バーンアウト-クリアラーたち6-
当初は全二十回と銘打っていたのですが、どうやら刻み過ぎたようで三十回くらいになりそうです。
でもまあ誰も読んでなさそうなのでいいかなと笑
おもな登場人物
カラクラ - 17歳、女性。カーズマンに対して、絶大な力をもつシャフトを動かせる、稀有な存在。民衆からは大聖女と呼ばれ、すべてのクリアラーの羨望の的。しかし、カラクラは、自身を平凡なものと感じており、大聖女という大げさな呼ばれ方を受け入れられないでいる。
真剣子 — 新米クリアラー、15歳。ハズノチヅの相棒傍若無人。男顔負けの身体能力を持っている。彼女の考えは、既存のクリアラーを度外視にするものであり、他のクリアラーと馴染めないでいる。
(アンドザショウダウンからの追加)
カラクラ拉致事件の成り行きから、彼女の護衛役のようになる。
そして、ピクシーにより、自身がシャフトを動かす資質があることを知り、いとも簡単に動かしてみせた。
ピクシー - シャフトの案内人。シャフトの操縦をナビゲートする。外見は、20センチほどの小人で、幽霊に近い存在。
スミヤ - 29歳、女性。シャフト関係の技術士官。大聖女・カラクラを管理する立場でもある。
オリン - 9歳の女の子。カラクラのたった一人の家族。クリアラーの訓練生。
ウズメ ― 41歳、男性。ノースシャフト要塞防衛隊司令参謀長。コダカ司令に取り入り、自らの地位を引き上げようと画策している。クリアラーは、小娘の形を成した兵器でしかない、という冷酷な視点を持っている。
(バーンアウトからの追加)
ノースシャフト事件の戦功から大佐から少将へ昇進。(列島側に准将の階級は、存在しない)そして、中央防衛管理総長という列島にある南北西、三つのシャフトを守護する防衛隊の連携を円滑にする役職につく。
現在、カーズマンの猛攻にさらされているサウスシャフト要塞防衛隊の指揮に対して助言を与えている。
6
ノースシャフトは、連隊陣営の西側へ着陸した。うつ伏せに寝ているような形になっている。脇腹に出口が開き、二人は外へ出た。
要塞のスタンド照明が、ノースシャフトへむけられた。
連隊の方から重装甲車が一台、そこへむかってきている。様子をみてこいというサウスシャフト防衛隊司令部の命令だった。
カラクラは、目を細め、サウスシャフト要塞を見やった。要塞建物の頭上には、シャフトがない。きれいな星ばかりがある。
「サウスシャフトなくなってる…」
真剣子を無視して、走り出すカラクラ。
二人は、重装甲車に発見され、陣営で保護された。
テントに集まった連隊の将校たちは、カラクラを前にしてひどく緊張した。列島では、知らないものはいないクリアラーの最上位で、今まさに自分たちの危機を一瞬にして救ってくれた人だ。
カラクラは、サウスシャフトがどこへいったのかきいた。
第一中隊長は、固い面持ちで考えた。彼は、カラクラの質問の意味がわからなかった。
「失礼ですが…カラクラ様が乗ってきた、あれがサウスではないのでしょうか」
「あれは、サウスシャフトじゃない。あたしたちは中央からきた」
真剣子が、いった。
「質問を変えましょう。スミヤ技官はどこです?」
「シャフトの技術士官のことは、私どもでは…よろしければ、要塞司令部へお送りします」
申し訳なさそうにいう第一中隊長。
カラクラが思案にくれていると、十人のクリアラーが、テントへ押し入ってきた。
年長の軍曹が、彼女たちを叱ったが、おかまいなしにカラクラを取りまく。彼女たちは、感激のあまり目に涙をうかべ、ひたすらカラクラの名を呼んだ。
「皆様、落ち着いてください。スミヤ技官は、要塞ですか?」
顔を見合せるクリアラーたち。
「わたしたちは、カラクラ様といっしょだと思っていましたけれど…」
そばかすのあるクリアラーがいった。
カラクラは、考えをまとめた。
防衛隊司令部は、クリアラーや兵たちに嘘をついたようだ。つまり、サウスシャフトを動かしたのは、オリンではなく、カラクラということにしていた。カラクラの行方不明によって、兵の戦意がそがれる可能性を考慮したためであろう。
ぞくぞくとクリアラーが集まってくる。彼女たちは、持ち場での待機命令を無視していた。
「わたしが乗ってきたのは、サウスシャフトではありません。ノースシャフトです。わけあって救援に駆けつけるのが、遅くなってしまいました」
頭を下げるカラクラ。
「「「カラクラ様!」」」
クリアラー一同が、感極まって一斉に声をあげた。
真剣子は、取り巻きの脇に外れ、頭をかいた。
―苦手なんだよなあ。こういうの…
「わたしは、サウスシャフトがどうなったのか、知りません。だれか話していただけませんか」
カラクラの話をうまく呑みこめない子が大半だったが、そばかすのクリアラーが、冷静に話した。
「サウスシャフトは、今朝に起動した際、暴走して…」
「暴走ですか?」
「はい。今は、山岳地帯を越えた廃墟で停止しているらしいです…そのあと、カーズマンの攻撃がひどくなって…要塞は、ずっとこのままの状態です」
―山のむこう、そこにオリンがいる
「ありがとう。わたしは、サウスシャフトのところへいきます」
「お供します!」
集まったクリアラーが、次々といった。
「あなたたちは、持ち場に戻りなさい」
カラクラは、怒ったようにクリアラーたちを制した。
「軍の人が不安がります」
みなが戸惑った隙に陣地をでて、ノースシャフトへ急いだ。
真剣子があわてて、追ってくる。
しかし、カラクラは、数百メートル先のノースシャフトをのぞんで立ち止まった。サーチライトを焚いた二機のヘリが、ノースの上を旋回していた。何台もの装甲車でかこって、ワイヤーをかけ、地に縛りつける作業までしている。
「あいつら、なにやってんだ?」
「たぶん、わたしをここから動かさないようにするためよ。引き続き、要塞を守らせるつもりなのね」
「あほだ。外から動かせるんだろう?」
「そうだけど…ピクシー?」
『なんだーい』
「あのヘリや車を傷つけずにシャフトをここに呼ぶこと、できる?」
「あっ」
真剣子は、カラクラの察しに感心した。
『そんなことできないよー!あれは、ビッグなおもちゃなんだよー!』
「おまえみたいにシャフトを透明にして、すり抜けさせるとかさあ」
真剣子は、冗談ではなく、真顔でいった。
『真剣子はおバカさんだねー!できないものはできないもんねー!原人なんてぶっこわしちゃえばいいんだ!はは!あははは!』
「だめ。あれは味方なのよ」
顔を膨らまして、はしゃぐピクシーを真剣子は、「だれが馬鹿だ!」といって、捕まえようとする。
「あれをどけてもらうように司令にたのむか?」
車が要塞の方から連隊陣営へ走っているのが、みえた。
「どうかな…嫌な予感がする…」
カラクラたちは、中隊のテントへ戻った。懲りずにクリアラーたちが、カラクラの元へと集まる。
ノースシャフトに乗って、山岳地帯を越えることができなくなったので、移動手段を中隊長たちに相談した。
「カラクラ様…一度、司令部へお越しいただくようにとの命令がきております…さきほど、ウズメ中央管理総長閣下殿、直々の通信がありまして」
ウズメという名を聞いて、真剣子は、はじかれるように大声をあげた。
「そいつのいうことは、聞くんじゃない!」
カラクラは、興奮する真剣子を抑えた。
「わたしは一刻もはやく、サウスシャフトを要塞へ帰すことが先決だと思っています。それには、わたしが直接、サウスシャフトにいって動かすしかありません」
「…しかし、小官は、そのような重要な判断をする立場には…」
「御免!」
一人の将校が、衛兵を引き連れてテントへ入ってきた。
「司令部の命の元、カラクラ様をお迎えにあがった」
伝令将校は、にらみをきかせて、その場の人々を威圧した。
「カラクラ様、お車を用意しております。我々が、要塞へご一緒させていただきます」
「いやです…参りません」
カラクラは、将校へきっぱりと返し、テントから出ていった。
そこのいる三十人以上のクリアラーが、カラクラを中心にスクラムを組んだ。伝令将校と衛兵は、クリアラーたちの醸し出す異様な熱気に気圧された。




