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バーサスクリアラー  作者: FT
13/24

キャプチャーゲーム5


主な登場人物



カラクラ - 17歳、女性。カーズマンに対して、絶大な力をもつシャフトを動かせる、稀有な存在。民衆からは大聖女と呼ばれ、すべてのクリアラーの羨望の的。しかし、カラクラは、自身を平凡なものと感じており、大聖女という大げさな呼ばれ方を受け入れられないでいる。


真剣子しんけんこ — 新米クリアラー、15歳。ハズノチヅの相棒バディ。傍若無人。男顔負けの身体能力を持っている。彼女の考えは、既存のクリアラーを度外視にするものであり、他のクリアラーと馴染めないでいる。


ピクシー - シャフトの案内人。シャフトの操縦をナビゲートする。外見は、20センチほどの小人で、幽霊に近い存在。



ストリチナヤ — 46歳、男性。大陸側の密輸業者。各国のカーズマンの死体を収集し、大陸側の研究施設に卸している。アリマ大尉も、その中の取引相手である。

(キャプチャーゲームからの追加)

 カラクラ拉致の企画立案者。それを自らの手を汚さず、偵察部第三分遣隊に実行させる。そして、アリマ大尉とサショウの争いから漁夫の利を得、カラクラをさらうことに成功し、さらに用済みとなった第三分遣隊を排除した。道化装う食わせ者。





 5



 カラクラたちは、車に乗せられ、港へつれてこられた。


 真剣子は、ストリチナヤの手下の目を盗み、カラクラへ『大尉の手榴弾』を押し付けた。小声で「持ってろ」という。カラクラは、素知らぬ顔をして受け取った。


 そこで軽いボディーチェックを受けた。真剣子の思惑通り、ストリチナヤは、手下が、彼女たちの着衣を執拗にまさぐる真似は容認しなかった。カラクラを一応、貴人として扱っているつもりのようだった。しかし、彼女たちの帯びたパージロッドは、取りあげた。


「おもいがけない戦利品」


 ストリチナヤは、彼女の身体よりそちらの方に注意がいき、嬉々として、ロッドを観察した。外装開閉トリガーをいじくりまわす。


「ああ!そこ、あんまさわんな!」


 猫を被っていた真剣子が、これには、態度を変えた。パージロッドは、自動小銃などの火器とは、比べものにならないくらい高価な装備品であり、紛失などして、みつからなければ、禁固刑もありうる。それに自分のものだけならいいが、チヅのものまで、うばわれてしまったのだ。


 彼らが、入船すると、すぐタンカーは出港した。



 カラクラと真剣子は、船室の一つに監禁された。


「大陸に連れてかれて、あのおっさんになにされるんだか。あいつ、変態じゃないみたいなのが救いだけど」


「あなたが、勝手についてきたんでしょ…なぜこんなこと」


「あたしが、あのまま、知らぬぞんぜぬで、しゃあしゃあと生きていけると思ったか?ごめんだね」


 真剣子は、船室の間取り確認しながらいった。部屋は、六畳くらいの広さで、二つのベッドとユニットバスがせせこましく詰め込まれてある。


「あなた、そんなふうでよくクリアラーできるわね」


「意地でやらなきゃ、戦ってなんかいられるかよ。おまえもそうだろ?」


 真剣子は、天井の隅の監視カメラのレンズをのぞき込む。


 カラクラは、黙り込んだ。真剣子に異論をはさめなかった。


 シャワーは、ちゃんとしたお湯が出るようだった。真剣子は、カラクラの手に血がついているのをみて、シャワーをすすめた。


「あとでいい」というので、吊ってあったタオルを濡らして、手を拭いてやる。目を丸くするカラクラ。


「それらしく振る舞ってんの」


 瞳だけ斜め上へやって、監視カメラの存在を知らせた。そうしてから、真剣子は、シャワーに入った。


 シャワーの湯の落ちる音をきいていると、カラクラは、すこし平静になれた。アリマ大尉の胸が血で染まっていく光景は、まだ頭にこびりついているけれど。


「ピクシー、出てきて」


『ピクシーはここにいないよー!』


 ベッドチェストから声がしたので、開けると、ピクシーがひそんでいた。


『みつかっちゃった!やあ!ぼくピクシー!』


「わたしたち、どこにいるか、わかる?」


『お船だよー』


「だれか助けを呼べない?スミヤに連絡できるのが一番なんだけど」


『大人とは話せないもんね。だって、ぼくがみえないものー!』


 飛びはねるピクシー。


『でもねーあのねーカラクラは、きみが思うところ、どこにだっていけるよ!この星のてっぺんだって、きらきら光る宇宙の果てにだっていける!』


「どういうこと?」


 真剣子が、下着だけつけて、シャワーカーテンを開けて出てくる。甲高い笑いを響かせているピクシーに苦笑した。


「またこいつか」


 カラクラは、真剣子を意に介さず続ける。


「ねえ、ピクシー。なんとかできない?」


『だからねーきみは、呼べばいいんだ!どこへでもいけるよ!』


「なにを呼べばいいの?」


『きみとぼくのおもちゃさ』


「…もしかしてシャフトのこと?」


『そうさ!』


 真剣子は、バスタオルで髪の毛をふきながら、どかっとベッドに座った。


『きみもピクシーと遊びたいの?はは!』


 ピクシーは、真剣子のそばへジャンプする。


「幽霊なんか飼えるか。うちの宿舎がお化け屋敷になるわ」


 ピクシーを払いのけた。


 カラクラは、ベッドに横になって、病院からもってきた不細工な赤い紙飛行機を取り出し、ながめた。羽には、『カラクラ様が帰ってきますように』と鉛筆で書かれてあった。歳のわりにしっかりとしたオリンの文字だった。


「それ、なんだ」、とバスタオルを首にひっかけて、真剣子がきく。


「お守り」


「みせて」


 真剣子は、カラクラから紙飛行機を受けとった。一見、紙くず同然のものだ。真剣子は、書かれている文字をみて、これをつくった子を察した。


「あの子供、なんていったかな。おまえの妹」


「え?」


 オリンは、カラクラと血縁ではない。


「妹だよな?」


「うん」


 彼女は、否定しなかった。


「あー腹減った。ロッドつかったからなあ」


 真剣子は、紙飛行機を返して、ベッドへ転がり、


「おーい!メシ、まだかー!カラクラ様が、空腹だぞー!」


 能天気に部屋の外まで、きこえるようにいった。


 カラクラは、紙飛行機をにぎって、祈った。


―シャフト…きて。オリンのところへ帰して







ここは、真剣子とカラクラが、すこしづつ、互いに共感を覚えていくところです。

何気ない場面ですが、重要な伏線をちりばめてあります。

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