サウスシャフト要塞防衛隊に編成された。カラクラを尊敬している。真剣子とは、犬猿の仲。
7
伝令将校は、カラクラが司令部への同行を拒否し、負傷者応急処置テントに立てこもったと、ウズメへ連絡を入れた。
ウズメは、副官からその通信を伝えられ、渋い顔をした。
司令部の参謀たちにも、その報が伝わり、彼らは動揺を隠せなかった。要塞防衛隊の最大の戦力が、司令部のいうことをきかないのである。
参謀らは、カラクラに対して疑問しかなかったが、ウズメは、そうではなかった。
ラマニノフに売ったはずのカラクラが、戻ってきて、司令部の命令を受けつけないとなると、その主な原因は、自分にあると思うほかない。
ウズメは、謀略を仕掛けていた。
カラクラの健康状態をラマニノフへ知らせること、カラクラの警備情報、ならびに憲兵隊警備部へ誤情報を流して、警備状態を麻痺させること。このように大陸側にカラクラを拉致させる有利な状況をつくった。
そうやって、ハツシバ派からカラクラを失わせ、権力失墜をうながし、ウズメは、カラクラを奪わせる手助けをした見返りに、大陸側の新兵器と潤沢な物資の供与をうけ、自らの権力を増大させ、中央都市の軍事、および、執政を掌握するつもりだった。
しかし、彼にとって、想定外の出来事が、いくつも起こった。
ノースシャフトの事件から、たったひと月ほどで、再びカーズマンの猛攻を受けるとは、思ってなかった。それに、カラクラを大陸へ追いやった矢先、新しくシャフトを起動できるクリアラー【オリン】を発見されてしまうことなどは、予想だにしなかった。けれども、それは、サウスシャフトの暴走によって、失敗に終わった。これが、カーズマンの猛攻のきっかけとなっている気はあるけれど、それはいい。
(もしオリンにカーズマンの殲滅に成功されでもすれば、ハツシバの声望は、維持され、せっかくの謀略が水の泡だった)
このサウスシャフト要塞の防衛戦は、先のノースシャフトでの攻勢とは、性質が画するものであるから、カラクラなしでもやっていける。ウズメには、その自信があった。結局のところ、この戦いで死に絶えるのは、彼ではなく、多くの兵士やクリアラーたちなのである。これを守りきれれば、彼の派閥の勢力は、なにものも抑止することはできないだろう。列島側の権力をほしいままにできるのだ。
だが、カラクラが帰ってきて、栄達の行き先は、わからなくなった。しかも、そのカラクラが、司令部、つまり、自分の命令を無視して、連隊の将兵とクリアラーを味方につけているという。カラクラを踏み台にして利用したつもりが、気づくと首を絞められている。まさか、自分と大陸側のつながりを知って、糾弾しようしているのではないか。そのような疑心暗鬼に囚われつつあった。
「要塞北側衛兵を総動員だ」
ウズメは、吸殻をガラス皿へねじり入れた。
「管理総長殿…それはあまりに大袈裟ではありませんか。カラクラ様が、すこしの間、兵を慰労するくらいは…」
参謀の一人がいう。
「休息をとっている場合かね。センサーは、カーズマンを捉えはじめている。我々は、早急にシャフトを管理せねばならんのだ。これでは防衛隊の統制がとれない。カラクラぎみが、どのような考えであろうと敵はここへやってくるぞ」
ウズメの意見は、常に正論であった。参謀たちは、反論できない。
「抵抗するものは、実力で排除。衛兵隊長にそう伝えよ」
ウズメは、自分の副官へいった。司令は、ウズメを黙認した。
無線で命令をうけ、伝令将校は、連隊の指揮官テントへ戻った。
「要塞衛兵が、こちらへむかっている。この命令が、受け入れられないのであるなら、実力行使してカラクラ様を要塞へ招くことになる。貴官らの部下を射殺するようなまねはしたくない」
四人の中隊長は、それに対し困惑した。
第二中隊長は、いった。
「この非常時にそんなことをすれば、士気が下がるどころか、造反が起きますよ。私たちの隊は、さきほどカラクラ様に救われたのです。この戦況は、カラクラ様が兵たちの精神的主柱となって、かろうじて支えられているといっていい。しばし、彼らの気を静める時間をくださってよいではないですか」
「馬鹿者が!その精神的主柱をさらなる戦闘に活かすのが司令部の役目なのだ!カラクラ様は、兵の慰みものではない!貴官らは黙って命令に従って、無益ないざこざを解消するに努めよ!命令不服従で拘束するぞ!」
管理総長の笠に着て居丈高に振る舞う伝令将校。
第四中隊長は、我慢ならなくなって、机へ拳を振り下ろした。
「俺たちは、司令部のために戦っているわけではない!部下が!自身が!みなが生き残れるように戦っているんだ!あんたたち上は、どれだけ兵がやられ、傷ついても、ただ戦えというだけだったではないか!それに飽きたらず、我々を罪人とするか!」
彼の隊は、さきほどの戦闘で三十名あまりの死傷者を出していた。
隊の指揮官たちと伝令将校一行は、にらみ合いを続けた。
カラクラたちは、負傷者応急処置テントに陣取って話を再開する。
周囲の兵たちもカラクラの一味に加わって、テントを守りはじめた。さきほどまで陰鬱な表情をしていた怪我人らが、カラクラの姿を一目見ると気分を高揚させた。
真剣子は、またしても、その中で浮いた気持ちを味わったが。
「ヘリを飛ばせる人はいますか!わたしをサウスシャフトへつれていってください!すべての責任はわたしがもちます!どうかお願いします!」
軽症の兵、数人が、中隊の斥候用のヘリの操縦士に話をつけてくれるらしい。
「カラクラ様…これを」
そばかすのクリアラーが、パージロッドを差し出した。チューブは、腕から取り外されている。
「山の向こう側は、たくさんのカーズマンが潜んでいます。必要になります」
「敵の動き、まだ油断はなりませんよ」
「いえ、あの、さっきの戦闘で血を失くしたクリアラーの子のものです。彼女はもう戦えませんので…」
クリアラーが、ベッドで輸血をしていた。首をあげて、カラクラに微笑んでいる。彼女は、顔が真っ青だった。
カラクラは、その子のもとへいって、心を込め、ぐっと手を握った。
クリアラーたちが、こぞって、カラクラについていこうと志願したが、カラクラは決して首を立てには、振らなかった。
「皆様の心づかい、とても感謝しています。けれど、これ以上の迷惑はかけられません。それに皆様には兵隊さんたちを守る使命があるでしょう?」
真剣子は、そんなカラクラとクリアラーたちをみていて、焦った。
「あたしにも!ロッド貸してくれ!」
しかし、誰も取りあってくれない。
―こんな状況でもハブかよ!
「真剣子、いいのよ。あなたには充分、お世話になったから」
「頭なんか下げんな!あたしは、おまえのそういうところが、っと我慢ならないんだ!遠慮ばっかしやがって!」
真剣子は、カラクラへの言動からクリアラーの蔑視を浴びた。
「カラクラを守って運んできたのは、あたしだぞ!」
聞く耳をもたないクリアラーたち。真剣子は、テントの中を回る。
「誰でもいい!ロッド!」
「うるさいわ!野獣!」
キザキが、ベッドに横になったまま、真剣子へ悪態をついた。キザキも合体広域放射で血を失いすぎて、輸血をおこなっていた。(ウズメが発した輸血禁止命令は、撤廃されていないが、クリアラー専属医療班は、カラクラの登場に安心して、指示を待たず、処置をほどこした)
「今、おまえにかまってる暇はない!」
カラクラが、兵に案内されてテントを出ていく。真剣子は、それにつきしたがうクリアラーたちの背をみて、くやしくて唇をかみしめた。
「きけ。ロッドを貸す」
キザキが、いった。
「なに?」
真剣子は、キザキにからかわれているのかと疑った。
キザキは、ベッドに立てかけてあるロッドをとって真剣子へむけた。
真剣子は、無遠慮にロッドをつかむが、キザキは、それを離さない。
「わたしは、心底、あんたが嫌い」
「あたしだって、お前なんか嫌いだ」
「…ほんとは、わたしが、カラクラ様についていきたかったけど、この通りだからね」
「遺言かよ」
「茶化すな。ノースシャフトの事件であんたがやったこと、チヅからきいた。きっと、この中にいる誰より、あんたには、度胸がある」
「だから、どうした?」
「期待を裏切ったら、承知しない」
キザキが、ロッドを放すと、真剣子は、赤ん坊のように両腕で大事に抱えた。
「期待なんかされなくったって、あたしは、いつも最高なんだ」
「さっきまで血相変えたくせに。ロッド貸してくれ~だって」
「うっせえ!はやくよくなれよ!減らず口!」
「あんたにだけは、いわれたくないわ…」
真剣子は、テントを出た。こみあげるものを懸命におさえ、顔をみられないように伏せる。手の甲で目をこすった。
―キザキのやつ、くだらないことばっかいってさ…くだらないこと…
カラクラの見送りの兵をかき分け、ヘリの元へ駆けた。




