キャプチャーゲーム5
主な登場人物
カラクラ - 17歳、女性。カーズマンに対して、絶大な力をもつシャフトを動かせる、稀有な存在。民衆からは大聖女と呼ばれ、すべてのクリアラーの羨望の的。しかし、カラクラは、自身を平凡なものと感じており、大聖女という大げさな呼ばれ方を受け入れられないでいる。
真剣子しんけんこ — 新米クリアラー、15歳。ハズノチヅの相棒バディ。傍若無人。男顔負けの身体能力を持っている。彼女の考えは、既存のクリアラーを度外視にするものであり、他のクリアラーと馴染めないでいる。
ピクシー - シャフトの案内人。シャフトの操縦をナビゲートする。外見は、20センチほどの小人で、幽霊に近い存在。
ストリチナヤ — 46歳、男性。大陸側の密輸業者。各国のカーズマンの死体を収集し、大陸側の研究施設に卸している。アリマ大尉も、その中の取引相手である。
(キャプチャーゲームからの追加)
カラクラ拉致の企画立案者。それを自らの手を汚さず、偵察部第三分遣隊に実行させる。そして、アリマ大尉とサショウの争いから漁夫の利を得、カラクラをさらうことに成功し、さらに用済みとなった第三分遣隊を排除した。道化装う食わせ者。
5
カラクラたちは、車に乗せられ、港へつれてこられた。
真剣子は、ストリチナヤの手下の目を盗み、カラクラへ『大尉の手榴弾』を押し付けた。小声で「持ってろ」という。カラクラは、素知らぬ顔をして受け取った。
そこで軽いボディーチェックを受けた。真剣子の思惑通り、ストリチナヤは、手下が、彼女たちの着衣を執拗にまさぐる真似は容認しなかった。カラクラを一応、貴人として扱っているつもりのようだった。しかし、彼女たちの帯びたパージロッドは、取りあげた。
「おもいがけない戦利品」
ストリチナヤは、彼女の身体よりそちらの方に注意がいき、嬉々として、ロッドを観察した。外装開閉トリガーをいじくりまわす。
「ああ!そこ、あんまさわんな!」
猫を被っていた真剣子が、これには、態度を変えた。パージロッドは、自動小銃などの火器とは、比べものにならないくらい高価な装備品であり、紛失などして、みつからなければ、禁固刑もありうる。それに自分のものだけならいいが、チヅのものまで、うばわれてしまったのだ。
彼らが、入船すると、すぐタンカーは出港した。
カラクラと真剣子は、船室の一つに監禁された。
「大陸に連れてかれて、あのおっさんになにされるんだか。あいつ、変態じゃないみたいなのが救いだけど」
「あなたが、勝手についてきたんでしょ…なぜこんなこと」
「あたしが、あのまま、知らぬぞんぜぬで、しゃあしゃあと生きていけると思ったか?ごめんだね」
真剣子は、船室の間取り確認しながらいった。部屋は、六畳くらいの広さで、二つのベッドとユニットバスがせせこましく詰め込まれてある。
「あなた、そんなふうでよくクリアラーできるわね」
「意地でやらなきゃ、戦ってなんかいられるかよ。おまえもそうだろ?」
真剣子は、天井の隅の監視カメラのレンズをのぞき込む。
カラクラは、黙り込んだ。真剣子に異論をはさめなかった。
シャワーは、ちゃんとしたお湯が出るようだった。真剣子は、カラクラの手に血がついているのをみて、シャワーをすすめた。
「あとでいい」というので、吊ってあったタオルを濡らして、手を拭いてやる。目を丸くするカラクラ。
「それらしく振る舞ってんの」
瞳だけ斜め上へやって、監視カメラの存在を知らせた。そうしてから、真剣子は、シャワーに入った。
シャワーの湯の落ちる音をきいていると、カラクラは、すこし平静になれた。アリマ大尉の胸が血で染まっていく光景は、まだ頭にこびりついているけれど。
「ピクシー、出てきて」
『ピクシーはここにいないよー!』
ベッドチェストから声がしたので、開けると、ピクシーがひそんでいた。
『みつかっちゃった!やあ!ぼくピクシー!』
「わたしたち、どこにいるか、わかる?」
『お船だよー』
「だれか助けを呼べない?スミヤに連絡できるのが一番なんだけど」
『大人とは話せないもんね。だって、ぼくがみえないものー!』
飛びはねるピクシー。
『でもねーあのねーカラクラは、きみが思うところ、どこにだっていけるよ!この星のてっぺんだって、きらきら光る宇宙の果てにだっていける!』
「どういうこと?」
真剣子が、下着だけつけて、シャワーカーテンを開けて出てくる。甲高い笑いを響かせているピクシーに苦笑した。
「またこいつか」
カラクラは、真剣子を意に介さず続ける。
「ねえ、ピクシー。なんとかできない?」
『だからねーきみは、呼べばいいんだ!どこへでもいけるよ!』
「なにを呼べばいいの?」
『きみとぼくのおもちゃさ』
「…もしかしてシャフトのこと?」
『そうさ!』
真剣子は、バスタオルで髪の毛をふきながら、どかっとベッドに座った。
『きみもピクシーと遊びたいの?はは!』
ピクシーは、真剣子のそばへジャンプする。
「幽霊なんか飼えるか。うちの宿舎がお化け屋敷になるわ」
ピクシーを払いのけた。
カラクラは、ベッドに横になって、病院からもってきた不細工な赤い紙飛行機を取り出し、ながめた。羽には、『カラクラ様が帰ってきますように』と鉛筆で書かれてあった。歳のわりにしっかりとしたオリンの文字だった。
「それ、なんだ」、とバスタオルを首にひっかけて、真剣子がきく。
「お守り」
「みせて」
真剣子は、カラクラから紙飛行機を受けとった。一見、紙くず同然のものだ。真剣子は、書かれている文字をみて、これをつくった子を察した。
「あの子供、なんていったかな。おまえの妹」
「え?」
オリンは、カラクラと血縁ではない。
「妹だよな?」
「うん」
彼女は、否定しなかった。
「あー腹減った。ロッドつかったからなあ」
真剣子は、紙飛行機を返して、ベッドへ転がり、
「おーい!メシ、まだかー!カラクラ様が、空腹だぞー!」
能天気に部屋の外まで、きこえるようにいった。
カラクラは、紙飛行機をにぎって、祈った。
―シャフト…きて。オリンのところへ帰して
ここは、真剣子とカラクラが、すこしづつ、互いに共感を覚えていくところです。
何気ない場面ですが、重要な伏線をちりばめてあります。




