キャプチャーゲーム3
主な登場人物
カラクラ - 17歳、女性。カーズマンに対して、絶大な力をもつシャフトを動かせる、稀有な存在。民衆からは大聖女と呼ばれ、すべてのクリアラーの羨望の的。しかし、カラクラは、自身を平凡なものと感じており、大聖女という大げさな呼ばれ方を受け入れられないでいる。
ピクシー - シャフトの案内人。シャフトの操縦をナビゲートする。外見は、20センチほどの小人で、幽霊に近い存在。
真剣子 — 新米クリアラー、15歳。ハズノチヅの相棒。傍若無人。男顔負けの身体能力を持っている。彼女の考えは、既存のクリアラーを度外視にするものであり、他のクリアラーと馴染めないでいる。
ハスノ チヅ — 新米クリアラー、15歳。年頃の娘らしく繊細ではあるが、優しさと芯の強い部分を内に秘めているクリアラーの見本。真剣子の唯一の理解者。
スミヤ - 29歳、女性。クリアラーを監督する技術士官。大聖女・カラクラを管理する立場でもある。
・偵察部の面々
アリマ — 32歳、男性。陸軍喪失地偵察部隊第三分遣隊という、情報収集専門の特殊部隊の隊長。階級は、大尉。さきのカーズマンの大群のノースシャフト侵攻の早期発見者。
(キャプチャーゲームからの追加)
ストリチナヤの罠にかかり、カーズマンの変身薬を注射された。ストリチナヤは、彼に変身遅延薬を報酬として、大聖女カラクラの拉致を強要する。アリマ大尉が、完全にカーズマンになってしまうまでのタイムリミットは、12時間である。
サショウ — 25歳、男性。アリマ大尉の元部下。過去、カーズマンの変身症状を体験したが、ストリチナヤが持つ薬のおかげで変身を免れた。現在は、軍を去り、ビル警備の仕事をしている。
(キャプチャーゲームからの追加)
ストリチナヤにカーズマンの変身症状に陥った過去を利用され、操り人形と化す。彼は、ストリチナヤの提供する変身遅延薬欲しさにカラクラを拉致しようとしている。
ミツミ — 27歳、男性、アリマ大尉の部下。階級は、少尉。偵察部第三分遣隊のヘリ操縦士。
ヒダ - 26歳、男性、アリマ大尉の部下。階級は准尉。サショウの手にかかり、死亡。
ドウド — 29歳、男性、アリマ大尉の部下。階級は軍曹。
3
カラクラは、病室より斜めむかいの備品収納部屋へ身を潜めていた。
「警備はいったいなにをしているの…今日は増員がくる予定だったのよ」
スミヤが、忌々しげに吐き捨てた。
銃声は、鳴り止んでいる。
『野生動物は、いっちゃったよ!はは!』
「大丈夫みたい」
スミヤには、ピクシーの声も姿もみえないので、カラクラが伝えた。
「本当に大丈夫なの?」
「ええ、敵は去った」
いやに確信をもっていう。この子、ほんとうに聖人じみてきた、とスミヤは思った。
『きみのお友達が追い払ってくれたよ!マッチョでタフなおっともだち!』
ピクシーは、用具棚の間をかけまわってはしゃぐ。
アリマ大尉たちは、病院の三階へと戻った。
ミツミが、無線でカラクラの無事を知らせてきた。
スミヤ技官が、廊下に仁王立ちして、ミツミに詰問している。
「あなたたちは、なんなのです」
カラクラは、それを他人事のようにきいている。
大尉は、スミヤの相手をミツミと代わった。
「私は、喪失地偵察部隊第三分遣隊アリマというものです」
「階級は?」
スミヤが、聞く。
「大尉です」
真剣子とカラクラは、互いにちらりと目をあわせた。言葉は、交わさない。
「チヅ、どこだ?」
チヅがいないので、真剣子は、部屋の中を確かめた。どこにもいない。そして、病室から出ていった。ミツミは、自分の記憶を掘り起こした。
廊下で休んでいたドウドからきいたが、頭をつよくぶつけ、気を失っていたようで、彼にもわからない。
真剣子は、チヅのパージロッドを見つけて、拾い上げた。言い知れない喪失感が、彼女の胸にはびこった。
すると、突然、アリマ大尉の無線から声がした。
「隊長、応答願います」
ノイズ交じりだが、はっきりきこえた。大尉はスミヤ技官と話すのをやめて、耳をすませた。
「クリアラーをそろえてくるなんて思いもしませんでしたよ」
サショウは、ヒダの無線を奪っていた。
「貴様、ヒダを…」
「あなたが、ヒダをゲームに巻き込んだ…そこのところをよく考えて、次の行動を決めるべきだ。クリアラーを一人あずかっています。これがカラクラ様だと、よかったのですが」
「そんな交渉にのれると思っているのか」
「では、このクリアラーが、消えてもかまわないと?」
「お前は、感染のせいで正常な判断ができていない。やつらが、カラクラ様を手に入れたら、お前は始末されるぞ。我々とストリチナヤを討つ方法を考えるんだ」
「俺は、ヒダをやった。あなたが許せても、他が許さない」
真剣子が、病室に戻っていて、無線の会話をきいていたかと思えば、大尉から無線機を奪いとった。
「チヅをかえせ!灰にするぞ!」
「…きみの上官の次第だよ。もっとも、隊長にはその気はないようだ…」
サショウは、無線をきった。
真剣子は、部屋から出ていこうとする。
「単独行動は許さん」
大尉が、いった。
「あんたはチヅを助けないだろ…」
「一人でいってどうなる」
「あたしには直感がある」
「だからこそ、君の能力は貴重だ。警備が緩んでいる。君にはカラクラ様をまもってもらう。それが最優先だ」
真剣子は、二つのパージロッドを持っている。一つは自分の、もう一つは、チヅのものだった。
彼女は、カラクラへ向き直った。スミヤが、真剣子をにらみつける。が、カラクラは、真剣子の意気を察して、彼女と相対した。
真剣子は、チヅのパージロッドをベッドへおいた。
「チヅの半身だ」
パージロッドのチューブの先の接続針が、チヅの血で汚れている。
「これを貸しておく。あんたもクリアラーだろう。自分で身を守れ。これで戦力は変わらないはず」
身をひるがえす真剣子。
「あたしは、もう半分を取り戻しにいく」
そこへ大尉が立ちはだかる。
「サショウをあなどるな。やつは、常人の身体じゃない。それでいて頭もまわる。お前はなにもわかってない」
「そんなことくらい、わかってる!」
「いいや、わかってない。お前は、私情で動きすぎる。むこうはお前の相棒を人質にとっているんだぞ。ハスノを盾にされたら、お前は何もできない」
真剣子は、唇をかみしめた。大尉の言葉は、正しかったが、今の彼女には、とどかなかった。
「あんたが、こんなところにつれてくるからこうなった!指図は受けない!」
ミツミは、真剣子をなだめるように手をひらつかせ、大尉とアイコンタクトをとった。大尉は、うなずいて目を覆った。
真剣子が、部屋を出ていくところを狙って、ミツミは、彼女の首に腕をかけて引き倒した。腕を器用につかって頸動脈を圧迫する。必死に抵抗してミツミから逃れようと暴れたが、背後からがっちり取りついて放さない。
真剣子が動かなくなると、さっと腕をはなし、呼吸と脈が正常かどうか確認した。
「このお嬢さん、なにしでかすか、わかりませんぜ。眠ってもらわないかぎり」
ミツミは、カラクラとスミヤに自分の野蛮な行為を謝り、真剣子をカウチへ運んだ。
「電話をして人を呼びます。それまであなたたちを信じて、警備を任せます。いいですか?」
スミヤは、わざとらしく息を吐いて、凄みをきかせていった。
大尉とミツミは、かかとを合わせ敬礼する。
真剣子の頬には、涙がつたっていた。ミツミは、気まずくなって、ドウドを介抱してやりにいった。
スミヤが、カラクラの病室の電話を使おうとしたけれど、回線が混雑しているようで番号を押してもつながらない。
「アリマ大尉」
カラクラが、アリマ大尉へ話しかけた。
「はッ」
「とらわれたクリアラーの子は、どうするのです。彼女の言い分、一概に間違いとは、いえません」
「いえ、救出しないというわけではありません。無線には衛星発信機が内蔵されていて、敵の居場所は、それであたりがつきます。警備が強化され、カラクラ様の安全が確保された、その時、敵がクリアラー・ハスノに利用価値をまだ持っていて、無線を捨てなければ」
「わたしは、足手まといになっていますね」
「足手まといなんて。あなたは、中央都市防衛の要なのよ」
スミヤが、そういうと、カラクラは、無言になった。
「使える電話を探してきます。くれぐれも粗相のないように」と言い残して、スミヤは、一階の緊急用電話を使用しに病室を出ていった。
扉が閉まるや否やカラクラは、ベッドにあった水差しをとって、真剣子の顔へぶっかけた。
真剣子は、飛び上がって、目覚めた。ひとしきりむせると、真剣子はミツミを見つけ、また怒鳴った。
「この野郎!なにしやがんだ!」
「しずかにしなさい!」
カラクラは、真剣子を黙らせてから衣装箪笥のところで患者着を脱いだ。そこには、クリアラーの制服一式が入っている。
肌をさらす彼女を目にして、大尉とミツミは、唖然としている。
「スミヤが戻るまでに部屋を出ます。ハスノさんを救出するため、援護をしてくれますか?」
男たちは、カラクラをみないよう、窓の方を向いた。
「それでは、カラクラ様の安全を保障できません」
「命令です。優先順位を変えるのです。クリアラー・ハスノ救出を第一に」
大尉は、ためらった。カラクラを囮におびき出す作戦を立てられれば、サショウを捕らえる可能性は、格段に高まる。だが、失敗すれば、なにもかもおしまいだった。自分はいずれカーズマンとなってしまうが、残されたミツミやドウドは、どのような重罰を受けるか計り知れない。もはや、ヒダという犠牲者を出してしまっているのだ。
「止めても、彼女といきます。不満があるなら、わたしを気絶させて。簡単でしょう」
ミツミは、大尉の顔色をうかがった。カラクラは、大聖女の自分に、そんなことを誰もできないと知った上でいっていた。
「…ご苦労なこった」
真剣子は、彼女を皮肉ったが、内心、カラクラの物言いが爽快でたまらなかった。
カラクラは、片手しかつかわずにズボンをはいているので、着替えに手間取っている。
「着替えを手伝って。真剣子」
事もなげにいうカラクラに真剣子は、鼻で笑った。
「…カラクラ様を手伝え」
大尉は、カラクラに従うことにして、口添えする。
結局、カラクラのズボンをはかせ、ベルトをきつく締めた。
「痛い。真剣子」
「なんで、こんなことになってんだ。あたしゃメイドか」
シャツの袖をカラクラの腕へ通し、ぶつぶつ文句をたれた。
アリマ大尉たちは、カラクラをともなって、スミヤにみつからないよう、非常階段で一階へ降りた。ミツミは、軽症のドウドに肩を貸している。ヒダの死体は、おいていくしかなかった。
大尉が、裏口に車をまわしにいこうとした。けれど、病院駐車場出入り口は、封鎖されていた。すでに憲兵隊が到着していて、燃えさかっていた車の消火作業をし、その周辺を何人かが、ライフルをたずさえ、うろうろしている。
無線に内蔵された衛星発信機をモニタリングする装置は、大尉の車の中にあった。これでは、うかつに車に近づけない。
しかし、あれだけ憲兵が、駐車場にいるのにどうして、カラクラのところには一人もやってこないのか。大尉は、自分たちが動く分には都合がいいと思う一方で、気味の悪さを感じずにはいられなかった。
裏の通りに停めてあったヒダの車を使って、病院を離れた。
「道具は全部、車だ。憲兵が張っていて手が出せない。私の家へよります」
大尉は、荒っぽい運転をして、他の車を追い越していく。
「ハスノさんをさらった人の居場所はわかると思います。ピクシー」
『なんだい!』
ぱっと現れるピクシー。運転席の肩に腰かけている。もちろん大尉は、気づいていない。
「さっき、わたしをつかまえにきた人、どこにいるかわかるでしょ」
『うん!わかるよ!』
「教えて」
『うん!悪いやつはやっつけなきゃね!』
カラクラが、宙にむかって話し出したので、一同が、驚いていた。だが、真剣子だけは、驚きの意味が違っていた。彼女には、ピクシーがみえていた。
「なんじゃあ、こりゃあ」
真剣子は、ピクシーをつかまえようと手を差しのべた。手は、ピクシーの身体をすり抜けて、つかめない。
ピクシーは、へらへら笑って、ダッシュボードへ飛びうつった。
「ピクシー、遊んでないで。探して」
「なんだよ…あれ」
「シャフトの案内人。あなた、みえるの?普通の人には、みえないのに…」
「ばっちりみえる…うえ~きもちわれえな~」
カラクラは、ピクシーについて、偵察部隊らに説明した。彼らは、軍内部でも情報を扱う仕事をしているので、シャフトの噂は、いろいろと聞き知っていたけれど、実際にその力を披露されるとは思ってもみなかった。にわかに信じがたい。
ピクシーが、小さな望遠鏡をどこからともなく取り出して西の方をのぞき込む。
『いたいた。寂しくて汚い工場みたいなところ!いる!』
「無線の使える範囲は、どれくらいですか?」
「三キロほどですが…」
「ここから三キロ以内に工場はありますか。誰もいない」
「小さいが、弾薬製造ラインがあります。事故があって、一時閉鎖に。復旧のめどはたっていません」
「きっと、そこです。そこにハスノさんがいます」
「隊長」
話し合いの頃合いをみて、ドウドが、後ろをうかがいつつ、声をかけた。
「つけられているようです…二台後ろのシルバーの乗用車」
「一台か?」
「わかりません。ですが、あの車、隊長の運転についてくる」
「そこの立体駐車場に入って撒きましょう」と、ミツミがいった。
尾行してくる車の不意を突いて方向指示器をださずに、立体駐車場の建物へ入った。
ミツミは、二手に分かれ、尾行を抑えることを申し出た。ドウドは、けが人が、サショウのところへついていっても役に立てないと車に居座った。
二人は、駐車場を後にし、大尉とカラクラ、真剣子の三人は、その場に残された。
大尉は、移動手段に駐車場の車を盗んだ。
目的地へむかう途中、大尉は、サショウとストリチナヤについて、話してきかせた。たくさんの人が巻き込まれて、死んだ。これまでの経緯を隠し続けられるような事態ではなかった。
カラクラと真剣子は、大尉を責めるよりチヅを助け出すことを選んだ。




