キャプチャーゲーム4
主な登場人物
カラクラ - 17歳、女性。カーズマンに対して、絶大な力をもつシャフトを動かせる、稀有な存在。民衆からは大聖女と呼ばれ、すべてのクリアラーの羨望の的。しかし、カラクラは、自身を平凡なものと感じており、大聖女という大げさな呼ばれ方を受け入れられないでいる。
真剣子 — 新米クリアラー、15歳。ハズノチヅの相棒。傍若無人。男顔負けの身体能力を持っている。彼女の考えは、既存のクリアラーを度外視にするものであり、他のクリアラーと馴染めないでいる。
アリマ — 32歳、男性。陸軍喪失地偵察部隊第三分遣隊という、情報収集専門の特殊部隊の隊長。階級は、大尉。さきのカーズマンの大群のノースシャフト侵攻の早期発見者。
(キャプチャーゲームからの追加)
ストリチナヤの罠にかかり、カーズマンの変身薬を注射された。ストリチナヤは、彼に変身遅延薬を報酬として、大聖女カラクラの拉致を強要する。アリマ大尉が、完全にカーズマンになってしまうまでのタイムリミットは、12時間である。
サショウ — 25歳、男性。アリマ大尉の元部下。過去、カーズマンの変身症状を体験したが、ストリチナヤが持つ薬のおかげで変身を免れた。現在は、軍を去り、ビル警備の仕事をしている。
(キャプチャーゲームからの追加)
ストリチナヤにカーズマンの変身症状に陥った過去を利用され、操り人形と化す。彼は、ストリチナヤの提供する変身遅延薬欲しさにカラクラを拉致しようとしている。
ストリチナヤ — 46歳、男性。大陸側の密輸業者。各国のカーズマンの死体を収集し、大陸側の研究施設に卸している。アリマ大尉も、その中の取引相手である。
(キャプチャーゲームからの追加)
カラクラ拉致の企画立案者。それを自らの手を汚さず、偵察部第三分遣隊に実行させる。道化装う食わせ者。
ミツミ — 27歳、男性、アリマ大尉の部下。階級は、少尉。偵察部第三分遣隊のヘリ操縦士。
4
サショウは、ひと気のない工場にいた。ブルーシートのかかった資材の片すみでうめいている。
彼は、ずぶ濡れだった。そばの貯水タンクに穴をあけ、頭から水を被った。背中には、大きい火傷があった。真剣子のパージロッドの光がおよぼした傷である。それが、いまだに蒸気をあげていた。
サショウは、人の気配を感じて、シャツを羽織った。
資材置き場の裏口が開き、アリマ大尉が入ってきた。その後ろにはカラクラがいる。
アリマ大尉は、サショウへ拳銃を向けた。サショウは笑って、いった。
「あなたは、本当に甘ったれだ。ストリチナヤのもとへいけば、あなたは助かった」
「お前が俺を信じないからだ」
「ハスノさんは、どこにいるのです」
カラクラがいう。
「その前にカラクラ様へ申しあげたいことがあります。あなたの動かない腕についてです。自分についてきてもらえれば、あなたの腕は治療できます。自分は、なにもあなた様に狼藉を働こうとして病院に押し入ったわけではないのです」
「人死にをしておいていうことですか」
「仕方ありませんでした。祝賀会の日に大陸側のさる御仁が、治療を申し出たのです。しかし、あなたがた政府は拒否をした。カラクラ様はご存知でしたか?」
黙っているカラクラ。
「やはりそうでしょう。あなたが、大陸へ治療にいくと言い出すことをよくは思わない。中央都市防衛の切り札が、列島を離れることなどあってはならないのですから」
カラクラは、憮然として話をきいている。
「あなたは、ここにいては、どうあっても兵器扱いされ、果てていく。どうやら南方のカーズマンが、活発化しているようです。またあなたが駆り出され、シャフトを動かした代償により、身を削らねばならぬことになるでしょう」
それは、大尉も聞き知らないことだった。シャフトを起動できるというカラクラの能力の重要度から、大陸政府がからんでいるという話は、信憑性があるような気がした。ストリチナヤも大陸の手駒にすぎないということか。
「自分と大陸側へ」
「惑わされるな、サショウ。カラクラ様の身体を気遣うつもりならば、手段を選ばず、さらおうなどと考えるはずはない。大陸のやつらは、俺たち列島側の人間を都合よく利用している」
「判断するのは、あなたではない」
またしても大尉の説得は、効かない。
サショウは、カラクラの返答を待つ。
「わたしは、大陸にいくつもりはありません」
「なぜです?」
カラクラは、オリンを思った。
「話は終わりです。投降なさい」
「ガキめ…大人をこけにしやがって…」
サショウがつぶやくと、火傷の熱が、いっきに背を押した。本性をあらわし、カラクラへ襲いかかる。
大尉が、拳銃を撃ちはじめ、カラクラは、扉の方へ下がった。
弾が二発、足を捕らえたが、動きを止めるまでの傷は与えられず、大尉は、サショウの体当たりを受けて、床を転がった。
「こっちだ!あたしをみろ!」
真剣子は、別の扉からこっそり入り込み、資材の陰に隠れていた。そこから飛び出してきて、パージロッドをかざし、サショウへ迫った。
サショウは、振り返り、光を浴びた。すぐに効果があらわれない。やつは、カラクラへ突っ込んでいく。大尉は、ふらつきながら、射撃を加えた。あたらない。
「ロッドを!」
大尉は、やむを得ず合図した。
カラクラは、白衣下に隠したパージロッドのトリガーを引く。あらかじめ、チヅのロッドをセットして、いつでも使えるように準備していた。
白衣をまくるようにロッドを突き出すと、サショウは、光をまともに浴びた。カラクラの照射は、通常のクリアラーとは比較にならない威力がある。
サショウは、爆風にあおられるように吹っ飛んでいった。
真剣子は、資材の上に落ちたサショウをみて、カラクラの光に嫉妬した。
―これが、大聖女と呼ばれるやつの実力…あんなの…反則じゃないか…
転げ落ちたサショウが、燃えはじめる。大尉は、壁の消火器をサショウへ吹きつけた。火は消えたが、ぐずぐずと煙がわきあがる。
彼のシャツは、燃えカスになっており、変身因子に侵された脇腹と肋骨の部分が、えぐられたようにごっそりと無くなっていた。右腕と左もものあたりもほとんど欠損している。カラクラの光が、そこを一瞬にして灰にしたのだ。火をつけたのは、おもに真剣子の光だ。
真剣子が、サショウの頭をロッドで小突いた。
「おら、くたばるな。チヅはどこだ」
「…あれはハッタリだ…病院のボイラー室に縛ってある…」
舌打ちする真剣子。
サショウには、チヅを背負って、この場所まで逃げ果せる時間的余裕も体力もなかった。
「ストリチナヤは、埠頭にいます。やつの船です…あれでカラクラ様を大陸へ……」
「…この大馬鹿野郎…」
大尉は、くやしさに打ち震え、息絶えそうなサショウを抱えた。
「いやいやいやいやー」
入口から溌剌とした声がする。
「みなさん、お集まりでーご苦労様でしたなー」
ストリチナヤが手下たちを引き連れて、入ってきた。
「お前、なぜ…」
大尉が、いう。
「情報を仕入れるための労力は惜しまない。商売のモットーですからな」
手下は、大陸製のアサルトライフルを持っている。
「これはこれはカラクラ様、ご機嫌うるわしゅう」
ストリチナヤは、カラクラを舐めまわすようにみて、そして、銀色のケースをかかげた。
「報酬です。大尉。れっきとした契約ですからなー」
「そんな取引に応じた覚えはない」
「では、新しく取引に応じてもらいましょうな。あなたの部下から、いいことをたくさんききまして」
ストリチナヤの手下が、ミツミを引きずってきた。ミツミは、手足を縛られ、猿ぐつわをされている。頭にライフルの先をつきつけられた。ドウドは、いない。拷問のすえ、殺されてしまった。
「抵抗しても無駄なようです…」
カラクラは、冷静にいった。大尉は、はらわたが煮えくり返っていた。
「戦えます…」
「はやまってはいけない」
二人は、ストリチナヤがこちらへ歩いてくるまで、声をひそめて、話し合う。
「偵察部には覚悟がある」
大尉は、ミツミを見捨てるつもりでいった。
「わたしは、許可しません」
「銃を捨ててくれますかな」
ストリチナヤがいうと、大尉は、銃を床へおいた。
「おおー、サショーくんでは、ありませんか。調子はどうだね」
虫の息のサショウが、ストリチナヤへうめきをもらした。
ストリチナヤは、ひょいっと大尉の銃をとった。
「いい銃ですな。重さがちょうどいい」
そして、サショウの眉間へ狙いを定め、銃を撃った。空薬きょうの落ちる音が建物内に響く。
それで大尉は、理性を保てなくなり、ストリチナヤを押し倒した。彼の手には、手榴弾があった。
「カラクラ様!お逃げください!」
「大尉!だめです!」
カラクラは、そこにとどまった。
大尉は、手榴弾の安全ピンを噛みとろうとしている。彼は、ストリチナヤを道連れに自爆するつもりだった。
「蛮勇は、よしなさい。部下にそれを強いるのも。わたしがいけば、みんな助かります」
カラクラは、大尉の肩にそっとふれた。
その間断をストリチナヤは、逃さない。持っていた銃で、大尉の胸を撃ち抜いた。三度、引き金を引き、覆いかぶさってくる大尉を乱暴に押しのける。
「さすがは、カラクラ様。感動いたしましたぞ」
手榴弾が、大尉の手からこぼれ落ち、真剣子のいるほうへ転がってきた。
真剣子は、とっさにその球体を白衣の中へ引き入れた。ベストとシャツの裾の下から無理やり、胸の谷間に押し込む。クリアラー支給の矯正下着は、発育のいい真剣子にとって、きつめだったが、物を隠す場所には、最適だった。手榴弾は、ぴったりおさまっている。
一方、ストリチナヤは、無用になったミツミを始末しようとした。
「やめて!死人はたくさんです!」
カラクラは、思わず叫んだ。
ストリチナヤは、手下たちに「どうせ小者だ。捨てておけ」といった。
カラクラは、大尉の胸をはだけさせ、ハンカチをあてがっていた。大尉の心音は、なかった。即死だ。
彼女は、血に浸ったハンカチをそのままにして、目を伏せ、誰にいわれるまでもなく、出入り口へ歩いた。
その後ろを真剣子が、家来のように頭をたれて、ついていった。
「君は、なにかね」
ストリチナヤは、不審げに真剣子へたずねた。
「カラクラ様の侍女です。カラクラ様になにがあろうと、わたくしはお仕えするもの」
かしこまって演技する真剣子に、はっとするカラクラ。
カラクラにしか見えないように、真剣子は、声に出さず「だまれ」と口を動かした。
「カラクラ様は、先の戦で傷を負っておいでございます。お身のまわりのことを、あの男衆にさせるつもりですか?」
「ふむ。おい、お前、カラクラ様のお世話をしたいか?」
ストリチナヤは、気だるそうに撤収の号令を待つ手下の一人に聞いた。
手下は、にやりと笑ったので、ストリチナヤは、そいつの後頭部を張り倒す。
「下衆を教育したいのは、やまやまだども、時間がない」
ストリチナヤは、真剣子の言い分に納得した。




