high-five27《epilogue》
成田空港の見送りラウンジ。
「行ったな。
……私との結婚すっぽかして」
マジで溜息をつく西中郷素衣。
「行っちゃったね。
……まだそんなこと言っているの」
呆れ気味の高萩直。
「……」
じっと機影を見送る成沢遥香。
見送りに来たのはこの三人、
妹の媛貴は来なかった。
伊立では卒業と旅立ちを祝って、
全員で『焼肉どんぶり』に舌鼓。
媛貴は別れ際に晴貴から、
ギュっと抱きしめられても、
気丈にも涙を見せなかった。
その後はずっと、結貴が手を握っていた。
おお兄ちゃんを笑顔で見送ると、
姿が見えなくなってから、
結貴にすがりついて号泣。
出発前の空港ロビーで4人が記念撮影。
遥香と晴貴のツーショットは、
二人とも満面の笑顔だった。
「……今でも信じられない、
晴貴が『銀河系軍団』の一員だなんて」
感嘆する遥香。
「シュルツェンのおっさんは、超やり手らしい」
「ええ、まさかの展開だよね」
西中郷と高萩は取材でシュルツェンとは何度も会っていた。
「でも凄いよね、すぐにレンタルに出されるとはいえ」
「遥香、知っている?
イタリアの『ティレーニア』ってチーム」
「幾つかのクラブが合併したセリエBのチームだって、
晴貴から聞かされたけど、詳しくは……」
「サッカーはセリエBだよね」
「サッカーは、って……?」
キョトンとする遥香に対し、
西中郷と高萩はにやにや。
「本当にシュルツェンのおっさんは、超やり手だ」
「移籍にビックチームを絡めるなんてね」
「サッカーのセリエBじゃないの?」
「いや、サッカーはセリエBだよ」
「まさか二刀流……」
遥香は目を見開く。
「そう、バレーボールはセリエA2」
「そこの会長が古い知り合いでね……」
「アトランタオリンピックで出会ったんだよね~」
西中郷が意味ありげに高萩の肩を小突く。
「止めてよ、遥香の前で余計な話は」
高萩は苦笑い。
「昔のカレシなの?」
遥香は興味津津。
「……一人分の資金で、良い買物だって」
「直も一緒に行っちゃえばよかったのに」
西中郷が茶化す。
「そのこと、晴貴は知っているの?」
遥香は晴貴から聞かされていない。
「そのことって、直の恋物語?」
「じゃなくって、二刀流よ!」
「どうかな?」
「どうかなって……、
1月から何度も渡欧していたけれど、
バレーボールのバの字も聞いてない」
「じゃあ、知らないんだよ。
遥美も、成沢監督も、相賀監督も口が堅いから」
「大丈夫、晴貴を信じなさい」
「シュルツェンのおっさん、やりやがったな、
ン? お姉ちゃんたちも一枚噛んでいるでしょう!」
言いながらも遥香は楽しそう。
「当たり前よ、貴美から託された責任がある」
「おかげで私たちの番組が独占スクープいただき」
「面白い!
どうして晴貴はいつも簡単に騙されるのかな」
遥香が手を叩いて喜ぶ。
「遥香、日曜日の放送、見学しに来なさい」
「勿論!」
遥香は二つ返事。
三人は悪い顔で肩を寄せる。
こうして遥香は、
西中郷と高萩の番組におびき寄せられた。
そこで待ち受ける二人の罠に気付くこともなく。
「それじゃあ、晴貴の明るい未来を祈りましょう!」
三人は喜々としてハイタッチを交わした。
========== HIGH FIVE お わ り ==========