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バーサスクリアラー  作者: FT
19/24

バーンアウト-クリアラーたち5-

前回は、サウスシャフトの戦場を司令部の話し合いによって俯瞰で見た様子を描きましたが、今回は、現場の様子を描いています。



おもな登場人物



キザキ ― 16歳、女性。ノースシャフトの先遣大隊のクリアラーだったが、サウスシャフト要塞防衛隊に編成された。カラクラを尊敬している。真剣子とは、犬猿の仲。


カラクラ - 17歳、女性。カーズマンに対して、絶大な力をもつシャフトを動かせる、稀有な存在。民衆からは大聖女と呼ばれ、すべてのクリアラーの羨望の的。しかし、カラクラは、自身を平凡なものと感じており、大聖女という大げさな呼ばれ方を受け入れられないでいる。


真剣子しんけんこ — 新米クリアラー、15歳。傍若無人。男顔負けの身体能力を持っている。彼女の考えは、既存のクリアラーを度外視にするものであり、他のクリアラーと馴染めないでいる。

(アンドザショウダウンからの追加)

カラクラ拉致事件の成り行きから、彼女の護衛役のようになる。

そして、ピクシーにより、自身がシャフトを動かす資質があることを知り、いとも簡単に動かしてみせた。





 5




 要塞から南へ二百メートルのところに連隊がある。


 各中隊は、遮蔽板と鉄パイプを組んだ防壁の内側で、要塞のセンサー監視管制のカーズマンの襲来の伝達を待っている。


 兵隊たちは、この張りつめた状況に皆、疲れ切っていた。小銃を抱えて、仲間と話す気力もない。誰もが敵襲を恐れていた。


 日中に亡くなった兵の死体袋をあつめた場所が、悪臭を放ちはじめている。この防衛陣を築くために犠牲になったものたちだった。死体は、要塞内部へ収容するはずなのだが、その作業をする人手が足りていない。


 配ぜん係が、陣の後方で煮炊きした粥をもって、兵たちに配っている。


「飯だ」


 配ぜん係は、若い兵に声をかけた。


「いらねえよ」


「しっかり食え。動けないぞ。クリアラーなんて、犬のようにがっついてたぜ」


 兵は、防壁の骨組みにもたれ、顔を上げもしない。


「俺たちよりいいもん食わせてもらってるからかね。聖女様つっても、あの歳だ。可愛いもんだよな」


「…どうなる」


 配ぜん係は、粥をおいて耳を傾けた。


「シャフトがきえちまったんだぞ!」


 若い兵は、粥の入った椀を蹴った。


「こんなもん食ってどうなる!どうせ、みんな死んじまうんだよ!」


 配ぜん係が、怒ってつかみかかろうとするところをそばにいた下士官が、割り込んだ。


「次、泣き言抜かしてみろ。この手で死なせてやる」


 下士官は、若い兵の胸倉をつかんで、静かにそういってから、椀をひろわせた。


「すまんが、こいつにもう一杯やってくれ」


 配ぜん係は、また粥をよそってきた。下士官は、若い兵がそれを食べ終わるまでそばにいた。



 四輪駆動車で待機していたクリアラー・キザキは、その一部始終を見ていた。


―もしかして、わたしたちより兵隊さんたちのほうが、まいっているのかも…


 要塞の警報器が、鳴り出した。


 防衛陣には、スピーカーがあった。要塞のセンサー監視員の声を伝える。


「「十時方向にて、敵集団が接近、およそ五十、各隊は、砲撃準備に入れ」」


 兵隊らは、昼間より敵数が十ほど増えていることに騒然とした。


 隊長クラスの士官たちが、急いで砲兵へ指示を出す。


 センサー情報でおおよその位置を特定し、榴弾砲の方角が調整し、発射した。要塞の方も砲撃があがる。各隊は、カーズマンの足を止めるため、撃ちまくった。


「「敵先頭、七キロ地点を直進中」」


 要塞のセンサー監視員が、敵と隊の距離を報せる。


 砲の命中率は、かんばしくない。やがて迫撃砲の射程に敵が入ってくる。それでやっと十体ほど行動不能にしたというところだった。


 連隊の内の左翼の中隊、そこの中隊長が、白兵殲滅を命令する。先発隊を出して、砲が、撃ちもらした敵に近接戦をしかけるのだ。


 まず兵の輸送車が、先行する。五台の車両は、傘型陣形を組んでいる。車の上からの射撃をするとき、味方が射線上に被らないようにするためである。その後ろには、クリアラー二人乗せた車が二台つく。数が数だけに敵の散開の範囲が広いので、二つのペアを出した。


 地面には、昼間に仕留めたカーズマンの死骸が、散乱していた。兵の輸送車は、陣形を崩せないので、よけずに轢いていく。


 迫撃砲が止み、射撃を開始する兵士たち。カーズマンの黒々とした姿が、車のライトに照らされて浮かび上がってくる。むこうは、胴体を多少、撃ち抜かれても倒れない。重機関銃やグレネードを使っているものもいるけれど、命中させることは、至難の業だ。


《クリアラー!広域放射、準備!位置につけ!》


 先発隊の隊長が、指揮車の拡声器でいった。


 クリアラーの四駆が、輸送車の隙間を通り抜け、前方へ出る。


 キザキとその相棒は、荷台に立ち上がり、合体させたロッドをかざす。外装開閉トリガーにかかった指が、震えていた。


「うまくいく。そういって」


「うまくいく…うまくいくよ」


「そうよ。絶対」


 励ましあい、隊長の指示を待つ。隊長は、できるだけ多くのカーズマンをロッドで殲滅できるように、車載センサーモニターをみて、合体広域放射のタイミングを計っていた。


 彼女たちと同乗した兵たちが、射撃をした。


 カーズマンの姿形が、はっきりと見て取れるところまで近づいてくる。


《広域放射!てぇー!》


 ようやく命令が、下った。


 二人は、トリガーにかかった指に力を入れる。外装が開かれ、ロッド内部のレンズの連なりがあらわになって、まばゆい光を放った。


 カーズマンたちが、ぼっと燃えさかって飛び上り、次々と倒れていく。


 右に百メートル離れた、もう一つのクリアラーのペアも同様に合体広域放射をおこなっている。


 三十秒ほど光を放射しつづけて、カーズマンをほぼ沈黙させた。あたりは、火の上がったカーズマンが地に伏し、点在していた。夜なので、そこかしこにたき火を起こしているような光景だ。


 しかし、休む間もなく、指揮車の無線が、悲鳴をあげた。


『敵集団、さらに発生!十二時方向!数、およそ四十!』


 キザキと相棒は、身体を支えあって、腰を下ろした。めまいがして、立っていられなかった。


《さっさと消耗したクリアラーをさがらせろ!》


 先発隊の隊長が、拡声器を通して、怒号する。


 そこを黒い影が二つ、クリアラーの車を追ってくる。そのカーズマンは、身体の一部に火を帯びていた。合体広域放射で燃やし切れていなかったカーズマンがいたようで、それが、兵の輸送車の一団へ迫っていった。しかも、四十の新手が、まもなくやってくる。


 先発隊隊長は、判断に迷った。逃げるか?こいつらを始末するか?


 兵たちは、恐怖のあまり、やたらめったら銃を撃った。


『先発隊!帰営せよ!そこにとどまっていると砲が使えない!急げ!』


 再び、中隊陣営から無線がある。要塞の榴弾砲は、すでに火を噴いていた。射程でいえば、先発隊のいる位置は、迫撃砲の被害にさらされる場所だ。


《全車両、陣へ下がれ!後退だ!》


 クリアラーの車は、逃げ切れたが、その壁になった輸送車に、カーズマンが取りついてしまった。兵士たちは、混乱して、車が動きはじめているにも関わらず、飛び降りるものもいる。


 カーズマンは、射撃を受けながら、荷台の兵士を襲った。そこの兵士たちは、ライフルの狙いが、定まらず、味方を誤って撃ってしまった。


 クリアラーたちは、さきほどの広域放射で血を失いすぎて、惨状を見届けるしかない。


 キザキは、夜空を見上げた。満天の星々があった。


―こんなんじゃ朝まで持ちっこないよ…


 そのとき、空気を、風を切り裂く、ゴオという音がして、銃声をかき消した。


 音の主の尖った翼のため、星空がさえぎられ、みえなくなった。


 両翼の先端が、開かれると、青白い光の塊が、出現し、地上の夜を晴らしていく。


 カーズマンが、兵を食い捨て、ライフルの弾をよけながら、中隊陣営へむかっていたが、降りそそぐ光に当てられて、肉体を四散させた。


 さらに迫りくる四十のカーズマンの集団も同じように弾け飛んで灰になった。


 そして、ノースシャフトは、短足を折り曲げ、ゆっくり着地した。


 ノースシャフトの操縦室には、カラクラと真剣子がいた。


 カラクラが、操作盤から身を離した。座って休み、額の汗をぬぐった。表情が、苦痛でゆがんでいる。


 手を貸そうとする真剣子にカラクラは、いった。


「自分で立てる」





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