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バーサスクリアラー  作者: FT
14/24

アンドザショウダウン1‐2

この辺りで「キャプチャーゲーム」と「中央都市」で描いた設定と展開を詰めます。

カラクラをめぐる策謀者たちを描きつつ、終局のお話を匂わせる章です。



主な登場人物



ナスガ - 36歳、男性。ノースシャフト要塞防衛隊司令部付き、作戦参謀。現在は、司令代理


イモリ - 37歳、男性。ノースシャフト要塞防衛隊司令部付き、情報参謀。ナスガと士官学校時代の同期。


ウズメ ― 41歳、男性。ノースシャフト要塞防衛隊司令参謀長。コダカ司令に取り入り、自らの地位を引き上げようと画策している。クリアラーは、小娘の形を成した兵器でしかない、という冷血な視点を持っている。


ストリチナヤ — 46歳、男性。大陸側の密輸業者。各国のカーズマンの死体を収集し、大陸側の研究施設に卸している。アリマ大尉も、その中の取引相手である。

(キャプチャーゲームからの追加)

 カラクラ拉致の企画立案者。それを自らの手を汚さず、偵察部第三分遣隊に実行させる。そして、アリマ大尉とサショウの争いから漁夫の利を得、カラクラをさらうことに成功し、さらに用済みとなった第三分遣隊を排除した。道化装う食わせ者。


ラマニノフ - 51歳、男性。大陸側の外交官。大陸政府の顔効きということで、列島側の権力者は彼を「閣下」と呼んで敬う。





and the showdown




  1




 日が暮れ、ノースシャフトの頂の航空障害灯が、点滅していた。


 下の要塞はひっそりとしていた。照明が、煌々とたかれているが、見張りにあたっている兵たちの気は、抜けきっている。事件以来、哨戒に出た隊からカーズマンの目撃報告は、まったくない。


 司令室では、要塞防衛隊司令部参謀のナスガとイモリが、くつろいでいた。


 コダカ司令は、研修という名目の外遊中なので、ナスガが司令代理を任されている。


 参謀長のウズメは、階級を少将に進め、中央防衛管理総長という大層な役職に出世した。これは、新たにできた役職で、列島にある南北西、三つのシャフトを守護する防衛隊の連携を円滑にするためのまとめ役というようなものだった。


 ウズメが、コダカ司令をさしおいて、どうやって、そのようなポストへつけたのか、というのが、ナスガとイモリのここのところの酒のサカナになっている。彼らは、士官学校時代の同期なので、遠慮はない。


「あの男、大陸で妙な人脈を持っていると、小耳にはさんだ」


 と、イモリは、いった。


「祝賀会も大陸側の人間がいたな。情報部の腕の見せどころか」


「監査の真似事はできないよ。これは、噂にすぎない。うちの本部長は、ウズメに好意的なようだ」


「叩けば、ほこりが出そうなぶん、抱き込む相手はわかっているだろう」


「仕事熱心なのは、認めているよ。派閥づくりもそこに含んでいるが」


「タヌキの巣作りだな。俺としては、同じ獣でもカーズマンを相手にしている方が、寝覚めがいい」


「兵たちにそんな口を利かないでくれよ、司令代理。サウスシャフトの哨戒の被害が目立ってきているらしい。補充にここの隊が駆り出されるかもしれない。すでにクリアラーはあっちへ回されているんだ」


「柔軟に対応できるようにしておく。タヌキがいなくなって隊編成しやすくなったからな」


 イモリは、タヌキタヌキと、ナスガのそんな言い草に呆れて笑った。


 急にそわそわとして、デスクの調度品を調べるナスガ。


「…ここに盗聴器なんて仕掛けてないだろうな…」


「ウズメならやりかねんね。どうせ、君は嫌われているのだから、存分に罵詈雑言を吐いておけ」


 冗談めかしてイモリがいうと、灰皿が、ぶるぶると震えだした。


「なんだ?地震か?」


 ゴゴゴという地響きがする。それから警報が、けたたましく鳴った。


 デスクの電話も鳴ったので、ナズカが、受話器をとった。


「敵襲か!」


 受話器のむこうで、夜直モニター監視たちが、どよめいている。


「いいえ!シャフトです!シャフトの外装が動いて…」


 回線が乱れて、通信士の声が、ぷっつり、きこえなくなった。


 スタンドライトに照らされたノースシャフトの外装が四つに割れてすべり落ちた。要塞は、シャフトの接地面をかこっているので、建物の一部が、外装に押しつぶされてしまう。


 そうして、シャフトの内部が、バナナの皮むきのようにあらわになり、八面体の物体をみせた。それが、みるみる変形して、短い脚と折鶴のような翼を両側に展開すると、ふわりと浮かび、夜の空を昇っていった。




 2




 ヘリが、タンカーへ降りた。夜間誘導のものが、丁重に迎える。貫録のある男が、屈強な用心棒たちとともにブリッジへいそぐ。


 ラマニノフがくるなり、ストリチナヤは、いった。いつものふざけた調子はない。


「こちらがご要望の品です。片方は、世話役だとか。カラクラ様の腕が、不自由だというので、つれてきました」


 監視カメラのモニターをラマニノフにみせるストリチナヤ。


「こちらの情報通りだ。約束しよう。これで君の商売は、安泰だ」


「それだけですかいな。危険手当くらいはあっても罰は当たらないでしょうよ。虎の子のカーズマン供給ルートを潰してまで、手に入れた品で」


 ラマニノフの用心棒とストリチナヤの手下が、お互いを無表情に観察している。


「放射能汚染していないカーズマンのサンプルの価値は、閣下も知っておいででしょう。大陸のカーズマンは使い物にならない」


「何が望みだ。腹を割れ。私も危険を冒して、このような場へ出向いてきているのだ。これ以上、手間をとらせるな」


 見くびられないよう権力者らしい物言いをするラマニノフ。


「ウズメ少将のコネクション」


「彼に、なにを売りつけるつもりかね?」


「研究用カーズマンの供給ルートを復活させたいのですよ。以前のものより安全で効率的なものがほしい。医療技術の日進月歩を体現させるのには、新鮮な検体が必要不可欠ですからな。それだけカーズマン変身因子の完璧な治療薬ができる日が近づく。追い追い、莫大な富を生む源泉に」


 ラマニノフは、ストリチナヤに好意を持っていなかった。下賤の分際で、賢しい言葉を多用し、治療薬などと絵空事をほざく…そんなふうにストリチナヤを侮蔑した。


「考えておこう」


「損はさせませんですよ。少なくとも味方のうちは」


 ストリチナヤは、口にこそ出さないが、そちらの弱みを握っているといわんばかりだった。


 ラマニノフは、もう一度、監視カメラのモニターをみて、カラクラの様子をうかがう。彼は、シャフトを動かせる逸材を手に入れ、祖国に巣食ったカーズマンを排除できれば、あとは、どうでもよかった。列島側との外交問題でさえ。




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