表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
HIGH FIVE  作者: 栄津鞆音
22/28

high-five21


 高鈴めぐみの自主練習は新たなステージに。

「ポーン、サッ!

 ポーン、サッ!

 ポーン、サッ! サッ!」

 自分で工夫してフェイントにも応用してみる。

「ブ~ン、トン、トン、サッ!」

 まだまだぎこちないが、

 成功イメージはバッチリだ。

「ポーン、サッ!

 ポーン、サッ!

 ポーン、サッ! サッ!」



 多賀冬海は、夏休みから幾つもの、

 漫画の新人賞にチャレンジ。

 ネームを作ると、小木津亜弥がチェックする。

 よっぽどの事がない限り、ダメ出しはしない。

 褒めて、褒めて、褒めまくる。

 亜弥はとにかく、数を求めた。

 完成させては、商業誌からWEBサイトまで、

 作風が合いそうな媒体を吟味して応募させた。

 年末から結果が出始める。

 さすがに全滅、それはまあ仕方がない。

 技術的な事に亜弥は口出ししない。

 お友達だけど、私は作画のド素人、

 その一線は越えちゃいけない。


 今日もまた、新しいネームを拝見。

「うん、良いと思うわ……」

 亜弥は原稿を揃えて、冬海に返した。

「どんな所が、良かったのかな……」

 自信なさ気に冬海が尋ねる。

「起承転結。

 少なくともストーリーは破綻していない」

「やっぱり、どこかで見たようなお話だよね……。

 私、オリジナルなんて思いつかない」

 冬海は自分が最も気にしている点を打ち明けた。


 亜弥にプロットのアイデアを求めた。

「何言っているのよ!

 私達は、まだ何者でもないのよ!

 物マネ、パクリ、二次創作、

 何でもやってみた者勝ち。

 どんどんやって、腕を磨いて、

 ストーリーなんて後からついてくるわ」

「そう……なんだろうけれど。

 何だか私は煮詰まっちゃって、

 どうしたらいいか分からなくなっちゃった」


「じゃあ、4コマをやってみましょう」

「それこそ沢山アイデアが必要なんじゃ……」

「忘れちゃだめよ!

 私達は、花の女子高校生!

 日常ネタなら事欠かないわ。

 そうよ、あの五人娘をモデルにしなさい。

 題して『ハイテンションFIVE』

 日常系よ、日常系!」

「ああ、あの五人娘ね……」

 取り敢えずメモを取る。


「高校生ならスポ根モノもアリね……」

 亜弥は何か閃いた。

「サッカー部とバレーボール部のエースは二年生の双子。

 一年生の訳アリ弟とは、実は三つ子だった。

 そこに幼馴染の女の子を絡めた恋愛ものとか、

 名付けて『ハイ・タッチ』」

「どこかで聞いたような、

 女の子のモデルは亜弥かな……」

「バカね、冬海で良いじゃない。

 妄想よ、妄想の具現化なら簡単でしょう!」

「それは恥ずかしいわ」


 亜弥は構わず続ける。

「それなら『お姉ちゃんは同級生』ってどうかしら?」

「それもどこかで……」

「いいのよ、元ネタなんて何だって。

 4月生まれの姉と、

 3月生まれの弟だったらあり得るじゃない」

 冬海はペンを走らせる。


「あとは動物とか子供ね。

 五つ子の赤ちゃんを題材にした、

『ハイハイFIVE』なんてどう?」

「その発想の秘密を知りたいわ」

 冬海は何だか面白くなってきた。


「異世界モノとか、超能力バトルとか、

 マシンの擬人化とか、芸能系とか、

 今の流行りを追っても目立たないわ、

 設定に凝るよりも、まずは王道を行きましょう!」

「この間は、流行りモノに乗っかって、

 覇道を行くって言っていたような……」

「要するに、何でもアリなのよ」

「そうだからこそ、

 どうしたら良いか悩んでいるんじゃない」

 二人は本当に良いコンビだ。



 伊立一高の31年振りの修学旅行は琉球県。

 学校的には何事もなく、無事終了した。

 しかし、小木津亜弥には大きな目的があった。

 つき合っているはずの晴貴が、何だか煮え切らない。

 休みに誘えば付き合ってくれるけれど、

 本当に私を見ているのかしら?

 キスの一つも迫ってきてよ!

 旅行中には必ず進展してみせるわよ。

 まずは最初が肝心だわ。

 みんなに二人の関係性を見せつけておかなければ。

 冬海、協力ヨロシクね!


 バラキ空港から琉球空港まで、4機に分かれて搭乗。

 奇数クラスが1・3と、5・7・9に分かれ、

 偶数クラスが2・4と、6・8・10で分かれる。

 上空で機体は安定、シートベルト解除のサインが出た。

 約3時間の濃密な時間。

 五人娘が動き出す。

「ねえ、ねえ、5組のみんな、

 トランプ大会を開催します!」

「優勝した人には『トランプ王』の称号を与えます」

「ご褒美に、王様として振る舞ってもらいます」

「だから着陸までは、王様の命令は絶対です」

「トゥルンピレイ ウイニースドジョーゴ」


 予定通り、亜弥が初代『トランプ女王』に輝いた。

「女王様、何なりと臣下にご命令を」

 芝居かかって長島依子がへりくだる。

「そんな、急には思いつかないわ」


「これは陛下、ご遠慮なさることはございません」

 西津悠が尚も促す。

「そう言われても、お友達に命令だなんて」


「女王陛下のお優しい心に、感服いたしました」

 沼尾柚亜が大袈裟に頭を垂れる。

「どうしたらいいのかしら?」


「それではこうしましょう。

 我々が王様ゲームを用意しました」

 根岸桜芽が恭しく、箱を捧げる。

「ここから封筒を引けばいいのね」


 打ち合わせ通りに印つきの封筒を、

 リオこと野村寿里に手渡す。

「発表します。『1番と5番がロッキーゲーム』

 ロッキーゲームって、何?」

 見え見えのインチキにもかかわらず、クラスがどよめく。

 ロッキーゲームと言えば、

 チョコでコーティングされた棒状のプレッツェルを、

 男女が両側からくわえる、例のアレだ。


「ご、5番と言えば女王様!」

 大袈裟に長島依子がおののく。

「あら、わたくしなの、仕方ありませんわ」


「1番は誰! 女王様がお相手よ!」

 西津悠が周囲に問いかける。

 もちろん相賀晴貴に決まっている。

 ロッキーを小袋から取り出して用意する沼尾柚亜。

『冬海、ナイス!』亜弥は心でガッツポーズ。

 晴貴はというと、ふらりと女王様の前に立つ。


「ロッキーゲーム……。

 やるからには魂、賭けろよ。

 俺は手加減しないぞ」

「おおーっ」

 またもクラスがどよめく。

『あれれ?』冬海は晴貴の態度に、少し不安になる。


「それでは女王様どうぞ」

 根岸桜芽が恭しく、チョコでコーティングされていない部分を、

 女王様にくわえさせる。

 晴貴は沼尾柚亜から、ロッキー1本取り上げて、

 女王様と同じようにくわえる。


『ありゃりゃ、やっぱりおかしいや』

 慌てる冬海を尻目に、

 晴貴はリオに目配せ。

 意味が分からない帰国子女のリオは、ハタと気付く。

 これは日本の伝統武道『口剣道』だ、きっとそうだ。

「両者、礼! 始めっ!」


 晴貴はやる気十分、亜弥も釣られて礼を交わす。

 2本のロッキーの先端がコツンと触れた。

 コツ、コツ。

 静かにロッキーの剣が交わされる。

 亜弥は目を剥いた。

『これは私の知っているロッキーゲームじゃな~い!』

 冬海は焦った。

『いけないわ、これはきっと、あの家族特有の……』

 晴貴は殺気を含んだ目で、

 互いの間合いを計っていたが……。


「ふん、がっ!」

 首をクルリと旋回させると、白刃一閃。

 亜弥のくわえたロッキーを根元からへし折った。

「おおーっ!」

 見守るギャラリーは唸るしかない。

 回転しながら落ちてくる、

 折れたロッキーを晴貴は受け取り、ぽりぽりぽり。

「またつまらぬ物を、切ってしまった」

「おおーっ!」


『なんなのこれは、もう台無し……』

 冬海は頭を抱えるが、五人娘は大喜び。

「次わたし、次わたし」

「ダメー、私が先よ!」

「私もやりたい!」

「ジャンケンしよう、ジャンケン」

「ケンドーボニータ」


「笑止!」


 人垣が割れた。

『今度は何よ……。あっ! お姉様の登場だ』

 冬海は諦めた。亜弥には悪いけれど、

 遥香が現われたら、可哀想だが亜弥に勝ち目はない。

 一度、撤退して態勢を立て直そう。


「……笑止千万。

 か弱き町娘を相手に、何を本気で晴貴の進」

「出たな、遥香の丞、

 ここで会ったが百年目、

 いざ尋常に、勝負! 勝負!」

 三文芝居が始まった。


 遥香はイチゴロッキーを持っていた。

「見よ、西中郷流・桜の聖剣の威力を」

 晴貴も鞄から抹茶ロッキーを取り出した。

「小癪な、この高萩流・緑の魔剣を受けてみよ」

 そこかしこで、シン・ロッキーゲームが始まった。


 おやつに持って来た者は自分のロッキーで、

 機内販売はあっという間に売り切れた。

 機内は一気にロッキーバブル。

 小袋ひとつが高価で取引される。


「冬海姉さん、これどうしたの!」

 長島依子が驚く。

 多賀冬海の持ち込み手荷物はロッキーで一杯だった。

「ええと、ロッキーゲームが盛り上がると思ったから……」

「越後屋さん、我々町民に売って下され!」

 西津悠が芝居を続ける。

 我も我もと、購入希望価格がつり上がる。

「いいわよ、定価で構わないわ……」

「待て、待て、待てい!」

「ああ、これはお奉行様」

 沼尾柚亜が、亜弥を女王から奉行に降格させた。

「その方たち、ロッキー騒動で打ち壊しに及ぶとは不届き千万」

「恐れながら、まだ打ち壊しには及んでいません」

 根岸桜芽が恐縮して言上する。


「そうか、ならば静かに並んで、越後屋から購入せよ」

「じゃあ、みんな、一袋百両で良いわよ……」

「ありがたや、ありがたや」

「待て、越後屋、町人共」

「何でございましょう、お奉行様」

「その方たち、山小屋価格と言うのを知らぬのか?

 ましてやここは雲の上。

 定価で購入とは、いささか甘くはないかのう」

「それではどうすれば良いのでしょうか」

「お上の名において、小袋一つ二百両と定める」

「はは~っ」

「カブキボニータ」

 田舎芝居に、リオが手を叩いて喜ぶ。


『一高生はバカばっかりだ』

 ジャージ姿の骨本勝征は、

 離陸前から狸寝入りを決め込んだ。

 飛行機は苦手、空を飛ぶなんて信じられない。

 トランプもロッキー騒動も素知らぬ振り。

 ロッキーバブルから一転、

 充分な供給を受けて、

 トーナメントが始まったらしい。


 独り喧騒から離れていたが、

 隣の席で小木津亜弥と多賀冬海がヒソヒソ話。

「お奉行様、お陰で金子銀子の雨あられ……」

「なぁに、その方の商才の賜物じゃ」

「いえいえ、お奉行様の口利きあってこそ」

「お主もワルよのう」

「お奉行様こそ……」

 ひとくだり演じてから、二人は素に戻った。


「ごめんね、亜弥、計画通りに行かなかった」

「あの展開では仕方ないわよ、でもありがとう冬海」

「でも、こんなロッキーゲームがあるなんて」

「これって、プロットに使えないかな?」

「こ、これを?」

 冬海は機内の喧騒を見回す。

「うん。一種のバトル物ね。

 口で剣を操る剣士の物語。

 主人公は緑の髪で黒のバンダナ。

 賞金稼ぎの『ろろろろ・ろろ』

 決めセリフは『ロッキーキングに、俺はなる!』

 どうかしら?」

「どうかしらって言われても……」

「旅行中に、ネーム上げておいて」

「う~ん……」


 長島依子が骨本を呼びに来た。

「ポンコツ君、出番だよ!」

 堂々とポンコツって呼ぶな。


 寝たフリを続ける。

 西津悠が頬を叩く。

「熟睡しているみたいだよ」


 沼尾柚亜が大声で伝える。

「ポンコツ君、不戦敗!」


 根岸桜芽が事務的に呼ぶ。

「書道部、ここに墨持って来て」

 一体何をする気だ?


 固く目を閉じたままなので様子が分からない。

 リオが筆にたっぷり墨を含ませる。

「ポンコツ君、動かないから書き易い」

 顔中に落書きされているようだ。

『本当に、一高生はバカばっかりだ!』


 琉球空港では、Jリーグとプロ野球の、

 キャンプ取材に訪れた西中郷素衣とばったり。

 顔中墨だらけの異様な集団に、

 最先端の日焼け止めかと大笑い。

 話を聞いて、初代ロッキークイーンの血が騒ぐ。

 どうやら珍ゲームの発祥は、西中郷と高萩らしい。

 自由行動時間に落ち合う事を約束して、

 遥香と晴貴は観光バスに。



 修学旅行、2日目の夜。

 シン・ロッキーゲームが大流行。

 学年トーナメントの5組予選。

 開催を記念して、エキジビションマッチ。


「15秒は15番!」

 長島依子が数学教師の真似をする。

 腕時計の示す秒数を出席番号に見立てて、

 問題を解かせる生徒を指名する名物教師の真似だ。

 出席番号15番の多賀冬海が前に出る。


「多賀さんの対戦相手は誰でしょうか……」

 西津悠が周囲に問いかける。

 秒数を予想させないための時間稼ぎトーク。


「それでは、今度は私の時計で……」

 沼尾柚亜が自分の腕時計を掲げる。

「49秒は……」

『イチバーン!』

 クラス中が数学教師の真似をする。

 存在しない出席番号の場合は、1番が犠牲になる。

 もちろん相賀晴貴に決まっている。


「ロッキーマスターの相賀君です!」

 根岸桜芽がロッキーを冬海にくわえさせる。

 晴貴はというと、ふらりと冬海の前に立った。

 ロッキーを渡そうとするが晴貴は受け取らない。


 琉球空港で西中郷と遥香に教えられた。

 世の中には、別のロッキーゲームがあるなんて、

 今度は間違えないぞ。


 晴貴は冬海のくわえたロッキーの先端をくわえる。

 亜弥は目を剥いた。

『これこそ私の望んだロッキーゲームじゃない!』

 冬海は焦った。

『いけないわ、亜弥になんて言えばいいの……』

 晴貴の顔が異様に近い。


 晴貴は審判役の野村寿里に横目で合図。

 小首を傾げた帰国子女のリオは声を掛ける、

「両者、礼!」

 動けない二人の代わりに、ぴょこんと礼をする。

「始めっ!」


 晴貴は目礼、冬海は目をパチクリ。

『ありゃ? これってどうやって勝敗を決めるんだ……』

 晴貴は遥香にちゃんと訊いておけばよかったと悔やむ、

 しかし、この戦いに後退はない。

『一種のチキンゲームかな?』

 ならば、ポリ、ポリ。

「おおーっ!」

 見守るギャラリーは唸るしかない。


 ポリ、ポリ、ポリ……。

「おおーっ!」


 ポリ、ポリ……。

 五人娘は目を白黒。

「だ、だめ~!」

「きゃ~!」

「ひゃ~!」

「ぴゃ~!」

「エウタンベンイスタバベイジャーハルキ!」


 ……CHU!

 冬海は昇天、いや、卒倒した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ