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バーサスクリアラー  作者: FT
16/24

アンドザショウダウン4



おもな登場人物



カラクラ - 17歳、女性。カーズマンに対して、絶大な力をもつシャフトを動かせる、稀有な存在。民衆からは大聖女と呼ばれ、すべてのクリアラーの羨望の的。しかし、カラクラは、自身を平凡なものと感じており、大聖女という大げさな呼ばれ方を受け入れられないでいる。


真剣子しんけんこ — 新米クリアラー、15歳。ハズノチヅの相棒バディ傍若無人。男顔負けの身体能力を持っている。彼女の考えは、既存のクリアラーを度外視にするものであり、他のクリアラーと馴染めないでいる。


ピクシー - シャフトの案内人。シャフトの操縦をナビゲートする。外見は、20センチほどの小人で、幽霊に近い存在。


ストリチナヤ — 46歳、男性。大陸側の密輸業者。各国のカーズマンの死体を収集し、大陸側の研究施設に卸している。アリマ大尉も、その中の取引相手である。

(キャプチャーゲームからの追加)

 カラクラ拉致の企画立案者。それを自らの手を汚さず、偵察部第三分遣隊に実行させる。そして、アリマ大尉とサショウの争いから漁夫の利を得、カラクラをさらうことに成功し、さらに用済みとなった第三分遣隊を排除した。道化装う食わせ者。






4




 ストリチナヤの船が、海を出て、二日経った。船は、いまだ海上にあるが、列島側領海内からは脱出し、ストリチナヤを含む乗組員たちは、カラクラの拉致が成功したと安心していた。


 船室のベッドでは、真剣子が、腕立て伏せをしている。


「…なにかにつかまって」


 隣のベッドのカラクラが、身を起こしていった。


「トレーニングの邪魔すんな。おまえ、うんとか、ええとかしか、いわねえし退屈だ」


 カラクラは、真剣子の二の腕をとった。船室全体がぐらりと傾く。


『きたねきたね』



 空から大きな白い塊が降ってくる。タンカーの二時の方向の海面を水柱が噴き上げた。タンカーは、それに起こされた波によってぐらついて、進路が反れた。


 ブリッジにいたストリチナヤは、船員にほえたて、なにが起こったのか報告させようとしたが、大波の揺れによって誰もかれもが身を支えるので、精一杯だ。


 ブリッジの窓のむこう、突然出現したものは、大きすぎて全体像がつかめない。船員からみれば、日の光をさえぎる巨大な影でしかなかった。


 影は、三角の両翼を腕のようにのばした。先端の細長い手が、船底を持ち上げる。タンカーのスクリューが、宙を掻いた。これでは逃げようがない。


 カラクラたちの船室では、ピクシーが、興奮して跳びはねている。


「ピクシー、あっちへいきたい」


『お船、ほじほじしちゃいなよー』


「真剣子、シャワーのところへいって!」


 カラクラは、ピクシーの言葉を感覚で読み取った。


「なにした!」


 うろたえる真剣子。この船室には窓がないので、外の様子がわからない。


「シャフトを呼んだのよ」


「うそだろ…」


 二人ともバスタブの内に身をひそめると、ものすごい音がして、扉側の壁が抜けた。


 外では、ノースシャフトの指先が、船体の側面をほじくっている。


 カラクラと真剣子は、部屋の外に出て、へしゃげた廊下を歩いた。


「事前に相談しとけってんだ!」


「呼ぶのに集中してて、そんな時間なかった!」


 船員は、彼女たちを見過ごした。廊下の手すりにつかまり、怯えきっている。


 甲板へあがると、海のど真ん中で、絶壁がそびえ立ってみえた。


「わーおぅ…」


 真剣子は、壮大なノースシャフトの影に圧倒された。


「はしって!はやく!」


 カラクラが、真剣子の背を押す。


「あ!パージロッド取り返さなきゃ!」


「そんなもの!」


「ロッドは、クリアラーの半身っていったろ!」


 ストリチナヤもブリッジから甲板へ降りてきていた。甲板の中ほどにヘリがあるので、それで逃げる算段だった。


 ストリチナヤの武装した部下が、三人、カラクラたちをみつけて追ってくる。


 手下が、威嚇発砲してきた。彼女たちは、かがんで足を止めた。


「カラクラ様!どこへ!」


「わたしは、うちへ帰ります」


「では、この巨大な機械は…」


「シャフトだ。間抜け」


 真剣子が、意地悪く口をはさむ。


「シャフトですと?これが?」


 ストリチナヤは、大陸の円柱状のシャフトを目にしたことはあったが、人型のように変形したものなどは、みたことがなかった。これだけの大きさを持ちながら、船のレーダーに反応せず、船員たちは水柱が上がるまで、存在に気づきもしなかった。挙句、この海域は水深が二百メートルはある。推進器を内蔵しているようでもない。そんなデカブツが、バランスを保って海面に立っている。


 ストリチナヤは、自分の想像をはるかに超えた力の現れに感嘆の声をもらした。


「…なんと…うつくしい…」


「ロッド返せ。おっさん」


「いやはや…カラクラ様、ここは危険ですので、ヘリへご同行願います」


 ストリチナヤが、指でしめすと、手下は、真剣子のそばの床を撃った。


「お嬢さんもカラクラ様をいさめてくださいまし」


―こいつら、あたしをダシにカラクラをおどすつもりだな


 真剣子は、殺気立った。


 その間、大勢の乗組員たちが、ブリッジの建物から出てきた。なにしろ四方は海上なので、シャフトから逃げるには空しかない。


 ストリチナヤの直近の手下が、ヘリを守ろうと、乗組員たちをライフルで乱射し、威嚇した。乗組員もだまってはいない。武器を手に取り、ヘリを奪おうとして、銃撃戦になっている。


「やめなさい!」


 争いを見かねてカラクラが叫ぶと、シャフトの空いている方の手が、海を打ちつけた。水柱が上がり、飛沫が、雨のように甲板へ降りそそぐ。


 甲板にいた一同が、巨躯の動作をおそれ、銃撃がやんだ。落ちてきた海水のせいで視界が悪くなり、ストリチナヤのそばの手下、三人もおたおたしている。


 真剣子は、その隙をついて、落ちていたデッキブラシを足ですくってとった。流れるような動きで、そのままブラシを手下のはなっ面へ叩き込む。


 ひるんだ手下のライフルを奪い、後の二人を撃ち倒す。


 海水の飛沫が晴れ、殴った手下に銃を突きつけた。


「クリアラーだって一応兵士なんだよ!あたしの場合、一流ってつくけどな!」


「いくわよ!」


 急き立てるカラクラ。


「カラクラ様!いまさら、列島側へ帰ったとして、あなた様の居場所はどこにもありませんぞ!」


 彼女が、駆け出そうとするところをストリチナヤがいった。カラクラは、表情をこわばらせ、振り向いた。


「あなた様は、大陸側に売られたのです。我々が、あなたをうまく運べるようウズメという将官が手配していた。武器や新たな技術と引き換えに。あなた様は、大陸側で新たな人生を送られるべきなのです。きっと大陸でも珍重されましょうな」


―ウズメ?ノースシャフトの参謀長?


「あることないこと吹くな!」


 真剣子は、手下を銃床で叩き伏せ、ストリチナヤへ銃を構えた。再び、あたりで銃声が、鳴りはじめた。


 ヘリは、回転翼を動かし、ストリチナヤを待っている。


「真剣子!ほうっておきなさい!」


 ストリチナヤは、ヘリへ飛び込んだ。ほとんど同時にヘリは、甲板から離れた。


「カラクラの上を飛べ!」


 ストリチナヤは、操縦士に命令して、ヘリに積んであるワイヤレススタンガンを用意する。


―逃さんぞ。逃がさんぞ。カラクラを大陸へ送り届けられなければ、地の果てまでいこうが、ラマニノフの報復を受けることになる。想像もしたくない!こいつでカラクラを撃って、あのシャフトを無力化できるか?


 真剣子は、ライフルを連射した。二発、ヘリのボディをつらぬいて、弾切れになった。


「くっそ」


 銃を放り捨てた。


「おっさん、忘れもんだ!」


 パージロッドを取りかえすことをあきらめて、胸の谷間を探る。アリマ大尉の残した手榴弾である。


「大尉の落とし前!もってけ!」


 ピンを抜き、ヘリの中へ投げ込んだ。すぐさま、反転してカラクラとできるだけ遠くへ走る。


 手榴弾は、ヘリの座席にぶつかって転がった。床のそれにストリチナヤは、絶句する。


―なにか忘れていると思ったら!これか!ジーザス!ピザサンド!


 爆弾が炸裂し、ヘリは煙を上げながら、ふらふらと回転して、海へと落ちていった。



 ノースシャフトの左手が、船をシャフトの胴体によせた。シャフトの胴体が開いて、彼女たちは、そちらに移った。そして、シャフト内部のスロープの先の透明な操縦室へいきついた。


 広い空間の真ん中にある黒い操作盤にたどりつく前、カラクラは、腕の痛みが再発し、膝を折った。


「痛むのか」


「平気…」


『ねえねえ…きみが、こいつで遊べばいいんだよ』


 ピクシーが、真剣子の肩にのって、ささやいた。


「真剣子…やめて…わたしと同じに…」


「こんなご機嫌なもの、独り占めするな。おまえは、やすんどけって」


 カラクラは、痛みで声がでない。


「で、これ、どうすんの?」


『あは!あの黒いのに手をいれて、きみの思いを込めるのさ。とってもカンタンな操り人形だよ』


 真剣子は、腕を黒色の箱へ沈ませた。箱は、波紋を立たせて液状化している。しかし、重力に負けず、立方体の形は、崩さない。


「ふうん…こうかな」


 真剣子は、直方体の内側をかき回してみた。


 シャフトが、翼をいからせ、海面から飛び立った。




ストリチナヤは、ほんとうに作者のお気に入りで、一番台詞を書いていて楽しいキャラクターでした


でもお話を引き締めるためにここで退場してもらいました

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